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DAY 1. 幕間

魚の物思い

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 トニ side.

「ああああああああああ!!!!」

 お2人が入っていった寝室から
 あかりさんの叫ぶような声が聞こえて、
 静寂がリビングを包みます。

 あの部屋は防音設備のある部屋ですが、
 あまり、充分な防音ではないようで、
 物件を紹介した身としては
 少々、申し訳ない気が致します。

 かつて、
 私がエロース様に掬い上げて頂く前、
 湖に生きるただの魚であった頃、
 何度か交尾したメスを思い出します。
 赤い可愛いメスでしたが、何度も求愛を・・・

 ガチャッ・・・

「・・ぅー」

 お2人の入った寝室から
 道哉さんがペタペタと裸足で出てきました。

 お2人は土足に慣れないとの事で
 ルームシューズをご購入だったのですが・・

『どうなさいましたか?道哉さん』

「ぉわ!!・・ゴメンゴメン。」

 お声がけすると、道哉さんは驚いたようで
 声を上げましたが、
 キッチンまで行って水を汲み、
 それを片手にソファに腰を下ろします。

「・・先っちょで終わった・・
 あれ多分失敗・・」

『なんのなんの!
 気にすることはありますまい。
 あかりさんの
 卵を産みそうな声が
 聞こえてきましたから・・・』

 ゲボッ!!

 飲みかけた水を鼻から吹いて、
 道哉さんはこちらを見ます。

「卵って・・いや、聞こえたの?」

『ええ、水槽の水が大きく震えるほどでした。
 魚なら良い卵を沢山産みそうでしたね。
 お部屋の防音材の補強を
 家主に依頼しておきましょう』

「あー・・田口には声が聞こえたって言わないで
 ・・下手すると、恥ずかしがって、
 暫くえっちさせて貰えなくなる。」

 あちらの世界の人間の感覚は不思議です。

 あちらの世界にも人間がいるということは、
 人間が交尾しているということで、
 交尾の機会があるのは喜ばしい事で、
 それに伴い快楽が大きく得られるのなら
 それは良いことだと思うのですが、
 エロース様のこの遊戯で出会った人間の内、
 少なくないカップルは交尾していることを
 知られる事すら恥じらうのです。

 もしかしたら、
 私が魚だから分からないのかもしれません。

『では、壁の強度不足による補強だとでも
 言っておきましょう。』

「あぁ、ありがとう。」

 道哉さんは、手に持ったグラスから水を飲むと、
 それはそれは深いため息を吐きました。

『人間は死ぬまでに何度でも交尾をする
 動物じゃあないですか。
 もし、失敗と思われたとしても
 また交尾すれば良いと思いますが・・』

「・・もう、8回目なんだよ・・
 なのにまだ失敗ってなんなんだよぉ!!」

『8回目ですか』

(次は9回目ですね)

 あまり、良い相槌が思い付きません。

「ちゃんと勃つ・・
 いや、自分でもびっくりするくらい
 何度も勃つ時も多い。
 でも、挿れるまでに興奮して、
 終わるまでの時間がめちゃ短い・・・。」

『初めてならそういう事もありますよ。
 私も経験が・・』

「魚の経験を人間に当て嵌められても・・」

 道哉さんは面倒な・・
 いえ、・・繊細なお方です。

「それに俺は初めてじゃない。」

『?』

「田口の前に4人はセックスして、
 少なくとも根っこまで挿れられてた。」

『では、その時と同じ様になされば・・』

「無理だよぉぉ!!」

 人間の間では何事があっても泣かない
 強いオスが好まれるというのですが、
 道哉さんはよく泣きます。

「前は何もしないと勃たなくて、
 勃っちゃえば長持ちだったのに、
 今は何もしなくても勃って、
 擦りもしないのに果てちゃって・・」

『左様ですか・・
 明日、エロース様にお会いする時に
 相談なさってはいかがですか?
 我が主、エロース様は
 少々お戯れが過ぎるところもあるのですが
 愛の神が1柱。
 性や愛、生命の営みに関して
 同情心の厚い神様です。
 素直にご相談なされば
 喜んで解決策を示してくださるでしょう』

「あーー・・うん。考えてみるよ。」

 道哉さんは、苦笑いを浮かべます。

 エロース様は、本当に良い方なのですが
 道哉さんを見ていると恐らく相当に
 揶揄からかわれたのでしょう。

 道哉さんはおもむろに立ち上がりました。

『おやすみですか?』

 挨拶でもしようかと尋ねると
 道哉さんは力無く答えます。

「いや・・最後の最後に勃っちゃって・・
 暫く田口を見なければ萎えるかと思って
 ここに来たんだけど無理みたいだから、
 トイレで抜いてくる。」

 やはり、人間は不思議です。

『番のあかりさんが、
 そちらにおられるのになぜ排泄場所へ?』

「・・・いや、
 今日やっと初めての子に
 睡姦とかしないから・・!」

 意思疎通が叶っても、
 私は所詮、魚に過ぎない様です。
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