子檀嶺城始末―こまゆみじょうしまつ―

神光寺かをり

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くすりがゆ

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 悟円ごえんぼうは「丸薬」を合わせて五つほど作っていた。
 これを「一人一錠ずつ」渡しては十人全員に行き渡らないが、

「しからばかゆに煮込みましょう。
 丸薬を煮溶かしたものを皆で食しませば、幾分か効能は薄くなりますが、皆に行き渡り申す。
 これ、てん殿、典座殿はいずこじゃ」

 典座とは、寺で炊事を担当する者の役職名である。
 掘っ立て小屋の城にはそんな大した役職名で呼べる者などいないが、強いて言うなら、他の誰よりも巧く飯や粥を炊ける痩せ男がそれに当たるだろう。
 悟円坊はその飯炊き係に五粒の「丸薬」を渡した。
 飯炊きはまず丸薬の匂いを嗅いだ。それから、ほんの少し欠いて口に含んで、小さく笑み、うなづいた。
 そもそも薬草を味噌と混ぜ固めたものである「丸薬」の味は、調味料としても具材としても悪くないものであったようだ。
 五つの「丸薬」が、一度に鍋へ投げ入れられた。

 やがて、できあがったのは、薬臭いが味噌の匂いのするうまそうな粥だった。
 再度「毒見」を済ませた飯炊きが、かしこまって四郎兵衛へ粥椀を捧げ、

「これは中々によき味でございますぞ」

 などと「申し上げたてまつった」その粥は、実際、良い味に仕上がっていた。
 兵糧の蓄えが尽きかけていたものであるから、ここ数日は白粥ばかり食べていたの面々は、味噌の香気に引き寄せられ、のそのそと鍋の周りに集まってきた。

 皆々の椀に粥が注がれた。
 四郎兵衛が先陣を切ってすすった。

「これは美味うまい!」

 味噌の味も良いが、薬草の風味もまた一味となっている。

「さあ、お前達おいだれも喰え! 遠慮などするな!」

 四郎兵衛が言うが早いか、皆が一斉に粥に口を付けた。
 一啜り、二啜りすると、

「美味い、美味い」

 全員が口々に言った。
 皆、美味いものを喰う喜びを感じ、自然と笑顔となり、笑い声が上がる。
 粥はあっという間に食べ尽された。

 空き腹に熱くて美味い粥を流し込んだまゆじょう勢は、一息吐くと、二人ばかりを選んで城外へ放り出した。
 を引いてしまった二名の「寝ずの見張り番」は、背筋を伸ばしての入り口に立った。
 残りの連中は、日が沈むのとほとんど同時に、敷き述べたむしろに転がって眠りについた。


 そして夜が明けた。
 日も高く昇ったころに目覚めた四郎兵衛は、何やら身体に力が湧いてきているように感じたのだった。
 朝寝をしてしまったが、それも含めて、昨晩の薬粥くすりがゆの効き目のうちだと考えた。

『これも和尚のお陰じゃ』

 筵の上で両腕を突き上げて大きく伸びをし、一つ欠伸あくびをした四郎兵衛は、城内を見回した。
 五人ほどの男達が穏やかに寝息を立てている。

『こいつらも疲れ切っているんだ。起こすのもかわいそうだおやげねぇなぁ』

 四郎兵衛は足音をさせぬように歩いた。出入り口の筵も静かに開けた。
 空は高く、青い。
 眩しい日差しと蒸し暑い空気が四郎兵衛の身体にまとわりついた。
 四郎兵衛はもう一度大きく背伸びをし、大欠伸おおあくびをした。
 眠い目をこすりこすり、辺りを見回す。
 猫の額のような本丸曲輪は、しん、と静まりかえっている。
 その様子は、

『どこか、妙な……?』

 なんとなく、どことなく、いつもと違う気がする。
 四郎兵衛は両の掌を自分の頬にたたきつけた。
 乾いた音がした。
 目が覚めた。
 眠気の失せた目を見開いて、再び辺りを見回した。
 そして気付いた。

 いつもなら石を積み上げた塚の前に座っているはずの、

「悟円和尚がらぬ」

 小用にでも立ったのか、と一瞬は思った。だがすぐに、どうやらそうではなさそうだと、四郎兵衛は覚った。覚りたくなかったが、気付いてしまったのだ。

 いつもの朝であれば、塚の前で燃え盛り、良い香りのする煙を立ち上らせている護摩ごまの炎が消えている。
 燃えさしの護摩木ごまぎも、消し炭も、灰も、一切合切、きれいに片付けられている。
 小さな社の前狭い空間は掃き清められており、そこに小さな紙が一枚、小石を重しとして置かれていた。
 四郎兵衛は震える手を伸ばした。紙にはかすれた文字で、

「すまぬ すまぬ」

 とだけ書かれている。
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