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70.くっ屈辱だ! sideフレイ
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足が痛い。
くそ、ラックめ。器用に横蹴りしてきやがって……っ。
そっと足首を撫でつつ、恨めしげにラックを見て後悔した。
「ほらツキ、あーんは?」
「あーん」モグモグ
「美味いか?」
「コク」
「…………」
……甘い。というかやっぱり鬱陶しい。なんだろ? こう見てると「あ゛ーー!!」って叫び出したくなる感覚。
今、僕が見ている視線の先では、ラックとツキさんが二人横に並んで座っている。それだけなら許してあげよう。だけどラックが差し出す食べ物を、鳥の雛の如くパクパクと食べさせてもらっているツキさんに遠い目になってしまう。
散々ラックに離れて、近づくなって警戒してたのになんでツキさん、あんなにも間近で素直にご飯食べさせてもらってるんだろう。
「はぁぁ……」
そんな二人を少し離れたテーブルから見つつ僕は溜息を吐いた。
……側から見れば仲睦まじい、じゃないね、バカップルじゃん。
この二人、見ていて飽きないけど焦ったくてイライラしてくる。もうさっさとくっつけばいいのに。でもそれはそれでつまんないし、ラックのあの浮かれ顔もなんか腹立つからやっぱりまだくっつかなくていいかもって思っちゃう。それに僕は、こういうジレジレの甘々系より三角関係とか嫉妬とか敵対とかそういうドロドロとした愛憎渦巻く恋愛みたいなものの方が好きなんだ。だってスリルがあって面白いんだもん。ツキさんとラックを見てたらもどかし過ぎてなんかこうムズムズする。前までだったらラック一人が空回っててまだ面白かったのに。今は……
「あーんは?」
「あーん」モグモグ
「……っ」
う~っくそ……っ。
ギリッと手を握り締める。
本当は僕があの二人の間に入って仲を引っ掻き回すことで、理想とする恋愛劇にして、それを間近で見て楽しむ予定だったんだ。なのに全然上手くいかないし、入れなかった。ラックが僕に少しでも靡いてくれたり、意識してくれたら面白かったのに、ラックの僕への警戒心が半端なさすぎて僕の心は早々に折れてしまった。
だってギロッとした怖い目で睨まれるんだよ? 頬っぺた痛くなるほど掴まれて、陥没もさせられて、最後は可哀想な子を見る目でラックからも、周りからも見られたんだよ? くっ! 屈辱だ!!
「…………」
はぁぁ……。
心の中でそっと溜息を吐いた。
一体どこで失敗したのかな……? なんで初めからあんな敵意見せてくるんだろ? ……やっぱり、より可哀想に見えるためにって僕だけ隷属の首輪をつけてたのがダメだったのかな? わざとらしかった? 演技でも人の下には下りたくなかったから、契約紙用意したけど相手は用意せずただ首輪をつけただけだったもんね……。それとも、特別感出すために適当な種族作ったのが間違いだったのかなぁ。もっとツキさんみたいに未知の種族って喜んで驚いてくれたらよかったのに。それで大切に大切に守って僕にひれ伏せばよかったのに、まさかあそこまで白けた疑惑の目を向けられるとは思わなかった……。あとはなんだろ? 嘘の熱と寝たふりバレてたのかなぁ。
「……」
あむっとシャキシャキの白野菜を口に運んだ。
ラックがダメなら次はツキさんをと思ったけど、それも上手くいかなかった。ラックを落とそうとした時の比じゃない冷たい目と殺気にもう僕の心は瞬時に、完璧に折れてしまったんだ。
……っく! 屈辱だ! 悔しい! ……けど、あれは仕方ないと思うんだよね。下手にそっち方面でツキさんに手を出そうものなら僕、明日を生きてる気がしなかったもん。僕殺されちゃうの? ってすごく怖か……って違う!! あれは計画的な撤退であって別にビビったわけじゃないもん。僕がたかが人間に恐れを抱くはずないでしょ。逆に畏れを抱かれる側なんだから。折れたの表現も間違った。やめてあげたの間違いだった。僕はなにを弱気になって…………
そこまで考えたところでふと、ラックのギロッとした目を思い出した。
「……っ」
っっ~~くそっ人間のくせにほんっと生意気! 本当に怖くないもん!! ……っでも……!!
「……あむ」
悲しく、細く切られたコリコリとした食感がするコリ茸を口に運んだ。
……僕、ここに来て今日までなんにもできてないよね……。なんかみんなからは、ただツキさんのドジと不幸の巻き添えくらってる怪しいけど可哀想なちょっと役立つ子。みたいな認識になってる気がする……。
もっと僕が中心! みたいな感じでみんなに囲まれて、チヤホヤされてふんぞり返ってツキさんに羨ましがられたりしてさ、そんな光景も上から眺める予定だったんだ。なのにみんなツキさんがいなかったら僕の前に出てこないんだもんなぁ。これじゃ仲良くなるどころか何もできないよね。話すよりも前の出会うことすらさせてくれなかったんだもん。これでどうしろっていうの。ツキさんには羨ましがられるどころか生暖かい目を向けられて応援されるしさ。
寝る時だけは人がいたけどお酒飲んで酔っ払って全然僕の話聞いてくれないし、かと思えば僕がチャンスと思って擦り寄ってみたら、なんかみんなで集まってコソコソチラチラ僕見ながら話し出すし……。何話してんのかは聞こえなかったけど、なんかすっごく恥ずかしかった。あとあいつら酒臭くさいし、暑苦しいし、寝相悪くていっつも蹴られるしで僕……
「はぁぁ……」
やっぱり想像と違って全然上手くいかない、と悲しさから溜息が出た。でも、これでも最近はちょっとマシになってきたとは思うんだ。心折れそうになりながらも頑張って、つい魔が差してツキさん操って行っちゃった街は本気で悪かったと思ったし、だからこそ、その罰も文句を言わずに僕はすっごく頑張った。これだけ働いたの初めてかもしれないっていうくらい頑張った。
その結果、みんなから褒められたしツキさんにも「すごいっす!」って言われた。ラックからだって「助かった」って言われたし一人部屋だってもらえたんだ。僕一人でも声をかけてくれることも増えたし、これって僕もちょっとずつここの一員に認められてるってことでしょ? だよね! やった! ……って違う!!!! い、いやいやいやなに今の感情!? 思考!? 何考えてんだよ僕は!! 別に嬉しくないし!! 入り込むってそんな感じの意味じゃないし!
陥りかけていた変な思考に勢いよく頭を振った。そして、また溜息を吐いた。
「はぁぁ……」
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