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87.やばいっす!

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 変な声でたっすっ。


 慌てて声の方を見ると、看板横の扉が開いていた。そこから、覗いていたお店の店員さんらしき人が、扉を開けた状態で不審な目で俺を見ていた。


「あ、いや、そのっす……」


 や、やばいっす! 俺不審者っすか!?


 その不審な目にちょっとパニックになった。どうされたかと言われてもちょっとふらふらっと気になって覗いてしまっていただけで、俺は別にこの店に何かしようともしていないし企んでもいない。怪しい人物ではないのだ!


 えとっ、えとっす!


「……! ……!!」


 説明しようにもパニックになった頭では言葉が出てこず、ワタワタと自分の左手の小指を見て、店の指輪を見て、店員さんを見てを繰り返した。その動作を目の前の店員さんも行う。


「? ……あれ? その指輪……」


「?」


 店員さんが何かに気づいたようじっと俺の小指を見る。そして、怪しそうな表情から一変、笑顔を浮かべた。


「ああ、なるほど! どうぞどうぞお入りください!」


「ええ!?」


 なにがっすか!?


「さ、さ、遠慮せずどうぞどうぞ」


「?????」


 不審者を見るような目から一変、何故か歓迎ムードになった店員のお兄さん。そんなお兄さんに連れられてお店の中に入れば、さっき窓から覗いた部分は部屋の突き出た角部分だったようで、中は広く、外からではわからなかったが意外に人も多くいた。男の人も女の人も関係なくみんな楽しそうに商品を眺め、話しをしている。そんな光景に初めに抱いた入りづらい印象がガラリと気やすいものに変わった。


 物珍しく、周囲をキョロキョロ見回してみれば、装飾品以外にも色々と雑貨とかも売っているようで、入ってみてよかったかもしれないと、ホッとオレレジュースを持つカップの手からも力が抜けた。


「それで本日はどのようなものをお探しに? 恋人さんへのプレゼントですか?」


「え!? 恋人!? なんでその一択なんっすか!?」


「あれ? 違いました?」


「違うっすよ!」


「うちは指輪の種類もデザインも豊富に取り揃えておりますのできっといいものが見つかると思いますよ? ご希望があればネックレスにすることも可能です」


「だからなんっすかその一択!? 違うっす!!」


 ちょっと目についてお店を覗いていただけなのにどうしてそうなるのかわからない。プレゼントを探している部分はあっているが恋人の部分が違う! 物を探してはいるが別に指輪ではない! なのに店員さんは「あれ~?」と首を傾げるばかり。


 こっちがあれ~? っすよ! もしかしてお店の指輪見てたっすから勘違いさせちゃったんっすかね?


「……てっきりそれのお返しを探しに来たのかと思ったんだけど……」


「え?」


「っあ、いや、コホン申し訳ありません。なんでもありません」


「えー……。そんな途中で止められると気になっちゃうっすよ……。どういう……!?」


 とんでもないものを見てしまった。


「? どうかされましたか?」


「ひぃえ!?」


 店員さんが不思議そうに俺を見てくる。だが、今の俺の頭の中にはやばいという言葉しか浮かばない。……ふと視線がいった階段横にあるテーブル。透明なケースに蓋をされ、等間隔に商品が並べられたそこで俺は衝撃的なものを見てしまったのだ。


 け、桁が違うっす!!


 並べられた品の前に表記されている値段が俺の知ってる値段じゃない。


 金貨? それも一枚じゃないっす何枚もっ……! お、俺そんなの知らないっす。それ小銀貨何枚っすか? 大銅貨何枚でそれになるんっすか!? 俺、それ以上の持ってないっすよ!? あ、でも姉さんから大銀貨三枚貰ったっすから大金持ってるっす。これでさっきのピリ辛煮コニャ芋何個買えると思ってるんっすか! えーと、一本大銅貨一枚っすから……大銀貨で何本っすか!? 一枚で百本は買えるっすよ!? それが三枚で何っすか!? でもこれは大切なお金なんっす!! それに、それを超える金貨なんて俺知らないっすもん! やっぱり持ってないっすよ!!


 俺としたことが油断してしまった。お兄さんの雰囲気やお店のお客さん達の雰囲気につい警戒を緩めてしまっていたがこれは罠だったのか。


 っこれ絶対逃げられないようにペースに乗せられて、言葉巧みに丸め込まれて最後には高いもの買わされるやつっす!


 俺は知っているのだ。ボスが言っていたから。街にはいい人や店ばかりではないと。気をつけなければカモられ詐欺られ騙されるぞと。そうしてもっと酷い場合には知らないうちに借金を背負わされ、その身が果てるまで働かされ、全てを毟り取られるぞと言っていた。


 これがそれっすね!


 心なしか店員のお兄さんの笑みがさっきまでの親しみやすいものではなく、今からどう罠にかけて金を巻き上げてやろうか企んでるような黒い笑み見えてきた。……身体が震える。


 これは話を聞いたらもう終わりっす! なら!!


「あ、あの! お、俺、全然お金持ってないっすので帰るっす! じゃ!」


 逃げるが勝ちっす!!


「え? あっ待って下さい!」


「ふぁ!?」


 ガシッと腕を掴まれた。逃げれば勝ちだが秒で捕まってしまっては意味がない。しかもこのお兄さん、意外に力が強く逃げられない。


 くっ! 俺にもっと力があればっす!


「っは、離して下さいっす! 俺お金持ってないっすからカモろうとしても無駄っすよ!!」


「は!? カモっっ!? っいいえ離しません! 落ち着いてください! カモるってなんですか!? お客様何か勘違いされてませんか!?」 


「勘違い? っそんな言葉で騙され落ち着く俺じゃないっすよ! お兄さんの魂胆はわかってるっす! 人が良さそうな顔して、このまま話を聞かせて押し売りして俺からぼったくってお金も身ぐるみも全部俺から巻き上げる算段なんっすね!!」


「誤解が酷すぎる!? ここお店の中ですからそういう不謹慎なこと言わないで下さい! 信用問題に関わりますから!! お店潰れちゃいますから!!!」


「俺お金持ってないっすもん! 借金背負わせないで下さいっす!!」


「だからそういうこと言うのやめてくださいって!!」


「じゃあ離すっす!!」


「ここで離したら誤解生んだままになるでしょ!!」


「それでもっす!」


「それじゃあダメなんですよ!!」


 グイグイお兄さんと腕の引っ張り合いっこをする。ここで負けてしまえば今持つ全財産を奪われてしまう! 諦めるな俺!


「ふんぐーーー!!! 離してっす!!!」



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