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78.信じてるっすよ…?
しおりを挟む「ぅ゛ぅ~」シクシクシク……
あうーっ。みんなごめんっす、ボスごめんっす……。
シクシクシクと涙をこぼしながら森の中を運ばれる。
扉側の窓と壁がぶち破られた瞬間、後ろの窓からも大きな枝が侵入して来た。イーラさんはフレイ君を抱き寄せその攻撃を避け、俺も避けたつもりだったのだが、その大きな枝の空いた隙間から別の幾つもの細い木の枝が俺に巻きついてきて、口も手足もあっという間に塞がれ拘束されてしまいそのまま外に連れ出されてしまった。
この俺を運ぶ魔樹擬、森で見た同種より小さいが根で走るスピードが速く、どんどんイーラさん達から引き離されてしまう。せっかくボスにあの場を任されていたというのにこの状況。なんと不甲斐ないことか。
これ、俺どこに連れて行かれちゃうんっすか? このまま俺食べられちゃうんっすかね?
だが、食べられるにしては俺をどこかへと運ぼうとする意思がこの魔物からは感じられる。ならば、商人が絡んでいると言っていたしその商人の元へ俺を運ぼうとしているのか。だが何故俺を?
「ぅ゛ー……」
……人違いっすかね? さっきフレイ君狙ってきてたっすし、近くにいたから間違えちゃったのかもしれないっす。ならフレイ君じゃなくてよかったっす……。
そう思うものの、こうしてただで運ばれ続けるわけにはいかない。なんとかこの枝の拘束から抜け出さなければ。
「ムウ゛……」
……こういう時に魔法が使えたら便利なんっすけどね……。
グググっと眉を寄せ考えた。取りに行く時間がなかったため、短剣など何も持っていないし、持っていたとしてもここまで手を含む胴をぐるぐる巻きに拘束されていれば剣を取り出すことさえ叶わない。魔法が使えればそれが一番だけれど爆発しちゃうから……。
「む?」
あ、でも体質ないっすもんね。
それでも使うのに勇気がいるし、あまり知らないのでとりあえず体をモゾモゾ動かしてみた。
ギョエ!!
「!?」
いだだだだだだだ!!!!
拘束強められた。
……酷いっす痛いっす~。
シクシクシクシクと涙をまた溢れさせる。運ばれる。商人達(たぶん)の元へ。
「ゔ~!」
そんなの嫌っすよ~!
また涙が流れる。でもこれは嫌だからとか今の状況が悲しいからの涙であって、決して恐怖からの涙ではない。だって運ばれないから。運ばれたとしてもきっとすぐに助けに来てくれるから。俺は一人ではない。俺にはボスや信頼する仲間達がいるのだ。怖いわけがない。絶対に来てくれる。俺はボス達を信じているのだ。
「――おい。誰のもん連れて行こうとしてんだ」
「ングゥ!!」(ボス!)
ほらっす!
バァァァアン!!
ギョェェェエエエ!!
俺の視界がボスの姿を捉えた瞬間、魔樹擬はボスの強烈な蹴りにより地面へと沈み込んだ。それと同時に、ボスは無詠唱で魔法を使い俺を拘束する枝を切り裂くと抱えて助けてくれた。
ボスが来てくれたっす!
「ツキ、怪我は?」
「ないっす!」
「そうか」
ボスは俺を降ろすと素早く魔樹擬を魔法で切り裂きトドメを刺した。そして、鋭く魔樹擬が走って行こうとしていた方角を見やり、ずっと先へと向かって魔法を放った。
「『火柱』」
ゴォウッ、とした火柱が立ち上がる。
……おぉ。
「レト、あそこだ捕まえろ」
「殺してないだろうなっ」
「あ」
俺達を通り過ぎ、レト兄がその火柱の方へと走っていく。
「ボス、何があったんっすか? あそこに誰かいたんっすか?」
「敵意と視線がした。多分今回の犯人だろ」
「なるほどっす……」
そう素直に頷く事ができるほど、ボスの神経が今とても研ぎ澄まされているのを感じる。
「ツキ無事か!?」
「坊ちゃん速ぇ! ツキ平気か!!」
「ツキさん!」
「あ! ジーズー、フレイ君! 大丈夫っすよ!」
心配かけてごめんっすね!
走って来る三人にニコッと笑って手を振るも、ボスはジロッと怖い目でジー達を睨みつけた。
「お前ら、なんでツキが攫われてる。なんのために二人もそっちにやったと思ってんだ」
「「面目ねぇ……」」
「あとフレイ。これお前のせいじゃねぇだろうな」
「なんで僕!? 僕じゃないよ!!」
追いついたジーとズーはすぐにショボンと肩を落とし、フレイ君はとても憤慨したよう地団駄を踏んだ。そして、どこからともなく現れたモーに宥められ、ジー達は慰めるよう肩を叩かれていた。
「ボス……。ジー達なんも悪くないっすよ?」
ボスを見て言う。
油断しちゃった俺が悪いんっす。
「それにフレイ君だってさっき攫われかけて危なかったんっすよ? そんな疑いはダメっすよ……ってあれ? なんでボスここにいるんっすか?」
ボスはこことは別の森を調査中だったはず。なのに、とても自然にボスもモーもレト兄だっていたぞ?
「そっちは終わったんだよ。んで戻って来たらこれだ。怒りたくもなるだろ。……焦らせんなよ」
ボスに抱き寄せられた。最後のボスの言葉には深い安堵と心配の念が込められていて、俺は大丈夫だとの意味を込めて数度ボスの背中をポンポンと叩いた。
「心配かけてごめんっすね……?」
とても面目なかった。
「ボス、迷惑かけてごめんっす。……俺、全然役に立てないっすね……」
ボスから身を浮かし、肩を落とす。
救護所が襲われ、ボスに言われたことも満足に熟すこともできずに攫われ、これほどまでに心配をかけてしまうなど悔しい限りだ。体質がない今だからこそボス達の役に立ち、俺の有能さを示してここにいてもいいと、俺が必要だと思ってもらうことができる絶好の機会だというのにその機会を俺は全く活かせない。少しでもみんなの役に立ち、俺の価値を示さなければ体質がもしまた復活した時、みんなにいらないと思われ、言われてしまう確率が上がってしまうかもしれないのに……
ペチ
「あうち!」
おでこをボスに叩かれた。ボスを見上げれば、呆れたボスがいる。
「……馬鹿言うな。今の言葉ん中で俺はお前を責める言葉をなんか吐いたか? 心配しただけだろ、何落ち込んでんだ。んな役立ちてぇんならジーとズーとあとフレイと一緒に救護所に戻って魔物の処理した後、家の修繕と抉れた地面均してこい」
「! は、はいっす!」
やったっす、またお仕事もらえたっす!
ホッと気分が浮上する。その後、ジー達に行くぞと言われたので救護所へと戻ろうとするも、ボスは俺とは反対方向を向いた。
「ボスどこ行くんっすか?」
「レトんとこ。――ツキ」
「はいっす?」
クシャリと頭を撫でられる。乱暴だが、どこか優しさを感じられる撫で方。
「お前は俺達をもっと信用しろ」
「……信用っすか?」
真面目な顔で、それだけを言うとボスはまた俺に背を向け歩き出し、行ってしまう。
……信用? ……信用ならしてるっすよ?
それは十分と言えるほどにだ。
……その後、魔物の襲撃は俺が攫われた以降落ち着いた。その日の夕方にはレト兄とボスも家の方に帰って来て、レト兄曰く今回の騒動の犯人である男を一人捕まえたそう。レト兄が捕まえる際、プスプスと意識なく少し燃えていたようだが、大した怪我もなく、尋問部屋へと連行後イーラさんによって情報を吐かせることにも成功したよう。
イーラさん、すっごく怒ってたっすからね。
何をどうやって吐かせたのかは想像しないでおく。イーラさんは救護所を壊され、俺が攫われたことに物凄く怒り狂っていて、レト兄とボスが多分犯人を連れて帰ってくると言えば手ずから尋問を行うと張り切っていたのだ。
そして、吐かせた内容からレト兄はその報告だけを俺達にしてくれると、すぐにボスによってレーラ姉さんの元まで走らされていた。俺はボスに捕まり、モー達に助け出されるまで椅子に座ったボスの膝の上に拘束されたままだった。
攫われ、助けられた時にボスからいつもと違う雰囲気を感じて不安だったが、帰って来たボスはせっかく最近マシになっていたのに、またすぐゼロ距離にしようとするボスに戻っていた。
「離してっす!」
「無理」
「無理じゃないっす!!」
戻る日常。……だが心にボスが言った『信用』との言葉がチクリと小さく刺さるよう俺の心に残り続けた。
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