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105.逃げるが勝ち sideフレイ
しおりを挟むダラダラと冷や汗か脂汗かよくわかんない汗が身体中から吹き出し流れる。
「……っ」
この僕が人間如きに気圧されるなんてっ!
……って屈辱に腹が立つけど怖いが勝つ! 怒りなんて簡単に塗り替えられちゃうレベルだ。僕がヘタレなわけじゃない。こいつがおかしいんだ!
「フレイ」
「ヒッ!?」
すっごく低い高圧的な声だ。そんな声、ツキさんに向けたらツキさん泣いちゃうよ? もっと僕をツキさんだと思って優しく接してよ!
……もう「怖い」の二文字ばかりが頭の中に浮かぶ。その「怖い」を必死に押しやり、僕はこの危機を打破する方法を考えた。
もう一度気配と姿を消して逃げる? ……ダメ。秒で見つかる気しかしない。じゃあ転移で移動すれば? ……なんか転移する前に捕まりそう。転移をする時に誰かが触れていればその人も一緒に連れて行っちゃうからな……。ここでラックも連れて飛べば本末転倒、結局僕は捕まることになる。ならラックは今、足を横穴にかけて短剣片手に壁に引っ付いてる状態だ。この足を蹴落とせばラック落ちちゃうんじゃ……あれ? そうなる前に僕が地面に叩きつけられる想像しかできない。なんでだろ? あーーーもう!! ほんとどうしよ!? どうにかしてこの怒りを――あ!
「さっきのはどういう――」
「はいこれ!!」
ラックの言葉を遮り、レーラから預かっていた手紙を渡す。丁度いい時に思い出した。手紙には僕がここにいる経緯やレーラがツキさんを囮にしたことが書いてある。なら、この手紙を呼んで、そのまま抱いた怒りをレーラに向けてもらおう。
「…………」
ラックはピクリと片眉を動かした後、僕から手紙を受け取ると器用に片手で手紙を開き読み始めた。
怒っていてもこういうところは冷静だ。だけど、手紙を読み出したということは必然的にラックは僕から目を離すことになったということ。さっきみたいに僕一人に意識を集中させている状態ならまだしも、手紙にも意識を向けるとなれば当然隙が生まれる。
ふふ、後はこの隙に逃げるだ――ってあれ? なんかこれも逃げられる気がしないな? それになんだろう? また身体が震えてき――っ!?
「……っひ! ガクブルガクブルッッ」
ラックが手紙を読み進めていくにつれてどんどん周囲の圧が重く、温度もどんどん下がっていく。そこでふと思った。
……レーラに怒りの矛先向かっちゃえって思ったけど、これもしかしてレーラへの怒り込みで僕の元に帰ってくるんじゃない?
計画し、実行しているのはレーラだけど、その怒りを向けるべき人物は今ここにはいない。ならこのとてつもない怒りは今ここにいる共犯者の僕だけに向けられるんじゃ……
「っっ!!」
っもう気がしないとか関係なく早く逃げないと。やっぱり今しかチャンスはない!!
「……」
意気込む心とは裏腹に、恐る恐る上目遣いでラックを見上げた。おかしいな、気持ちと行動が合わない。
……大丈夫だよ僕。相手はたかだか人間一人。何を怖がってるの? さっさと逃げよう、すぐ逃げよう。よし。三、二、一で行こうか。じゃあいくよ? 三、二、いっ――
「ッフレイ、今すぐ俺達をツキの元に連れて行け!!」
「うぇ!? わっ!?」
集中していたところに、急にラックが大声なんか出すものだからバランスを崩してラックを残し、僕だけ横穴から落ちていってしまう。
でも結果オーライ!!
「うおっ!?」
「フレイちゃん!?」
「ッ待てフレイ!!」
「やだよ!」
そう言って僕は転移で別の場所へと飛んだ。飛んだ先はさっきまでいた鍾乳洞の入口。
焦ってたから意外に近くに飛んじゃったよ。まぁあの場から脱出できただけでもよしとしよう。
「ふふ。ラック達悔しがってるかな~♪」
その場でラック達を『視』る。本当ならすぐにでもここから離れた方がいいとは思うけれど、ラック達の悔しがっている顔が見たかった。僕はあの殺気に満ちた空間から無事に生還を果たしたんだ。達成感は大きい。その報酬があってもいいだろう。
『くそッ!! あの野郎っ、逃げられた! すぐ追いかけるぞ!!』
ふふ。ラックの奴キレてるキレてる。
『ボス!』
『なんだ!!』
『爆弾どうする!?』
あ、そういえばそうだった。
あの広間には、入って一定の魔力量を感知すれば爆発する魔道具型の爆弾が仕掛けられていた。たぶん、それを見つけたんだと思う。バーカルはこの偽アジトごとラック達を潰そうとしていたみたいだ。思いっきりがいいよね。
ふふ、ラックの奴どうするのかな~。ツキさんもピンチだし、すっごく慌てふためいて爆弾を解除しようとするんだろうな~。
『は!? んなもんレトがとっくに解除しに行ってんだろ!!』
『おお?』
「…………」
その言葉に思い返してみれば、あの落ちた時に下に集まっていた連中の中にレトがいなかったような気がする。レトを『視』てみるとやりきった顔をして額の汗を拭っていた。どうやらもう解除が終わったらしい。
……どうしてわかったの? いや、洞窟に入る前に罠を探知してたって言ってたし当たり前なのかな? でも、そこまで精密にわかるもの? ……そういえばあの広間にラック達がやって来た時から一切魔力を感じなかったし、「爆弾だ! どうする?」じゃなくて「爆弾どうする?」の言葉から最初っからあそこに爆弾があることはわかってたんだ。
「…………あれ? でも……」
この世界に生きるもの全て、多少なりとも魔力を有し、内包される魔力が身から滲み出しているものだ。だからあれだけ人が集まっていれば爆発してもおかしくなかった。なのにそれを作動させずに無力化するなんて……。この僕があいつらの存在を気づけず、爆弾も作用されないほど完璧に自分の魔力を隠すってあいつら何者なわけ? そっか、それ以前にこの広い洞窟内の罠全部を探知するって普通の人間には魔力もたなくてできないし、もうおかしいことだらけじゃん。
「…………っもう!! やっぱラックも他の連中も意味わかんない!!」
『よし! よくやったなレト!』
『流石だな!』
『うっせぇッ! んなことよりツキだ!!』
レトを持て囃す連中を、上からドンっと飛び降りたラックが一喝した。そうしてその場にいた連中はハッとしたように、今度はどういうことだと騒ぎはじめた。
『そうだ坊ちゃんツキがどうしたって!?』
『やべぇ! どういうことだよ散々守って(貞操を)きたのに!! 変態に襲われてるって!』
『ツキが汚されるのか!? やべ!!!?!?』
『うるせぇ三馬鹿!! あのクソ女とクソガキ、ツキを囮に使いやがったんだよ!!! たぶんバーカルに捕まってる!!』
『『『『『はぁ!?!?!?』』』』』
『今すぐツキんとこ行くぞ! フレイは見つけ次第吊し上げろ!!!』
『『『『よっしゃぁ!!』』』』
「……」
ラックの言葉に、全員目をギラギラとさせ、敵が見れば漏らしてしまうんじゃないのかと思うほどの怒りと闘志をその背に燃え上がらせ動き始めた。
…………。
『……フレイの野郎……ぜってぇ許さねぇ』
「…………」ヒュン
ラックのその言葉を最後に、僕はまた転移を使ってその場から消えた。
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