【R18】翼神のイタズラ PLAYER No.037 大橋道哉の場合

DAY 2.

エロースの神殿

「気持ち良いですね！」

　髪を靡かせる潮風に
　田口がえくぼをへこませて、ご機嫌だ。

　昨夜、気を失うように眠ってしまった
　田口はちゃんと眠れたようだ。

　・・動けないとか、疲れた
　・・とか言われなくて良かった。

　・・良かったんだが、
　最後の最後に色気に当てられたせいで、
　もう勃たないと思っていた分身が
　勃ち上がってしまった俺は、
　トイレで致した後、
　一晩鬱々とする羽目になった。

（もうずっと早漏だったらどうしよ・・）

「・・あの、大橋君？」
『道哉さん、どうなさいましたか？』

　田口とトニは心配そうに俺を覗き込んだ。

「ゴメン。ちょっと寝不足なだけだから・・」

「そうですか・・
　私、静かにしているので、
　少し眠ってください。」

　俺と田口とトニは家を出て、
　エロースの神殿に向かっている。

　俺達の世界ではエロースの神殿はないらしいが、
　この世界には800年ほど前に
　エロースが信仰を集めた時期があるらしく、
　その時期に建てられた比較的新しい神殿
　・・との事だった。

　神殿に向かうにあたっての足は、
　へーニーという空飛ぶ部屋を使った。
　タクシーの様に一定距離で料金が
　決まる乗り物だが、
　2人以上なら結構安いし、
　運転手のいない自動運転で
　乗車中、ダラダラできる。

　窓を開けると海風が確かに気持ち良い。

　俺は田口の肩を借りて本当に少し眠る事にした。


　ーーー30分後

「ようこそ。
　道哉さん、あかりさん、トニさん」

　比較的新しいとトニが言った神殿は、
　石造りで世界史の教科書で見たような
　古臭い建物だった。

　神殿から出てきた男の人が
　人懐っこい笑顔を向けてくる。

　この人の首にも
　俺達同様にスワンベルトが巻かれている。

『こんにちは、ビオンさん。
　エロース様から10時の拝謁を
　お赦し頂いたのですが、
　待たせて頂いても宜しいでしょうか？』

　トニが田口の肩にかかった
　ポシェット型水槽の中から言うと、
　ビオンという人は丁寧に答える。

「ええ、伺っております。
　あと15分程ありますし、
　水路の前の石椅子をお使いください。」

　ビオンさんの指し示す方には、
　長い水路があり、その前には
　石の小さなベンチが並んでいる。

　ありがたく、ベンチに腰掛けると、
　水路を泳ぐ魚が跳ねた。

「この神殿ってどんな場所なんですか？」
　暇つぶしに田口がトニに尋ねる。

『ここは恋心と性愛の神であるエロース様を
　主祭神として、
　その奥様である心と魂の女神プシュケー様、
　お2人のお子であらせられる
　快楽の女神　ヘードネー様を
　お祭りしております。

　元は恋や愛を叶えたい、
　恋人とより深く愛し合いたいと願う者達が
　願掛けでこの神殿を賑わせておりました。

　エロース様もあのご性格ですから、
　お気に召した人間の愛が叶う様に
　助力なさる事もありました。

　ですが、それも今は昔のこと
　ここに願掛けに来る人々も少なくなり、
　・・恋愛に関わる神々は忘れられ、
　繁殖・出産に関わる神々が讃えられて
　おります。』

　トニの声はやや寂しく聞こえる。

『しかし
　エロース様はより古い時代において、
　最も素晴らしい生命に繋がる愛そのものであり、
　追い求められるべき
　究極の理想でもございました。
　エロース様こそが生命を繋ぐ
　繁殖・出産に繋がる愛であり、
　エロース様を・・愛を・・繁殖や出産から
　切り離すのはどうかと思うのです。

　魚である私は、愛を忘れて
　生命を繋ぐ人間の営みを非難するつもりも
　ございませんが・・
　少々、寂しくも感じるのです。』

　紛れもなく魚のトニの謎な哀愁を聞きながら
　暇な時間が過ぎるのを待つ。

　取り敢えず、
　トニはエロースの熱烈な信者ではあるらしい。

　隣を見ると
　田口が、何やら神妙な面持ちで真剣に聞いてる
　・・魚とこんな話をしている違和感が凄くて、
　俺はあまり話に入り込めないんだが・・
　田口はそうではなさそうだ。

「お三方！どうぞ中へ！」

　ビオンさんに呼ばれて神殿の中に入ると、
　今日はしっかりこの国の
　この時代の街ゆく人達と
　同じような普段着を着たエロースが、
　銀髪美人のお姉さんと
　金髪美人のお姉さんに挟まれて
　共に高いところに腰掛けていた。