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68.ボスがおかしいっす!
しおりを挟む不幸体質。それは俺を悩ませる最重要案件だった。しかし、フレイ君によってそれはなくなり、真の俺の優秀さをボスや仲間達に知らしめることができるようになった。もうお皿は割らない。箒も折らない。何も壊さないし、誰の上にも何も落とさない。もう、レト兄やイーラさん、モー達みんなから毎日褒められ、お菓子を貰える毎日だ。
こんな幸せな日々はフレイ君のお陰。だからフレイ君ばんざい! 大好き! もう俺に恐れるものなどない! 悩みなどないのだ! やったー! ……の、毎日なはずなのに、俺は今ずっと悩んでいる……。
「ツキ。お前またえらく汚れてんな」
「ヒッ!? ボス!」
「わっ」
聞こえた声にさっ! とフレイ君の後ろに隠れ、警戒体制に入った。
「なんすかボス。俺、今忙しいんっす!」
ヴゥッ! と最近何故か機嫌のいいボスへと威嚇する。
今から俺達はお風呂に行くのだ。邪魔しないでほしい。
「お前、また転んだのか? しかもフレイまで全身泥だらけじゃねぇか。そこら中に草つけてどうなったらそうなるんだよ」
「うっそれは……」
今の俺とフレイ君はボスの言う通り全身の至る所に泥と草をつけ泥草塗れだ。フレイ君と共に山へ山菜採りに出掛けた際、昨日雨が降ってぬかるんでいた土を誤って踏んで滑ってしまい、その時につい近くにいたフレイ君の腕を掴んでしまって二人仲良く斜面を滑り落ち泥だらけになってしまったのだ。くっ! 俺の不幸体質のせいでっ……と言いたいところだが、フレイ君曰く「……これはただツキさんがドジなだけです」とニッコリとした笑顔で言われた。
……あの時のフレイ君ちょっと怖かったっす。
フレイ君に胸の内の話をしてから早一週間。不幸はなくなり、ドジは健在だがいい毎日だ。そう、いい毎日であるはずなのに、ある悩みの種のせいで全然素直に喜べない。だって油断してたらすぐにこうやってきちゃうから。
「あ! ち、近づいたらダメっすよ!」
そーっとボスがこちらに近づいてこようとしていることに気がつきシャー! と威嚇した。
「……お前は犬か猫かどっちになりたいんだよ」
「そんなのどうでもいいっすよ! それ以上近づいたらダメっすよ。近寄らないでくださいっす! フレイ君早く行こっす!」
「わわっ」
呆れ顔を浮かべるボスにあっかんべーっ! をしたあと、フレイ君の背中を押して急いでその場から離れる。
「待てコラ」
「ぐえっ。ぎゃっ! 離してっす!」
首根っこを掴まれてボスに捕まった。ジタバタ暴れても拘束は外れず、キッとボスを振り返り睨みつけた。
「離したら逃げんだろ」
「当然っす!」
「……んなこと言うなよ……」
「うっ……」
いつにもなくしょんぼりとした様子を見せるボスに、言葉が詰まる。
「お前最近俺を避けすぎだ。……傷つくだろ?」
「っ! だってそれはボスが……!」
ボスが悪いのだ。俺は普通に今まで通りにいようと思っていたのだ。今まで通りにボスと一緒にいようって。なのに……
「俺がどうかしたのか? ん?」
「…………」
首元から手を離し、わかってるくせにとぼけた顔を見せるボス。そんなボスを、俺はジト目で見た。
なんか腹立つっすね……。
「……もういいっす」
「待て」
付き合ってられないと歩き出すが、またボスに、今度は腕を掴んで止められそのまま抱き寄せられた。しかも、ボスは自分のところに引き寄せたあと、耳元で「逃げんなよ」と甘い低い声で囁いてくる。ゾクっと背に痺れのようなものが走った。
っなんでそこで言うんっすか///!!
「っっそういうところっすよ///!!」
「ぶッ」
熱っつくなった顔で服についた泥をボスの顔面に投げつけ、急いで逃げた。
く~~っ! っもうなんなんすかなんなんすかっなんなんすかっっ!!!! 最近のボスの距離感おかしいんっすよ!!!!
もうほんと、これに限る。なぜ逃げる? それはボスの距離感がおかしいからだ! ボスはおかしくなってしまった。最近距離感と行動がバグってる。もうちょっと節度ある距離を保っていたのに最近では会えばすぐにゼロ距離にしようとしてくる。
ぷんぷん怒りながら泥を流すため大股歩きで浴場へと向かう。が、
「あっ」
フレイ君忘れたっす。
「フレイくーん! 早く来るっすー!」
慌てて振り返りフレイ君を呼んだ。本当なら迎えに行きたいところだが、それをしてはまたボスに捕まってしまう。
「はーい」
「ったく、あいつなにすんだ。口ん中に泥入ったじゃねぇか」
「……ふっ、自業自得」
「……フレイ、てめぇ」
「フレイ君!」
早く逃げるっすよ!!
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