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85.街っす
しおりを挟む街っす。
姉さんがなにか企んでいそうな感じがしないでもなかったがとりあえずやってきた。屋敷を出発する際に「あちこち街を見回ってゆっくりと探して見つけて来てね」とやけにあちこちとゆっくりを強調するよう言われたがそれでもやってきた。
大事な俺に任された仕事でもあるし、実は一度やってみたかったのだこういうの。一人優雅に街を出歩き、食べ歩いて買い物するということを。いつもは体質のこともあり、こんな人が多い場所ボス達と一緒に歩く以外一人こそこそ隠れながら進むのが普通だ。だが、今の俺にはあの体質がない。だがらそれができるのだとワクワクドキドキする。
誰かと一緒にお出掛けするのも楽しいけれど、『一人で』という言葉に大人の魅力を感じるのだ。プレゼント用のお金も姉さんにもらったし、もしものためにと自分のお小遣いもポケットにいれてあった。
お腹っすか? 大丈夫っす! まだまだ全然入るっすよ!
……と、言っても今はボスへのプレゼントが先だ。
「んーどうせならボスがあっ! と腰を抜かすようなプレゼントを見つけたいっすけど……何がいいっすかね?」
右手に串を持ち、匂いに唆られ買ったピリ辛煮コニャ芋を食しつつ考える。これはあれだ。悪魔的誘惑の匂いには逆らえなかったのだ。甘いものを食べたら辛いものが食べたくなるというもの。
「ん~♪ 匂いも味も美味しいっす!」
パクパクパクパク食べながら大通りを歩く。たまにふと間近で見知らぬ人とすれ違ったりすると、少しドキッとはするがそれで終わり。何が起こるというわけでもない。こうして歩いていると自分が自然に街の中へと溶け込めているような気がして楽しかった。
「ふふん♪」
機嫌良く街を散策してボスへのプレゼントを探す。骨董品、花屋、雑貨店など色々見て回るもどれもいまいちピンとこない。
「やっぱり驚くって言えば定番のびっくり箱っすかね?」
だが、それは昨年姉さんがプレゼントしていたから違うのがいい。では触るとビリッとくるホラー人形とかはどうだろうか。これは一昨年のボスの誕生日に姉さんがプレゼントしたものだがすごく面白かったのを覚えている。
それは箱を開けた瞬間おどろおどろしい人形が目を見開いた状態で入っていて、まず目が合うのだ。そのままじっとこちらと目が合い続ける人形。そんな人形をボスに言われてレト兄が持ち上げた瞬間バチッ!! っとした音と共に光が走った。……どうやらその人形には雷の魔法が付与されていたようで……
『いっっづぁあああ!?!?』
……と、レト兄はめちゃくちゃ痛そうに、とてもいい悲鳴を上げていた。――しかし、このプレゼントの本当に恐ろしところはここからだった。レト兄が痛みに手を離して人形が床に落ちた瞬間、なんと人形の口元が孤を描き「キャキャキャキャキャ!」と笑い出したのだ。
……あれは本当に怖かった。みんなパニックになった。だが、そういう人形だと知った今となればとてもいい思い出話となる、ドッキリ大成功とも言えるプレゼントだったように思う。
「……。……いや、ダメっすね」
あれ、ほんと怖かったっすもん。
怖くて腰を抜かして泣いてしまっていた自分を思い出して頭を振った。持ち上げてさっさと片付けようにも付与された魔法がずっと作動されていて、バチバチと音を立てレト兄の二の舞になるため誰も持ち上げられず、その間もずっと人形は床に落ちながらジタバタゴトゴトともがくように笑って動いていたのだ。今はボスが力尽くで止めたために止まって、箱に仕舞われているがどこで買うのかもわからないし、家にまたあの人形が増えるのかと思うとドッキリ人形だとわかっていてもちょっと怖かった。
その後もきょろきょろと色々なお店や露店を見て回るもいまいちピンとこず、買い食いばかりしてしまう。
……仕方がないんっす。匂いの誘惑には勝てないんっす。
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