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79.ツーン
しおりを挟む「――ツキ、ちょうど良いところに居たな。ちょっとこっち来い」
「ムム!」
二階。フレイ君と歩いているとちょうどボスとレト兄が仕事部屋から出てきた。ささっと俺はフレイ君の後ろに隠れ、警戒心マックスにボスを睨みつけた。
「……ボスおかえりっす。早かったっすね」
「……おい、誰が隠れろっつった」
魔物の襲撃から五日目の夕方。ボスはあれから毎日姉さんの所へ行き、何かを話し合っているよう。今日も朝からフレイ君の送りで姉さんの所へ行っていたのだが、いつの間にかアジトに帰ってきていたようだ。ここのところ外へと向ける警戒の他、アジト内がパタパタと忙しい雰囲気を感じる。
「なんすか?」
「俺はこっちに来いっつってんだよ、遠いわ」
「…………」
ちゃんと話があると言うので仕方なくフレイ君の後ろに隠れたままボスに近づいた。
「話ってなんすか?」
「…………まぁいい。レーラがお前のためにお菓子をいっぱい用意したから遊びに来いって呼んでんだけど行くか? 別に行かなくてもいいぞ。今回は――「行くっす!!」……そうか」
「やったっす!!」
お菓子いっぱいってそんなにもっすか!? 楽しみっすね! 最近ボス、外に出ちゃダメって言うっすから全然出られなかったっすし、この前はボスがさっさと帰っちゃったっすから今度こそ姉さんともいっぱい話せればいいんっすけど……あ!
「もちろんフレイ君も一緒っすよね?」
ぎゅっとフレイ君の腕に抱きつき、顰めっ面をしているボスに尋ねた。
「……ああ。まぁ……」
「やったっすね!」
フレイ君も一緒っす~♪
「お菓子……ジュル」
「そうっすね~♪」
フレイ君も俺と同じく家に居ろと言われていたため久しぶりのお出掛けに嬉しそうだ。
「いつ行くんっすか?」
「明後日だ」
「明後日っすか!!」
お出掛けの準備しないとっすね!
「けど行くのはツキとフレイ、お前ら二人だけだぞ」
「…………え?」
「そうなんですか?」
「ああ」
ピタリと体の動きが止まる。当然のようにボスも一緒だと思っていたのだが……
「……ボス来ないんっすか?」
浮かれた気持ちが沈むのを感じる。眉を下げ、どうして……とボスを見上げれば、ボスは苦々しく顔を歪めた。
「あいつに仕事入れられたんだよ」
「……この間の件でっすか? レト兄は? モー達は?」
「俺もボスと一緒に仕事なんだ」
「あいつらも俺と一緒だ」
「…………」
……みんなっすか……。
「嫌なら断ってもいいぞ? 俺達なしであの家に行くのは初めてだろ」
そんなことを言うボスにへにゃりと眉が下がった。
確かに初めてっすけど……でもお菓子がぁ……ああそれじゃあボス達の方に……!
「ボス達について行くっすのは?」
「ダメ」
「うぅ~ん」
ダメっすか……。ならどうしようっすかね……。
腕を組みながら考える。この間のようにコッソリとあとをついて行く手段もあるが、今回はお家でフレイ君とお留守番でもいいかなと思う気持ちがある。そして、お留守番になるのなら姉さんの所へ行っても……と思うがボス達がいないしなと悩んでしまう。だが、お菓子が姉さんの家で俺達を待っている。フレイ君も出掛けたいだろうしお菓子も食べたそうだし姉さんの家に行っても……。うーん……。
「別に無理して行かなくてもいいんだぞ? 菓子ならまた今度食わせて貰えばいいだろ? あいつならお前のためっつっていくらでも用意するだろうし、それかここで作ってもらえ」
「んー……」
わかってる。わかってるからちょっと今考えてるから待ってほしい。別に無理はしていないが何故か悩んでしまうのだ。
「ちなみに泊まりになる可能性もある」
「ええ!?」
そんな悩む材料増やさないで下さいっすよ!
「泊まりって姉さんの家にっすか?」
「ああ」
「なんでっすか? ボス達どこ行くんっすか? 俺もついてっていいっすか?」
「山。ダメ」
「うぅ……」
この辺山いっぱいあるっすよ……。やっぱりついて行っちゃダメなんっすか……? なら……
「……別に姉さん家に泊まらなくてもアジトに帰って来ても……」
「あいつが泊まっていってほしいってよ」
「うぅ……」
唸る。悩みに唸ってしまう。とても悩んでしまう。
どうしようっす……。悩むのなら行くのやめといた方がいいんっすかね? 泊まってほしいって姉さん言ってるっすのにお菓子だけ食べて帰るのは失礼だと思うっす。なら今回はお菓子は食堂のおっちゃん達に頼んだら作ってくれるみたいっすから諦めるっすか? みんな居ない中でアジトならまだしも、あの家に一人お泊まりはちょっとまだ今の俺にはハードルが高いっすからやめて……いやでもフレイ君が居るなら大丈夫っすかね? それにボスは可能性があるって言っただけっすからお泊まりにならない可能性も当然あるっすよね? う~んでも……ああ、どうしよっす迷うっす。やっぱ迷うならやめとこっすかね? うん。よく言うっすよね。どっちか迷ったらとりあえず今はやめとけって。あれ言わないっすかね?
「う~ん」
「ツキ。んな悩むならやめとけ。それに……――俺が居ないと寂しいだろ?」
「!?」
気付けばいつの間にかボスが目の前にいて、抱きしめられそうになったのを寸前で避けた。
「は、離れるっすよ!」
「仕事には連れてってやれねぇけど俺の部屋の鍵、渡しといてやろうか? 寂しかったら俺の部屋で寝ててもいいぞ?」
「っな///!? ね、寝ないっすよ!! なんでっすか!!」
「だから寂しいからだろ?」
「~~っ!!」
だから??? だからなんっすか! 寂しいからって俺ボスの部屋で寝るって思われてるんっすか!? そんなことしないっすもん!!
ぷるぷる俯き震えてしまう。なんてことだ。なんて勘違いをされているのだ俺は。それにボスのこの顔!!
ムカつくっす!!
「~~っ。ふぅ……」
この荒ぶる気持ちを静めるため一度息を吐き出す。そして――
「……別に寂しくないっすよ?」
「は?」
ツーンとボスから顔を背けた。
「別に鍵いらないっすし、寝ないっすし、姉さんのところ泊まるっすもん。フレイ君居れば大丈夫っすし、ボスはどうぞお仕事頑張ってきてくださいっす。俺は絶対姉さんのところに行くっすからね」
「…………」
寂しいか寂しくないかと言えば確かに寂しい気がする。だが、俺がいないと寂しい? 鍵を貸してやるから寝てていい? ……こんなことを言われて素直に頷くことが出来るだろうか? こんなにも得意そうな笑みを浮かべ俺を見て言ってくるボスに悔しくないと言えるだろうか? 否!!
「フレイ君、フレイ君はお留守番と姉さんのところ、どっちがいいっすか?」
「お菓子ですね」
「そうっすよね~! ――じゃあボスそう言うことっすから。フレイ君あっち行こっす!」
「「…………」」
素っ気なくボスへと言い、話は終わりとばかりに笑顔でフレイ君の手を掴み立ち去る。俺達は今から一階の談話室へとお爺ちゃん達の肩揉みをしに行くのだ。みんな外に出られず暇だろうと俺達の話し相手になりに家によく来てくれるからそのお礼をしに行くのだ。……何を言われても絶対姉さんのところに行く。俺は全然寂しくなんかないのだ。
「ふんっ!」
「……ツキのあの態度見たか? 反抗期だな」
「ふっ……くく……っそ、そうだなっ。ぶッ!」
「……おい、レト笑ってんじゃねぇぞ」
「い、いやだってっ! そんなボスこそなんで嬉しそうなんだよ」
「あ? あのツンとした態度見ただろ? 可愛いしかねぇだろ?」
「……あ、そう……流石だな。まぁ上手くいってよかったな。――作戦通りツキを避難できそうで」
「ああ」
「自虐技すぎたけど。ぶふッ!」
「黙れ」
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