69 / 150
68.ボスがおかしいっす!
しおりを挟む不幸体質。それは俺を悩ませる最重要案件だった。しかし、フレイ君によってそれはなくなり、真の俺の優秀さをボスや仲間達に知らしめることができるようになった。もうお皿は割らない。箒も折らない。何も壊さないし、誰の上にも何も落とさない。もう、レト兄やイーラさん、モー達みんなから毎日褒められ、お菓子を貰える毎日だ。
こんな幸せな日々はフレイ君のお陰。だからフレイ君ばんざい! 大好き! もう俺に恐れるものなどない! 悩みなどないのだ! やったー! ……の、毎日なはずなのに、俺は今ずっと悩んでいる……。
「ツキ。お前またえらく汚れてんな」
「ヒッ!? ボス!」
「わっ」
聞こえた声にさっ! とフレイ君の後ろに隠れ、警戒体制に入った。
「なんすかボス。俺、今忙しいんっす!」
ヴゥッ! と最近何故か機嫌のいいボスへと威嚇する。
今から俺達はお風呂に行くのだ。邪魔しないでほしい。
「お前、また転んだのか? しかもフレイまで全身泥だらけじゃねぇか。そこら中に草つけてどうなったらそうなるんだよ」
「うっそれは……」
今の俺とフレイ君はボスの言う通り全身の至る所に泥と草をつけ泥草塗れだ。フレイ君と共に山へ山菜採りに出掛けた際、昨日雨が降ってぬかるんでいた土を誤って踏んで滑ってしまい、その時につい近くにいたフレイ君の腕を掴んでしまって二人仲良く斜面を滑り落ち泥だらけになってしまったのだ。くっ! 俺の不幸体質のせいでっ……と言いたいところだが、フレイ君曰く「……これはただツキさんがドジなだけです」とニッコリとした笑顔で言われた。
……あの時のフレイ君ちょっと怖かったっす。
フレイ君に胸の内の話をしてから早一週間。不幸はなくなり、ドジは健在だがいい毎日だ。そう、いい毎日であるはずなのに、ある悩みの種のせいで全然素直に喜べない。だって油断してたらすぐにこうやってきちゃうから。
「あ! ち、近づいたらダメっすよ!」
そーっとボスがこちらに近づいてこようとしていることに気がつきシャー! と威嚇した。
「……お前は犬か猫かどっちになりたいんだよ」
「そんなのどうでもいいっすよ! それ以上近づいたらダメっすよ。近寄らないでくださいっす! フレイ君早く行こっす!」
「わわっ」
呆れ顔を浮かべるボスにあっかんべーっ! をしたあと、フレイ君の背中を押して急いでその場から離れる。
「待てコラ」
「ぐえっ。ぎゃっ! 離してっす!」
首根っこを掴まれてボスに捕まった。ジタバタ暴れても拘束は外れず、キッとボスを振り返り睨みつけた。
「離したら逃げんだろ」
「当然っす!」
「……んなこと言うなよ……」
「うっ……」
いつにもなくしょんぼりとした様子を見せるボスに、言葉が詰まる。
「お前最近俺を避けすぎだ。……傷つくだろ?」
「っ! だってそれはボスが……!」
ボスが悪いのだ。俺は普通に今まで通りにいようと思っていたのだ。今まで通りにボスと一緒にいようって。なのに……
「俺がどうかしたのか? ん?」
「…………」
首元から手を離し、わかってるくせにとぼけた顔を見せるボス。そんなボスを、俺はジト目で見た。
なんか腹立つっすね……。
「……もういいっす」
「待て」
付き合ってられないと歩き出すが、またボスに、今度は腕を掴んで止められそのまま抱き寄せられた。しかも、ボスは自分のところに引き寄せたあと、耳元で「逃げんなよ」と甘い低い声で囁いてくる。ゾクっと背に痺れのようなものが走った。
っなんでそこで言うんっすか///!!
「っっそういうところっすよ///!!」
「ぶッ」
熱っつくなった顔で服についた泥をボスの顔面に投げつけ、急いで逃げた。
く~~っ! っもうなんなんすかなんなんすかっなんなんすかっっ!!!! 最近のボスの距離感おかしいんっすよ!!!!
もうほんと、これに限る。なぜ逃げる? それはボスの距離感がおかしいからだ! ボスはおかしくなってしまった。最近距離感と行動がバグってる。もうちょっと節度ある距離を保っていたのに最近では会えばすぐにゼロ距離にしようとしてくる。
ぷんぷん怒りながら泥を流すため大股歩きで浴場へと向かう。が、
「あっ」
フレイ君忘れたっす。
「フレイくーん! 早く来るっすー!」
慌てて振り返りフレイ君を呼んだ。本当なら迎えに行きたいところだが、それをしてはまたボスに捕まってしまう。
「はーい」
「ったく、あいつなにすんだ。口ん中に泥入ったじゃねぇか」
「……ふっ、自業自得」
「……フレイ、てめぇ」
「フレイ君!」
早く逃げるっすよ!!
63
あなたにおすすめの小説
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~
トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。
突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。
有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。
約束の10年後。
俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。
どこからでもかかってこいや!
と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。
そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変?
急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。
慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし!
このまま、俺は、絆されてしまうのか!?
カイタ、エブリスタにも掲載しています。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています
八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。
そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる