不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

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84.な、なんか違和感が…   

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「――あれ? フレイ君は?」


 姉さんの話を聞き、なんとか気持ちを立て直したあと、お手洗いから庭に戻るとそこには姉さんとレジヤさんだけでフレイ君の姿がなかった。フレイ君もトイレかと思うもすれ違わなかった。


 もしかして迷子になっちゃったんっすかね?


「フレイちゃんにはちょっと用事を頼んだの」


「用事っすか?」


「ええ」


「じゃあ俺は? 俺にも何かあるんっすよね?」


 ニコリと微笑む姉さんに不思議に首を傾げた。なぜフレイ君にだけ頼んで俺には何も言わないのだろうか。二手に分かれる必要がある頼み事なのか。


「え?」


「だってそのために今日呼んだんっすよね?」


「…………気づいていたの?」


「当然っす」


 ふんすっ! と胸を張った。


 もともとの招かれた理由はたくさんお菓子を用意したからというものだったが、量が想像していた量と全然違った。確かにたくさんだが、食べても食べてもなくならないお菓子達に、姉さんは「どんどん食べて?」と俺達を見てずっとにこにこ笑っていた。なので「何か頼み事があるんっすかね~」と思っていたのだ。


 ボスも何か頼み事がある時はいっぱい食べ物くれるっすからね! 後払いの時もあるっすけど!


「……なるほど。あの子とやり口が重なっちゃったのね……。なら、わかっていてどうして何も聞かずに食べたの?」


「え? だって姉さんっすし」


「「……」」


 これがあまり知らない人や信頼ならない人に用意され振舞われているものならば、俺はどれだけの好物を並べられていても絶対に食べない(本当っすよ?)。だが、姉さんだから食べたのだ。


 頼み事なんっすかね~。ああーでも……


「……そう、ありがとう。じゃあツキちゃんにも頼み事をしてもいいかしら?」


「……内容によるっす」


 簡単には受けられないんっすよね~。


 やや姉さんから目を逸らした。姉さんだからこそ、話は聞く。でも受けるかは別の話。お菓子もたくさん食べさせてもらったのだから俺的には頼み事を聞くくらい全然嫌ではないのだけれど、ボスに姉さんが何か頼み事をしてきたらとりあえず警戒心剥き出しの態度を取れと言われているのだ。


 ごめんなさいっす姉さん。


「……その態度はラックのからの受け売りかしら?」


 姉さんの頬がピクリと引き攣った。


 流石姉さんっす。ボスのことよくわかってるっす。


「別に危ないことじゃないわよ? ちょっと街に買い物に行ってきて欲しいの」


「買い物っすか?」


「ええ。ほらもうすぐラックの誕生日でしょう? いつも私が選んだものは嫌がられるからツキちゃんに私の分を選んできてもらおうと思っていたのよ」


 確かに約一ヶ月後にはボスの誕生日が迫っている。


「…………フレイ君は?」


「フレイちゃんにはちょっとラックに伝え忘れたことがあってね、手紙を届けてもらっているわ」


「手紙っすか?」


 そう聞き返せば姉さんは「ええ」と頷き、困ったように頬に手を当てた。


「……本当はフレイちゃんとツキちゃんの二人にラックのプレゼント探しをお願いしようと思っていたのだけれど、今回の仕事に関わるとても大切な話を一つ、すっかりラックに言い忘れちゃってね……。フレイちゃんなら転移ですぐだし、手紙を渡してもらった後はついでだからそのままちょっとそこにいてもらってラック達の進捗情報を持って帰って来てもらおうと思ってお願いしたの。帰りは夜頃になると思うわ」


「……なるほどっす」


 フレイ君がいない理由はわかった。わかったが……


 ……フレイ君いいなぁっす。


 俺もボスのところに行きたかった。俺もお仕事に参加して情報の持ち帰りとかやってみたかった。だけどもうここにはフレイ君はいない。


 ……残念っす。


 内心肩を落としつつ、仕方ないと自分を納得させる。そしてフレイ君が帰って来たらボス達のこと聞いてみようと気持ちを切り替えた。


「フレイ君のことはわかったっすけど、プレゼントなら自分で選んだものを渡した方がよくないっすか?」


「どうせ私が渡したものには何かと難癖をつけてくるのだからいいのよ。そうして渡したプレゼントが実はツキちゃんが選んだ物だと知った時のあの子の顔が見てみたいのよ。きっと面白いわよ?」


「……」


 むぅ~確かに面白そうっすけど、いっつもそんな悪戯ばっかするからボスに嫌味言われるんっすよ?


 姉さんのボスへの愛情表現は直球なのか捻くれているのかよくわからない。


 姉さんはパンッと手を合わせた。


「ね! ツキちゃんお願い! 一応こっちでも用意しておくけど、ラックの驚いた顔が見たいの。これは私からツキちゃんへのお仕事ととってもらっても構わないわよ?」


「! お、お仕事っすか?」


 声が上擦った。それにニヤリと深まる姉さんの笑み。


「ええ、ラックのプレゼントを買ってきて。その報酬に余ったお金はツキちゃんにあげるから」


「っ!!」


 ど、どうしようっす~!!


 お仕事、報酬。とても魅力的な言葉だ。俺だけに任されたお仕事! ……だが、ボスからは外には出るなと言われている。いや、それはアジト内にいた時の話で姉さんのところに来るにあたり、特に何も言われていない。フレイ君もお仕事に行ってしまったし、なら……!


「わ、わかったっす。そこまで言われたのならそのお仕事受けるっす!」


 これは俺に任されたお仕事なのだ! ボスとみんなとフレイ君と一緒!


 ボソ

「……単純な子ね」


「……レーラ様本当に実行するのですか? ラック様にはツキ君の保護を頼まれていると言うのに……。それにツキ君が可哀想では?」


「仕方がないでしょう。後もう少しなのよ? ……これでやっと全てが終わるの。これが一番手っ取り早いのよ。今まではラックに止められていたけれどこんなチャンス二度とないだろうし、ツキちゃんさえいれば上手く居場所を突き止めて、連中を一網打尽にすることもできるはず……。大丈夫。ちゃんと護衛はつけるし、居場所さえわかればすぐにでも助けに入るつもりよ。大体の場所もわかっているのだからそれほど危険はないはず。それに、もしかしたらラックとの仲に進展が見られるかもしれないわよ?」


「……そうですな」


「?」


 姉さんとレジヤさんが何やらコソコソと話している。


 あ、そういえばっす。


「姉さん。そういえば街に出ても大丈夫なんっすか?」


 以前フレイ君と二人で街に訪れた際、柄の悪い連中に追いかけ回され、それでボスにはしばらく街はダメだと言われていたのをすっかり忘れていた。


 まぁ、狙われてるフレイ君はいないっすし、あれから一ヶ月以上経ってるっすから大丈夫だとは思うっすけど一応確認しとかないとっす。


「ああそれなら大丈夫よ。ここのところ怪しい人物の目撃情報は一切ないし、アクル商会も今のところ静かなものだから。……だからバーカル……アクル商会の手のものに誘拐されて、その犯人達のアジトへと連れて行かれてその居場所を突き止めることができたり、山賊達やその者達によって行方不明になっている被害者達全員の居場所を突き止めることができたりとかそんなことはまずにあり得ないだろうから安心して?」


「そ、そうっすか?」


 やや顔が引き攣る。


 な、なんか言葉の違和感すごくなかったっすか? すっごく言葉に含みがあるような気がするのは俺の気のせいっすか?


「じゃあツキちゃん、よろしくね?」


「…………はいっす」


 ニコリと笑う姉さんに頷く。


 ……だ、大丈夫っすよね?

 
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