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106.あの子が来ない    過去①

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 ……あの子が来ない……。


 迎えに来るって言ったのに来ない。やっぱりぼくのこと、嫌いになっちゃったのかな……?


「……」


 一人、真っ暗な土の中で落ち込んだ。


 ここはどこかの森の中。地面の中に掘られた空間。ぼくのためだけに作られたお家。湿った地面が冷たい。壁にはいくつもの蔓草が伸びて、岩の隙間からは所々雑草が生えている。ううん、雑草じゃない、今のぼくにはすごく大切なご飯だもん。


 このお家はもうあちこちボロボロで、何かあるたびにはらはら上から土や小石が落ちてくる。すでに少し崩れているところもあるからいつ全部が崩れ落ちてきてしまうかビクビクしてしまう。


 でも、そのボロボロさのおかげで天井の壁の端っこに隙間ができて暗い土の中でも上を向けば朝には小さな光がさしてくれるから嬉しい。運が良ければお月様も見えるの。手を飛ばしても届かないのは残念だけど……。


 そんな残念な場所にぼくはもう二年も一人ぼっち。だいたいで数えてるからあってるのかはわからないけど、たぶんそれくらい。初めは何日か分のご飯をここにポイってして帰って行っちゃう人がいた。男の人や女の人やよく人は変わっていたけど、ぼくはご飯を届けてくれるからご飯屋さんって呼んで楽しみにしてたんだ。


 ここはカサカサ葉っぱや木の音、虫の声とかいっぱい聞こえるけど聞こえるだけ。同じ暗い光景だけで見ることは全然できないの。だから、ご飯屋さんとお喋りしたいなって思っていても、みんなぼくを怖がったり嫌がったりして全然お喋りできない。悲しい……。


 そんなご飯屋さんも最近見てない。あ、最近じゃない全然見てないの。少しずつご飯を持ってきてくれる期間が空いてここ……どれくらいだろ? 今は暑い季節だからその反対、寒くなる季節のちょっと前くらいから来なくなっちゃったんだ。


 キュルル……


「……おなかすいた……」


 ご飯屋さんのことを考えてたらお腹が空いてきちゃった。


 ご飯屋さんが来なくなって、その時は最後に持ってきてくれたご飯をつなぎにつないでなんとか、えーといち、に、さん……にじゅうにちは持たせた。最後の方はもう腐っちゃって大変な色になっちゃってたけど、意外に食べられて嬉しかった。でもたくさんお腹が痛くなっちゃったのは残念だった。


 そこからは雨が降ればここが崩れないかなとドキドキしながら、ご飯屋さんが持ってきてくれていた器に必死に雨水を溜めた。そして、たまにどこかからか入ってくる虫さんをごめんなさいして頑張って捕まえて食べたり草が手に届きそうな場所に生えたら喜んで食べたりして必死に食い繋いできた。でもやっぱりお腹はいつもぐーぐー鳴っちゃってた。
 

 ここから出たくても唯一外に繋がる階段は目の前にあるけど、叩けばガンガン大きな音が鳴る鉄格子っていうのがあって出られない。厄病神を外に出さないためだって言ってた。鉄格子の向こうには少しの空間と階段があって、その先には上に押し上げるタイプのドアがついてるんだ。そして、今は夜だから見えないけど、朝にはそこからも光がうっすらと入り込んできてくれる。でも、なんだかその光を見ていると悲しくなっちゃうの。


 ……そうして悲しくなりながら、もう何日も何も食べてなくてお腹をぐーぐー鳴らしながらシクシク泣いているところにドアを開けてやって来たのがあの子だった。それからほとんど毎日のようにこの場所に遊びに来てくれるようになった子。


 子どものぼくから見てもかっこいいと思う顔立ちの、濃紺の髪に金の目をした子はいつもどこかを怪我していた。空いても二日くらいまでだったのに、今回は『明日はこれねぇけど明後日には必ず迎えに来る』ってちゃんと言ってもくれていたのにあの子は来ない。


「……う……うぅ~……」


 思い出して、ポロポロ涙がこぼれてしまう。お腹空いた。でも、今はお腹が空いていることが悲しいんじゃなくてあの子が来ないことが寂しくて、悲しくて泣いてしまう。


「ヒック……ぅぅ……」


 抱きしめていた手元の袋を覗き込んだ。あの子が「腹ごしらえして待ってろ」って言って食べ物をいっぱいくれたから、まだその時のパンが少し残ってる。袋からパンを取り出してパクッとくわえた。


「ふ、う゛ぅ~」


 泣いて唸りながらもぐもぐと食べた。真っ暗で辺りはボヤッとしてしか見えない。でも外から雨の音が聞こえる。鉄格子に近づいてできるだけ背後の雨水が染みる壁から離れて身を小さくした。雨のおかげで器に水が溜まって、檻の中にも水溜りができている。当分お水は大丈夫そう。だけど、やっぱり暗くて寂しい。


 そこでそうだとあの子が夜、怖くないようにってくれたマドウグっていう明かりがつく道具を思い出した。膝をついて、手探りでその道具を探して見つければ元の位置に戻って魔力を流した。壊さないように慎重にだ。


 ポワッ

「! ついた」


 暖かな光にホッと息がこぼれた。そしてじっとその灯りを見て……


「……本当に迎えに来てくれるのかな?」


 自分で言ってしょんぼりしてしまった。こんな厄介者で面倒くさくて邪魔者のぼくなんてやっぱりいらなくなっちゃったのかもしれないと思ってしまったから。でもそれも仕方ない……。


 ……ぼくといればみんな不幸になっちゃうもん。




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