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27 ルイーズの怒り②
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※27も引き続き少し?残酷な描写があります。苦手な方は28まで飛ばして下さい。28は今日夕方更新します。
壁の向こうから「ひっ!」という声が聞こえる。
エルミナ様は逃げようともがくが、私は掴んだ服を離さず更にぐいぐいと引き寄せる。
壁に吸い付くような形になったエルミナ様は、ご自身の服に拘束されて身動きが取れなくなった。
「可哀想なエルミナ様。ねぇ私、あなたに何かしましたっけ?」
私は話しかけながら空いている手で壁をべりべりと崩し、エルミナ様の表情が見えるように穴を広げる。
お話する時はちゃんをお顔を見て、目を合わせてしなければなりませんからね。
「し、っし、していません!」
エルミナ様は言う。
私は顔を更に近づけて、エルミナ様の目を見た。その距離、僅か拳一つ分だ。
「あら、おかしいですわね。なら何故エルミナ様は私をそんなに憎いのかしら?」
「ごっ、ごめんなさい! ごめんなさい!」
エルミナ様は必死に両手で壁を押して私から離れようと頑張る。
だが、私の細腕は馬鹿力を発揮し、エルミナ様一人を片手で押さえつけるのに何の苦労も感じない。なんせ、ガルガン狂戦士ですから。
「ならば、それは逆恨みではなくて?」
エルミナ様の目を見て私は眼力を発揮する。
するとエルミナ様は両目をぎゅうっとつぶった。
「い、痛いです。頭が! 痛い! やめて!」
目の前で年上の美しい女性はパニックを起こしている。
ふうん、眼力込めると脳みそに作用するのね。
私は冷静にエルミナが狂ったようにもがくのを見つめた。
「エルミナ様。あなた、ご自分がヴァレリー王太子殿下の正妃に選ばれなかったのは何故だとお思い?」
私はエルミナ様の傷を抉る。
本気でお好きだったのでしょうね。
そして一国のお妃になる事を夢見ていた。
ご自分の生まれ落ちた地位、名誉、そして容姿。全てに恵まれて、王妃になるのは容易いと思っていたことだろう。
「ル、ルルヴァル王国との関係修復を、王が、優先なさったからっっ!!」
苦しそうにエルミナ様は言う。
だがそれは間違っている。
「お可哀想に、エルミナ様。あなたはそう思っていた方が幸せだったかも知れませんね。でも、間違っています。エルミナ様が正妃として婚約者に選ばれなかったのはね」
私は胸倉を掴む手にさらに力を込めて、エルミナ様を引き寄せた。
「エルミナ様がこんなにお馬鹿だって、皆さま気付いていらしたからよ」
可愛そうなエルミナ様に本当の事を教えてやる。
王も王妃もヴァレリー王太子も、エルミナ様の単純で流されやすく、考えに芯が無い、物事を深く掘り下げて考えられない性質を、とっくに見抜いていたのだ。
「だから、幼いながらも賢いルルヴァル王国の公女が選ばれた。ただ、それだけの事よ」
私はご自分の馬鹿さを棚に上げて、私の弱みを盛りに盛って吹聴したエルミナ様へ、怒りを眼力に込めて言ってやった。
「お可哀想にね、エルミナ様」
するとエルミナ様もくるん、と白目を剥いて気絶してしまった。
脱力して重くなったエルミナ様の胸倉を離す。
壁の穴の向こうから、どしゃり、とエルミナ様が床に崩れ落ちる音がした。
脳みその無事は保証できないが、気を失っただけで死んではいない。
「ふん、二人とも、少しはご自分の浅はかを反省すればいいのだわ」
私はパンパンと手を叩いて埃を払う。
壁を壊してしまいましたから。
壁を、壊す?
「あああ~! なんて事を! ビクトリア様、ごめんなさい!!」
私は扉の前に避難して一言も発しなかったビクトリア様に詫びる。
「い、いいのよ。気にしないで」
緊迫した復讐劇が終わり、ビクトリアはやっと息が出来るようになった。
すー、はー、と深呼吸する。
私も王家の人間なので聞いてはいた。
だが、ルイーズの特殊性をこの目で見たのは初めてだった。
ルイーズがルイーズで無いようで怖かった。
だが。
「あああ~! なんて事を! ビクトリア様、ごめんなさい!! 壁、すぐに修理を頼みますわね。ちゃんと弁償しますから!」
ルイーズが壊れた壁の前で涙目になっている。
「そっちか~い」
ビクトリアは小さく突っ込みを入れる。
本気で怖かったのに。
先程の鬼神が降臨したのかと思わせる迫力はどこへ行ってしまったのか、ルイーズはか細い手で、必死に壊した壁の残骸を端っこに寄せている。
さて、ぶっ倒れてしまった我が家お預かりのお二人はどうすべきかしらね。
出来ればこの面会は内密に終わらせたかったのだが、こうなっては無理かもしれない。
考えを巡らせていると、
「ルイーズお嬢様!」
と侍女の叫び声がして、ルイーズがばったりと壊れた壁の前に倒れてしまった。
うーん、聞いていた通り。
感情の発露でキャパを超えたルイーズは疲れて眠ってしまったようだ。
女手では倒れた三人に対処するのは無理だろう。
壁も壊れているし。
ビクトリアは諦めて警備兵を呼ぶのだった。
壁の向こうから「ひっ!」という声が聞こえる。
エルミナ様は逃げようともがくが、私は掴んだ服を離さず更にぐいぐいと引き寄せる。
壁に吸い付くような形になったエルミナ様は、ご自身の服に拘束されて身動きが取れなくなった。
「可哀想なエルミナ様。ねぇ私、あなたに何かしましたっけ?」
私は話しかけながら空いている手で壁をべりべりと崩し、エルミナ様の表情が見えるように穴を広げる。
お話する時はちゃんをお顔を見て、目を合わせてしなければなりませんからね。
「し、っし、していません!」
エルミナ様は言う。
私は顔を更に近づけて、エルミナ様の目を見た。その距離、僅か拳一つ分だ。
「あら、おかしいですわね。なら何故エルミナ様は私をそんなに憎いのかしら?」
「ごっ、ごめんなさい! ごめんなさい!」
エルミナ様は必死に両手で壁を押して私から離れようと頑張る。
だが、私の細腕は馬鹿力を発揮し、エルミナ様一人を片手で押さえつけるのに何の苦労も感じない。なんせ、ガルガン狂戦士ですから。
「ならば、それは逆恨みではなくて?」
エルミナ様の目を見て私は眼力を発揮する。
するとエルミナ様は両目をぎゅうっとつぶった。
「い、痛いです。頭が! 痛い! やめて!」
目の前で年上の美しい女性はパニックを起こしている。
ふうん、眼力込めると脳みそに作用するのね。
私は冷静にエルミナが狂ったようにもがくのを見つめた。
「エルミナ様。あなた、ご自分がヴァレリー王太子殿下の正妃に選ばれなかったのは何故だとお思い?」
私はエルミナ様の傷を抉る。
本気でお好きだったのでしょうね。
そして一国のお妃になる事を夢見ていた。
ご自分の生まれ落ちた地位、名誉、そして容姿。全てに恵まれて、王妃になるのは容易いと思っていたことだろう。
「ル、ルルヴァル王国との関係修復を、王が、優先なさったからっっ!!」
苦しそうにエルミナ様は言う。
だがそれは間違っている。
「お可哀想に、エルミナ様。あなたはそう思っていた方が幸せだったかも知れませんね。でも、間違っています。エルミナ様が正妃として婚約者に選ばれなかったのはね」
私は胸倉を掴む手にさらに力を込めて、エルミナ様を引き寄せた。
「エルミナ様がこんなにお馬鹿だって、皆さま気付いていらしたからよ」
可愛そうなエルミナ様に本当の事を教えてやる。
王も王妃もヴァレリー王太子も、エルミナ様の単純で流されやすく、考えに芯が無い、物事を深く掘り下げて考えられない性質を、とっくに見抜いていたのだ。
「だから、幼いながらも賢いルルヴァル王国の公女が選ばれた。ただ、それだけの事よ」
私はご自分の馬鹿さを棚に上げて、私の弱みを盛りに盛って吹聴したエルミナ様へ、怒りを眼力に込めて言ってやった。
「お可哀想にね、エルミナ様」
するとエルミナ様もくるん、と白目を剥いて気絶してしまった。
脱力して重くなったエルミナ様の胸倉を離す。
壁の穴の向こうから、どしゃり、とエルミナ様が床に崩れ落ちる音がした。
脳みその無事は保証できないが、気を失っただけで死んではいない。
「ふん、二人とも、少しはご自分の浅はかを反省すればいいのだわ」
私はパンパンと手を叩いて埃を払う。
壁を壊してしまいましたから。
壁を、壊す?
「あああ~! なんて事を! ビクトリア様、ごめんなさい!!」
私は扉の前に避難して一言も発しなかったビクトリア様に詫びる。
「い、いいのよ。気にしないで」
緊迫した復讐劇が終わり、ビクトリアはやっと息が出来るようになった。
すー、はー、と深呼吸する。
私も王家の人間なので聞いてはいた。
だが、ルイーズの特殊性をこの目で見たのは初めてだった。
ルイーズがルイーズで無いようで怖かった。
だが。
「あああ~! なんて事を! ビクトリア様、ごめんなさい!! 壁、すぐに修理を頼みますわね。ちゃんと弁償しますから!」
ルイーズが壊れた壁の前で涙目になっている。
「そっちか~い」
ビクトリアは小さく突っ込みを入れる。
本気で怖かったのに。
先程の鬼神が降臨したのかと思わせる迫力はどこへ行ってしまったのか、ルイーズはか細い手で、必死に壊した壁の残骸を端っこに寄せている。
さて、ぶっ倒れてしまった我が家お預かりのお二人はどうすべきかしらね。
出来ればこの面会は内密に終わらせたかったのだが、こうなっては無理かもしれない。
考えを巡らせていると、
「ルイーズお嬢様!」
と侍女の叫び声がして、ルイーズがばったりと壊れた壁の前に倒れてしまった。
うーん、聞いていた通り。
感情の発露でキャパを超えたルイーズは疲れて眠ってしまったようだ。
女手では倒れた三人に対処するのは無理だろう。
壁も壊れているし。
ビクトリアは諦めて警備兵を呼ぶのだった。
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