84 / 150
83.わかんないことだらけっす…
しおりを挟む「はぁぁぁぁ……」
テーブルに両肘をつき、その手に顔を伏せた姉さんはとても大きな溜息を吐いた。そして、顔を上げる。
「ツキちゃん。たぶんツキちゃんはツキちゃんが思っているよりラックのことが好きで未練に思っているはずよ」
「え? そんなことないっすよ?」
「……そこはもう少し悩んで答えてあげなさい」
呆れた顔をする姉さん。フレイ君も同じような顔をしている。姉さんの後ろでは涙を拭うように目にハンカチを当てているレジヤさんもいる。
……え? なんで泣いてるんっすか? 流石レト兄のお父さん。涙の流し方そっくりっすね~。気づけば泣いてるところとかっす!
「……レジヤ。ツキちゃんの気が逸れるから泣くのをおやめなさい」
「申し訳ございません。あまりのラック様の憐れさについ……」
憐れさ……?
「ねぇ、ツキちゃん」
「はいっす」
レジヤさんの方から姉さんへと目を戻す。姉さんは真剣な表情で俺を見ていた。
「ツキちゃんはラックと恋人になる気はないと言っているけれど本当にそれでいいの?」
「……姉さん?」
さっきと同じ質問だ。俺はそれでいいと言っているのになぜまた同じ質問をするのだろうか。俺はボスと恋人になる気はないのだ。
「いいえ。あなたはラックと恋人になりたいと思っているはずよ」
「……そんなこと思ってないっすよ?」
もうとっくに諦めてるっす。
なのに姉さんは首を横に振る。
「無自覚なら無自覚でよく自分の行動と気持ちを振り返って自覚しなさい。ラックのことが好きなのなら素直になりなさい。理由をつけて逃げて自分を納得させてはダメよ。後で絶対後悔するわよ? ……もし、どれだけ考えてもやっぱりラックと一緒になることができないと思うのなら、きっぱりとラックを振ってやりなさい(諦めないだろうけど)」
「…………」(諦めないですな)
「…………」(絶対に諦めないね)
「…………俺、振ったっすよ?」
そう言うも、姉さんはまた首を横に振る。
「全然ダメよ足りないのよ。もっと強く言葉ではっきりと言ってやりなさい。ベタベタされるのも、噛み付かれるのも、嫌なら本気で嫌がって抵抗して拒絶しなさい。ラックならそれで(たぶん)止まるから(ちょっとだけ)」
「……拒絶……」
「ええ。あなたにはどこかあの子を受け入れている心があるの。だからラックはそこをついて好き勝手してくるのよ。いつもと同じ、慣れでとラックに隙を見せるのは完全にやめて、期待させるような態度もとらないで、本当に嫌なら今言ったことを完璧にやってみなさい。いいえ、やるべきよ。……ツキちゃん、もっとラックの気持ちのことも考えてあげて。あの子は本当にあなたのことが好きなのよ? 中途半端な愛は一番あの子を傷つけるだけ。今の考えが変わらないというのなら、本当にあの子のためを思ってあの子を拒絶すると言うのなら……私はあなたはラックから離れるべきだと思うわよ」
「離れっ……!?」
「ええ(ラックが許さないと思うけど)」
「…………」(無理ですな)
「…………」(たぶん嫌がっても逃げてもツキさんを連れ戻しに行くだろうなぁ)
「(……なんだか簡単に想像できて私何を言ってるのかしらって自問自答してしまいそう。文句を言うラックの幻聴まで聞こえてきそうだわ……) ……だからね、ツキちゃん。少しでもラックのことが好きで、離れたくないと思う気持ちがあるのならもう一度よく考えてみて。これはあなたのためでもあるの。ラックがどれだけあなたを想っているかはもう知ってるでしょう?(流石に無理矢理になってはツキちゃんが可哀想だわ。自分からラックの元へ行って欲しいの)」
「……はいっす」
みんな真剣な顔をしている。姉さんの言葉はその一つ一つが俺の心に刺さりしょんぼりと肩を落としてしまった。
……ボスのことが好きだから、死んでほしくないからボスと一緒にはなれないと思っていた。でも離れたくないから一緒にいたいと思っていた。……これは全部自分の気持ちで、ボスの気持ちなんて全然考えていないことだ。
……中途半端な愛はボスを傷つけるだけ。ボスのことを考えるならボスから離れた方がいい。本当にその通りかもしれないっす……。
自分の気持ちばかりを考え、ボスに押し付け、俺はボスを拒絶ばかりしていた。愛してると言ってくれたのにそんなボスの気持ちに甘えていつも通りのボスに戻ることを願っていた。……離れたくはない。だが、不幸を考えればやはり恋人は無理だと思う。なら、姉さんの言う通り、ボスのことを考えるなら俺はボスから……
「…………」
「(やばいわ。このツキちゃんは)っ……ツキちゃん」
「……姉さん」
俯いていた顔を恐る恐る上げ、姉さんを見る。姉さんは優しく微笑んでいた。
「キツイことを言ってごめんなさい。だけどそう結論を忙がないで。あなたが怖がる気持ちはよくわかるわ。でもね、私はツキちゃんとラック、二人に幸せになって欲しいと思っているの。そして、二人の仲を応援しているわ。だから、離れることを先に考えるのではなくて、ラックとのこれからを考えてあげて欲しいと思っている。……ツキちゃん、もっとラックを信用してあげて?」
「……信用? ……信用してるっすよ?」
それはボスにも言われた言葉だ。ボスには信用も信頼も十分にしている。だから魔樹擬に捕まった時も冷静でいられたのだ。なのに姉さんはやっぱり首を横に振る。
「全然してないわよ。していれば悩むはずのないことで悩んでいるもの。まさか私もここまでとは思わなかったほどにね。これもさっきと同じ。よく考えなさい」
「…………コクン」
一応頷くが何を考えるべなのか全然わからなかった。縋るように姉さんを見るも、もうこれ以上は何も言うつもりはないようでカップを手に取りお茶を飲んでいた。言葉の通り自分で考えろと言うことなんだと思うが、困惑で頭はいっぱいだった。
「……ふふ。ごめんなさいねせっかくの楽しい雰囲気を台無しにしてしまって」
姉さんが苦笑する。そんなことないと頭を振った。
「じゃあ、仕切り直しましょうか。お菓子もまだまだたくさんあるからどんどん食べていってね?」
「いただきますっす……」
姉さんに促されるままモシャリとクッキーを頬張る。美味しいが、頭の中は晴れない。胸にもモヤモヤとした感情が渦巻いている。
『信用しろ』
『もっとラックを信用してあげて』
……信用ってどういう意味なんっすかね……?
61
あなたにおすすめの小説
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~
トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。
突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。
有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。
約束の10年後。
俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。
どこからでもかかってこいや!
と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。
そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変?
急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。
慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし!
このまま、俺は、絆されてしまうのか!?
カイタ、エブリスタにも掲載しています。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています
八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。
そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる