上 下
12 / 153

柚奈は赤くなる

しおりを挟む
 翔子は真剣な表情で話し始めた。二人は翔子の方を向き、口を閉じ話を聞いた。同じく葵も空中で正座をし、話を聞いた。

「敵じゃが、奴らの名は『守護霊使い狩りガイストカサドル』じゃ。略すとGCRじゃ。GCRは守護霊使いを捕獲し、その魂を奪い、悪霊に食らわせる奴らだ。何を企んでいるかはまだ掴めておらんが、数は多く、強敵じゃ。今までわしらの仲間が何人やられたか……」
「ふざけやがって! 絶対に許せない。人の命を利用して勝手なことを」

 翔子の説明に怜は息が詰まるような思いだった。まだ話は続いた。

「それで奴らは守護霊使いの魂が必要なのじゃ。しかし、守護霊使いは数少ないため、高値で取り引きされるらしいのじゃ。今では守護霊使いの魂が手に入らない為、一般の人の魂も狙っておる。そこでお主にはわしらと一緒に戦って欲しいのじゃ。上手くいけば葵の魂の居場所も分かるかもしれん」

 怜は拳を握りしめ、怒っていた。その様子を葵は心配そうに見ていた。怜は立ち上がり言った。

「俺やるよ! だってそんな奴ら放ったらかしにできないぜ。仮にもし葵ちゃんの魂が食われていた場合はどうなるんだ?」
「安心するのじゃ。魂が食われようとそんな簡単に魂は失われん。魂を食らった悪霊さえ退治できれば、助けられるのじゃ」

 怜は安堵し、息を吐いた。葵も安心し、空中で楽な姿勢になってプカプカ浮いた。柚奈もホッとし怜に話しかけた。

「良かったですね先輩。これから頑張りましょう。あ、もう10時になりましたね。私先にお風呂に入ってきます」
「お、おう」

 柚奈は立ち上がり風呂場に向かった。怜は帰ろうと立ち上がると、翔子が話しかけた。

「怜よ。帰るのか? 今日はもう遅い。明日は休みなんじゃ。泊まっていきなさい」
「えぇ~! そんな女子の家に男子が……。ではお言葉に甘えて」
「しかし、変な真似をしてみよ、お主の命は無いと思うのじゃの」
(このロリ忍者。ワンチャン敵より恐ろしいぞ)

 翔子は怜を部屋に案内した。バスタオルとバスローブを渡され、柚奈が出るのを待った。葵は部屋で人魂になって眠った。一方豊姫は窓から見える星を眺めていた。数分後柚奈の声がした。

「先輩~、お先です。入っていいですよー。私はリビングにいるので絶対に開けないでくださいね」
「あいよ」

 どんな姿をしているか気になった怜だが、さすがに命と引き換えにできないと思い、渋々お風呂場に向かった。汚れた制服を脱ぎ、風呂に入った。

「あー、極楽極楽。イヤー今日はボコボコにされて身体中痛いから、これは効くなー」

 風呂場で怜は疲れを癒し、汗を流したのであった。風呂を後にすると右足が痛んだ。
 聞きたいことを思い出し、怜はバスローブに着替え、髪を乾かした。乾かし終わると怜はリビングに向かった。怜は一度立ち止まりリビングの前で、柚奈がいるかどうか聞いた。

「お風呂でたぜー。入ってもいいかー?」
「良いぞ。柚奈なら部屋に戻ったのじゃ」

 怜はリビングの扉を開け、翔子に質問した。

「なぁー、前に右足に大怪我を負っているはずなんだけど、さっきは痛くなかったのに今は少し痛むんだよね。これってなんか霊的な能力に関係あるの?」
「そうじゃの~、確か守護霊使いになると守護霊自体とつながることになるから葵には何か特別な力があるんじゃ無いかの。詳しくはわからんのじゃが」

 怜は不思議に思ったが、今日は休もうと自分の寝室に戻った。寝室の前に立つとなにやら甘い匂いがした。吸い寄せられるようにドアを開けるとそこには下着姿の柚奈がいた。下着はブラジャーで赤色で統一されていたが、左肩の紐は緩んでおり、少し解けていた。柚奈のBとCの間くらいの胸が少し見えた。
柚奈は顔を赤くし、胸を両手で押さえて、怜を睨みつけた。

「変態!! とうとうやりましたね! もう私許しませんから」
「いやいや! ここ俺の部屋だからー」

 柚奈は怒鳴り、怜の話を聞かず、力一杯握りしめ怜の顔面を殴った。
 怜は殴り飛ばされ、部屋の外に飛ばされた。
 柚奈はドアを強く閉め、ベットに入った。怜は目を回し、倒れた。柚奈の叫びに翔子が駆けつけた。怜の姿を見て翔子は優しく声をかけた。

「ドンマイじゃ」

 翔子は怜は引きずり新しい部屋に入れた。怜はその日目を回しながら夢の中に行った。
 一方リビングでは翔子と豊姫が話をしていた。星を眺める豊姫に翔子は椅子に座り話した。

「豊姫よ。わしがここに来て1年が経った。色々奴らを探り、尻尾は捕まえる事は出来なかったのじゃが、ある目的じゃが、わしは予想がついた」
「目的ね~。奴らの仲間に私と同じ守護神がいるからやりづらいのよね~。まぁでも私は柚ちゃんと一緒にボコしちゃうけどね」

 豊姫は自信満々な表情で答えた。だが、翔子はGCRの目的の規模の大きさに焦りを感じていた。また翔子は話し始めた。

「目的じゃが、多分奴らは日本政府を恨んでおる。今の日本は大きな借金に加え、経済が不景気じゃ。それによって奴ら自身も就職できなかったり、起業しても借金が増えていくだけの未来しか見えてこないのじゃ。そこで奴らはGCRを作り、今は日本のリセットを目的にしているとわしは予想しているのじゃ」
「うーん。確かに奴らなら考えそうな事だけど~、そもそもどうやってやるの? リセットしたところで、借金は無くならないし、お金が増える保証はどこにも無いんだけどねー」

 豊姫はGCRの頭のいかれ具合に呆れていた。しかし、二人ともワンチャン本気でGCRが目的を達成してしまうことを考えると、日本の崩壊が頭の中で描かれた。最後に翔子は青ざめた顔で話した。

「最後にいいかの……。わしは忍者として約1年奴らを見張ってきたが、逆にわしの尻尾が掴まれそうになった時もあったのじゃ、そして怜を助けようとあの蛇を倒した時じゃ。わしのカラスが1羽奪われてしまったのじゃ」
「!? てことは翔子ちゃんまずくない!? もう近々襲われる危険性があるってことだよね」

 心配する豊姫に対し、翔子はマスクを外し、笑顔で話した。

「大丈夫じゃ。わしなら勝てる。まぁ心配するでない、柚奈たちには指一本触れさせんぞ」

 心配をかけないよう翔子は不安を隠し、明るく接し、お風呂に入った。豊姫はその気持ちに気付けなかった。
 その晩、翔子は暗闇に包まれた街に出た。深夜3時に翔子は悪霊の気配を感じ取ったのだ。
 誰もいない商店街の方に行くと、悪霊の気配がどんどん強くなっていった。そして、次の瞬間、翔子の後ろから悪霊が襲いかかってきた。
 翔子は持ち前の素早さを生かし、余裕で攻撃を避けた。よく見ると悪霊は3霊いた。体はコウモリで、顔だけが人間だった。白目を向いた女性や男性、老人の顔をしていた。
 悪霊は羽を羽ばたかせ、翔子に追い打ちをかけるように襲いかかった。しかし、翔子には全くきかず、全て避けられてしまった。
 そして次の瞬間には3霊全ての悪霊は心臓の部分に刃物が刺さった跡があり、出血し、倒れた。
 翔子が手を挙げ、合図をすると、カラスたちが悪霊を喰い、煤になっていった。ため息をつき、翔子は夜空を見つめた。

「だんだん数が多くなってきたのー、そろそろ”やつ”もきそうじゃの」

翔子は独り言をボソッというと、夜空に輝く月を眺めながら帰った。
しおりを挟む

処理中です...