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86.興味ないんっす。けど…

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「――ん?」


 街を探索し、しばらく経った頃、感じた視線に後ろを振り向く。ジーっと見られている、そんな視線を感じたのだが振り向けばそれはすぐに消えた。


「なんっすかね?」


 姉さんの家を出発してからたまーに感じる視線。視線と言っても魔樹擬の時のような気になる視線ではなく、何か変な格好をしてしまっているか、何かついているのかと自分の服や頭をきょろきょろ見下ろし、叩き、確認してしまうような視線だ。だけど特に何もおかしな所はないように思う。なので首を傾げつつ一応視線を感じた元となる物陰を確認してみて、何もないことに再度首を傾げた後はまぁいいかと続きを歩き出した。


「んーそれにしてもほんと快適っすね」


 買い食いで渇いた喉を潤すためにオレレジュースを一口。


 プハー! このさっぱりさがいいんっすよね~。


 街を見歩きはじめて結構時間が経つが、ここまでで前回街に来た時のように何も上から降ってこないし転びもしない(一回だけ転んだが)。これが食べたいと並ぼうと思った瞬間に急な混雑が発生したり、目の前で売り切れたりなどもしないし、人にぶつかったり馬の暴走にもスリにも合わない。すごく気楽に楽しく買い物ができている。街には人がたくさんいるというのにその人達にも何の不幸も起こらない。これが普通というものなのか。


「……そうっすよね……これが普通なんっすよね。あとでフレイ君拝んどこっす――あ!」


 いいことを思いついた。


「フレイ君にも何かお礼にプレゼントしようっす!」


 ちょうど今フレイ君はいない。なら内緒でプレゼントを用意して、日頃の感謝にフレイ君にお礼と共にプレゼントを渡そう。で、フレイ君なら食べ物だ。


「……って言ってもこの辺食べ物系何もないっすね。


 いつの間にか人通りが減り、周りには住宅が多くなってきていた。


 ちょっと戻らないとっすね。


「んー。こっちから行こっす」


 スッと横道にそれる。普通に来た道を戻ってもいいが、どうせなら違う道から戻った方が楽しい。初めての道だが、引き返すように戻ればたぶん戻れるだろう。気分はちょっとした冒険気分。それにこういう場所に隠れた穴場の店があったりするものなのだ。たぶん!


「穴場~。お店~。いいお店ないっすっかね~。穴場ー。お店ー。――ん?」


 ルンルン気分で歩いていると、前方にひっそりと壁に立てかけられた看板を見つけた。お店発見だ。ワクワクとしつつ駆け足で向かい、何のお店か確認する。――どうやら装飾品系のお店のようだ。


「……う~ん」


 これはっす……


 装飾系はちょっと違う。ボスも身につけないし、俺もあまり興味がない。なので残念ながらスルーだ。……が、


「…………」


 チラリと窓越しに見えた店内の戸棚。そこに飾られてある指輪に足が止まった。そして、なんとなく自分の左手を見下ろした。……小指には当然ボスからもらった指輪が嵌っている。


『愛を誓うとかの意味があるらしいですよ?』


「……」


 またなんとなく視線をその隣の指に移し、またまたなんとなくもう一度、窓からお店の中を覗いた。


 真新しいそうなお洒落なお店だ。商品は乱雑に置かれておらず、綺麗にテーブルの上に並べられたり、飾り棚に飾られたりしている。温かな照明と木材の色を基調とした店内には落ち着いた雰囲気にちょっと上品な感じがある。お客さんはあまり見当たらない。……なのでちょっとこの中には入りにくい。


 考えてみてほしいのだ。上品に見えると言うだけで一歩引いてしまうのに、そこに人がいないというだけでもう一歩引いてしまう。だって初めてのお店なのだ。今俺は一人なのだ。もし、中に入ったとしてお店の人と俺だけの状況を考えるととても気まずい。店員さんの視線が気になる。全然ゆっくり見れないし、すっごく緊張してしまう。ましてや声なんてかけられでもしたら――


「…………いやっす」


 頭を振った。


 ……そもそも別に入る必要はないんっすからそんな入りずらい、ずらくないを考えなくてもいいんっす。ボスはあんまりアクセサリーとかつけない派っすし興味もないっす。俺も同じっす。次行こっす、次。


 歩き出す。だが、数歩進んだ所で足が止まる。どことなく後ろ髪が引かれる感じ。先に進めず。もう一度足を戻し窓から店内を覗こうとすれば――


「……どうかされましたか?」


「ひゃふっす!?」


 
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