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26 ルイーズの怒り①
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※26,27は少し?残酷な描写があります。苦手な方は28まで飛ばして下さい。27は明日昼、28は明日夕方更新します。
テオドリックの告白に、扉の前に立つ私の手は震えた。
侍女のエリーが慰めるように私の手を上から包む。
深呼吸で心を落ち着けようと思うが、沸きあがる感情がある。
テオドリック様への哀れみ。
リリア妃への苛立ち。
エルミナ様への侮蔑。
だが、何よりも自分が可哀想で仕方が無い。
母が、私に申し訳なさを感じていることも知っている。
倒れて眠る私に
「普通の子に産んであげられなくてごめんなさい」
と涙した夜がいくつもあったのを知っている。
父が、こんな私でも人並みに生きられるように、人生をかけて私の道筋を立ててくれたことも知っている。
だから私は死に物狂いで今の自分を手に入れたのだ。
何度も自分の中の前世の記憶を昔の事と落ち着かせ、前世の感情を今の自分に当てはめないように訓練し、小さなこの身体で、巨大で偉大な前世を消化出来るように心と体を鍛えては倒れ、鍛えては倒れ。
その苦労を知らないくせに、エルミナ様が可哀想だと?
リリア妃が可哀想だと?
可哀想な彼女たちを救う、だと?
私は怒りが頂点に達したのを感じた。
パリン、と窓ガラスが1つ割れる。
ビクトリア様が驚いて席を立つ。
テオドリック様も席を立って割れた窓を見つめる。
「何だ?」
飲み込めない状況に困惑しているテオドリック様に向かって、私は大股で歩み寄る。
「お嬢様!」
アニーが声を上ずらせているが、何よりビクトリア様の保護が優先と考えたようだ。
ビクトリア様を扉の方へ避難させる。
「ごきげんよう、テオドリック様」
私は立ち尽くすテオドリック様の目の前まで行くと、髪で隠していた顔を晒してねめつけた。
「お元気そうで何よりですわ」
自分のものとは思えない、低い声が出る。
「ルイーズ!?」
目の前にいる侍女が、数日前に大衆の面前で婚約破棄を言い渡した自分の元婚約者と知って、テオドリック様は声を裏返して私の名を呼んだ。
「はい。ルイーズでございます」
にっこりと笑ってやる。
テオドリック様は頬を引きつらせて、身動き取れないでいる。
私の中のガルガンが怒りに震えていますからね。
殺気を感じているのでしょう。
「テオドリック様のお考えがよく解りましたわ。それで、あなたは可哀想なエルミナ様と結婚して、可愛そうなリリア妃殿下の心をお慰めになるのね?」
私が聞いているのに、テオドリック様は震えるばかりで返事もしない。
綺麗なその額に、ダラダラと汗が流れているのが見て取れる。
「お返事くらいなさって下さいな」
返答を迫るが、テオドリック様はガクガクと震えるだけで、何も言ってくれない。
まあ、私、今、テオドリック様の心臓をこの手で掴んでいるイメージを頭に描いておりますからね。このイメージがどのようにテオドリック様自身に影響しているかは責任取れません。なんせ、ガルガン狂戦士ですから。
「・・・! ・・・!」
テオドリック様、お声が出ないようです。苦しそうに床に膝をつく。
心臓を握り込まれちゃ、仕方ないですよね。
でも、私の怒りは治まらない。
「よくも単純な甘言に乗せられて、私を裏切ってくれましたね。」
私はグイっとテオドリック様の髪を掴んで上を向かせ、無理やり視線を合わせた。
そして目に力を込めて言った。
「だけど、一番可哀想なのは私です」
私は言葉と当時に頭の中でイメージされたテオドリック様の心臓を握りつぶした。
くるん、白目を剥いてテオドリック様が倒れる。
口から泡を吹いているが放っておく。
死んではいない事を知っている。
だが、テオドリック様の記憶には、確実に私が心臓を握りつした感覚が刻まれたであろう。
ざまを見ろ。
ビクトリア様も侍女たちも、無言で私を見守る。
怖がらせてごめんなさいね。でも、もう一つだけ、やることがあるのだ。
私は音も無く壁の一角に近付いた。
狙いを定めて拳を壁に叩きつける。
ドゴッと鈍い音がして、壁に穴が開くと、私は壁の向こう側の人間の胸倉を掴んで引き寄せた。
「ずっと聞き耳を立てていたのを知っていますよ。エルミナ様」
テオドリックの告白に、扉の前に立つ私の手は震えた。
侍女のエリーが慰めるように私の手を上から包む。
深呼吸で心を落ち着けようと思うが、沸きあがる感情がある。
テオドリック様への哀れみ。
リリア妃への苛立ち。
エルミナ様への侮蔑。
だが、何よりも自分が可哀想で仕方が無い。
母が、私に申し訳なさを感じていることも知っている。
倒れて眠る私に
「普通の子に産んであげられなくてごめんなさい」
と涙した夜がいくつもあったのを知っている。
父が、こんな私でも人並みに生きられるように、人生をかけて私の道筋を立ててくれたことも知っている。
だから私は死に物狂いで今の自分を手に入れたのだ。
何度も自分の中の前世の記憶を昔の事と落ち着かせ、前世の感情を今の自分に当てはめないように訓練し、小さなこの身体で、巨大で偉大な前世を消化出来るように心と体を鍛えては倒れ、鍛えては倒れ。
その苦労を知らないくせに、エルミナ様が可哀想だと?
リリア妃が可哀想だと?
可哀想な彼女たちを救う、だと?
私は怒りが頂点に達したのを感じた。
パリン、と窓ガラスが1つ割れる。
ビクトリア様が驚いて席を立つ。
テオドリック様も席を立って割れた窓を見つめる。
「何だ?」
飲み込めない状況に困惑しているテオドリック様に向かって、私は大股で歩み寄る。
「お嬢様!」
アニーが声を上ずらせているが、何よりビクトリア様の保護が優先と考えたようだ。
ビクトリア様を扉の方へ避難させる。
「ごきげんよう、テオドリック様」
私は立ち尽くすテオドリック様の目の前まで行くと、髪で隠していた顔を晒してねめつけた。
「お元気そうで何よりですわ」
自分のものとは思えない、低い声が出る。
「ルイーズ!?」
目の前にいる侍女が、数日前に大衆の面前で婚約破棄を言い渡した自分の元婚約者と知って、テオドリック様は声を裏返して私の名を呼んだ。
「はい。ルイーズでございます」
にっこりと笑ってやる。
テオドリック様は頬を引きつらせて、身動き取れないでいる。
私の中のガルガンが怒りに震えていますからね。
殺気を感じているのでしょう。
「テオドリック様のお考えがよく解りましたわ。それで、あなたは可哀想なエルミナ様と結婚して、可愛そうなリリア妃殿下の心をお慰めになるのね?」
私が聞いているのに、テオドリック様は震えるばかりで返事もしない。
綺麗なその額に、ダラダラと汗が流れているのが見て取れる。
「お返事くらいなさって下さいな」
返答を迫るが、テオドリック様はガクガクと震えるだけで、何も言ってくれない。
まあ、私、今、テオドリック様の心臓をこの手で掴んでいるイメージを頭に描いておりますからね。このイメージがどのようにテオドリック様自身に影響しているかは責任取れません。なんせ、ガルガン狂戦士ですから。
「・・・! ・・・!」
テオドリック様、お声が出ないようです。苦しそうに床に膝をつく。
心臓を握り込まれちゃ、仕方ないですよね。
でも、私の怒りは治まらない。
「よくも単純な甘言に乗せられて、私を裏切ってくれましたね。」
私はグイっとテオドリック様の髪を掴んで上を向かせ、無理やり視線を合わせた。
そして目に力を込めて言った。
「だけど、一番可哀想なのは私です」
私は言葉と当時に頭の中でイメージされたテオドリック様の心臓を握りつぶした。
くるん、白目を剥いてテオドリック様が倒れる。
口から泡を吹いているが放っておく。
死んではいない事を知っている。
だが、テオドリック様の記憶には、確実に私が心臓を握りつした感覚が刻まれたであろう。
ざまを見ろ。
ビクトリア様も侍女たちも、無言で私を見守る。
怖がらせてごめんなさいね。でも、もう一つだけ、やることがあるのだ。
私は音も無く壁の一角に近付いた。
狙いを定めて拳を壁に叩きつける。
ドゴッと鈍い音がして、壁に穴が開くと、私は壁の向こう側の人間の胸倉を掴んで引き寄せた。
「ずっと聞き耳を立てていたのを知っていますよ。エルミナ様」
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