不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター

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67.全部承知の上で  sideモブ

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 向けられる同情の眼差しに、ボスは勝ち誇るように鼻を鳴らした。


「お前らもさっきのツキの話を聞いてただろ? キスされんのわかってても一緒に寝てたり、俺に怪我してほしくないとか俺から離れたくないからとか俺のためにとか、全部俺ばっかだったじゃねか。あいつはそれだけ俺のことが好きだってことだろ?」


 いや~まぁ知ってたけどな? と上機嫌なボスに一同「うわ~」っとドン引いた。


 何が自分ばっかだよ、ボスだけじゃねぇし。ちゃんと俺らの話もしてたし!


 そんな文句の言葉が浮かぶも、ボスのニヤニヤとした上機嫌さの理由がわかったような気がした。


 ……ボスも、なんだかんだと言いながら結構不安だったのだろう。ツキに対しどれだけボスがアピールしようともまずツキに気づかれないか、壊されるかのどちらかだ。いい雰囲気を作ってもこちらも気づかれず、かわされ、壊される。これが意図したものなのか天然のものなのか、それでもボスはツキは自分のことが好きなはずだと、どれだけ周りから自意識過剰だと言われ、笑われ呆れられ憐れまれドン引かれても思っていたのだ。


 その執着と自信には天晴れだと言うほかなかったが、なんだかんだと言いながらツキが自分を想っているか、やはり不安だったのだろう。それで我慢できずについキスをして、想いを告げた瞬間にあのツキの取り乱しよう。……だいぶショックだったはずだ。もう見てるこっちも可哀想すぎでボスを見れなかったくらいだったから。それに加えて塩を投げられ出した時のボスといえば、ショックを通り越してそんなことをするツキすらも可愛いとちょっと目が遠くなりながら笑ってたくらいだ。


 ……もう、な、これがあるからどれだけ不遜でクソ生意気で俺様なボスでも可愛げを感じてしまうのだ。これが俗に言うギャップ萌えか……。いや、ボスに萌えっつぅ言葉は使いたくねぇな。まぁ、そんなこんなであったボスの悩み。それが今日、全て解決した。


 自分を拒絶してきたことも、塩を投げつけて来ていたことも理由さえわかれば可愛いことこの上ない。全部全部俺のため。もうニヤニヤと笑いが止まらねぇ。くそ可愛い。……そうボスが思っていることが手に取るほど今のボスの様子からはわかる。


 ボスは壊れてなんかいない。ただ「ツキに好かれてる」、そのなくなりかけていた自信が完璧に復活して喜んでいるのだ。


 そう、俺がわかってるんだから俺よりボスとの付き合いが長い三馬鹿達がわからないはずがない。三馬鹿達は眉をハの字にした。


「……坊ちゃん、こう……ツキが坊ちゃんのこと好きだってわかって喜んでんのはわかったけどよぉ」


「坊ちゃんの気持ちには応えるつもりはねぇってはっきり言われてんだぜ?」


「どうすんだよ坊ちゃん」


「……坊ちゃん坊ちゃんうるせぇな。いつまでその呼び方続けんだよ。どうするもなにもそれ、俺には関係ねぇだろうが」


「「「は?」」」


 呆ける俺達に、ボスはニヤリと笑う。


「あんな根拠もねぇ話で、いや、根拠があったところで俺がツキを諦めるはずがねぇだろ? あいつは俺が好きなんだ。その自覚もしっかりと持ってる。なら、あとはあいつに頷かせればいいだけの話。そうだろ?」


 不敵に笑い、ここにはいないツキを想いまるで獲物を狙うかのようにその金の目を鋭く光らせる我らがボス。


「今からツキを俺に堕としてその気持ちを自覚させる。その手段、手間が一気になくなった。今まではあいつの態度から遠慮してやってたけど、もうその容赦もいらねぇってことだろ? いや、その遠慮のせいでここまであいつを野放しにしちまったのは俺の落ち度だったな。誰がペットだ」


「「「「「……」」」」」


 ……ああ、ボス一応あれで手加減してたんだ。遠慮ってほらみろ、やっぱツキに好かれてる(恋愛的に)自信なかったんじゃねぇか。


 ……と思った。だが、あのボスがすぐにツキといい雰囲気を作ろうとしたり、アピールしたりしていた裏で、ツキの反応を見つつ、手をこまねきながらもどこまでなら許されるのかを模索しての恐る恐るでの行動だったのかと思うとボスの健気さにもう流れる涙が止まらない。でも――


「もうこれで手ぇ出してもいいよな? それかフレイがかけた力とやらを解かせるか。んで、その上で教えてやればいいんだろ? わからせてやればいいんだろ? 俺は絶対に死なねぇよ。それを体に、心に分らせればいいんだろ? ――上等だ。骨の髄までわからせてやるよ」


「「「「「…………」」」」」


 早口に、怒りに目をギラギラ光らせるボスにその場にいる全員過去一ドン引きした。いや、もう引くを通り越して恐怖を感じた。


 なんだなんだやっぱボス怒ってんのかよ。


 その怒ってる内容についてはなんとなく察しはつく。いや、察しが付くどころかツキへ俺達からも一言言わせてほしいところだ。だが、ボスのそのやばい計画はあのツキの錯乱具合を考えるとやめてあげてくれと思う。このツキのトラウマ製造機め。


「……坊ちゃん怖ぇ」


「流石に合意なく手を出すのはダメだぞ……」


「あぁ~やばい……俺達の手に坊ちゃんが犯罪者になるかがかかってるぅ!!」


 やばいやばいと三馬鹿や他の連中も全員危機感を募らせる。だってそれほどまでにボスの目がイッちゃってるから。


「……ふぅ」


 そんなボスを見ながら、俺は誰にも気づかれぬよう小さく息を吐き出した。


 ……まぁ、目がイッちゃってたり、手を出してもとかわからせるとかちょっと物騒なことを言ってるとしてもボスがツキを大切に思っていることなんて周知の事実。ほんとうにツキが嫌がるようなことはしないことくらいわかってる。


「…………」


 ……うん、いや、たぶんしない……と思う。大丈夫。俺は信じてるぞボス!


 だってそれはもうほんと昔からボスはツキだけにゾッコンの、デレデレしまくりだったのだ。もうツキの全てがボスのツボを突きまくってるようで、普段は澄ました生意気小僧のくせにツキには甘いったらそらないんだ。


 昔はよく一人で狩りや山や森に出掛けてはせっせとツキが喜びそうなものを用意して、常にツキの気を引き喜ばそうとしていた子どもだ。昔から周りを振り回すことに長けていたボスもツキには振り回される側に回り、それに必死になるボス。それは今も昔も変わらない姿であって、ボスがずっとツキを想ってる事実も変わらない。


「……ツキは今までボスの何を見てきたのかねぇ?」


 やれやれと首を横に振った。


 このボスをツキが殺せるとでも思っているのか。確かに昔はツキが言うようにボスが生死を彷徨うこともあったがそれすらも乗り越え、一途にツキに想いを寄せ続ける懲りない男だぞ? そんなボスのツキへの愛に俺達は全員無理だとの結論にとうの昔に至っているというのに。


 死にそうで死なない男。それがラックという俺達の主だ。


 ……俺達はとっくに二人の仲を認めている。ボスのツキへの愛も相当なものだが、ツキもツキで昔からボスによく懐き、くっついていたからな。認めているどころか、側から見れば両想いのバカップル。なのにどこか初々しくも甘酸っぱい、じれじれと進まない二人の関係に俺達大人はみんな胸をキュンキュンさせながら、ボスとツキが気持ちを交わすのを今か今かと待ち受け応援していたのだ。だと言うのに、ツキは日に日にボスを翻弄するという技を覚え、ボスの必死のアピールをかわし続ける日々。何度ボスのその姿に皆涙を流したことか……。


 いや~ほんといい酒の肴になったわ~。やっぱツキはいい子だな! ツキに振り回されるボスめちゃくちゃおもろい。ざまぁと思う。


 ……ツキが心配していることはよーくわかるし、俺達だって自分達のボス主人を危険に晒したくない気持ちも当然ある。本当だぞ? 二度も敬愛する主を失いたい部下がどこにいるというのだ。けど、それでも俺は……ここにいる連中はみんな二人に幸せになってほしいと思ってるんだ。それはツキの性格を知り、二人の成長をずっと見守ってきたからこその気持ちだ。


「……はぁぁ」


 ……本当なら気にすんなっつってツキに声をかけてやりたいところだけど、あの様子じゃ伝わらねぇだろうな。


 それか俺達が気を遣ってるだけだと思いそうだ。


 俺達の言う「大丈夫」は無理から来てるもんじゃねぇんだけどなぁ。


「はぁぁあ」


 もう一度やれやれと、俺は溜息を吐いた。


 無理ではない。そしてもちろんツキへの同情からの言葉でもない。大丈夫たから大丈夫なのだ。そう思っていても言葉で伝えることのなんと難しいことか。言っても響かなけりゃ意味がない。……まぁ、ボスがここまで張り切っているのだ。なら、横から口を出すっていうのは野暮ってもんだろう。


 ツキは俺達にとって大切な仲間であり、マスコットであり癒しキャラ&ドジっ子キャラとして俺達にとって必要不可欠な存在だ。ツキの不幸体質やそれによって降りかかる厄も災も全て承知の上で俺達はみんなツキを好いて一緒にいるんだ。というか逆にその体質を利用して作戦決めたり、日常時の訓練にも常に利用されてたり(体力の向上、トラブル時の対処方法や危険物への危機察知能力の向上・応用対応力の育成などなど)、賭けに使われてたりと結構その力を生かされて有効活用されてるってこと早く気づいた方がいいと思う。役に立ちたいっつってたけど役に立ちまくりだがら。


 人間って意外と慣れるもんだししたたかなもんなんだぜ? ああ~早くボスとくっついてあんな馬鹿な考えは捨ててほしいもんだぜ。暗いツキを見てるとこっちまで調子悪くなってきちまうよ。


 ……と、そんなかっこいいっぽいことを一人考えていると……


「……そういやぁ気になってたんだけど、なんでレトはさっきから泣いてんだ?」


「ん?」


 ズーの言葉にレトを見た。さっきの涙を耐えきれなかったのか、レトはハラハラとボスの横で涙をこぼしていた。


 ……こいつもこいつで怖ぇな。何があった。


「……さぁ? 知らねぇー」


 不思議に思うも、ボスの方には何か心当たりがあるのか目を明後日の方に向けた。


「レトどうしたんだ?」


 一応聞いてみる。


「……俺は育て方を間違えてしまったんだ」


「はあ? 何言ってんだレト?」


「育て方?」


「坊ちゃんのことか?」


 俺が聞いたのに俺が反応を示す前に三馬鹿達が反応した。


 ……まぁ、別にいいけどな!! 


 そんな三馬鹿達にレトは暗い声で話し出す。


「……昔からラックはムッツリな奴だって知ってたはずなんだ」


「あ? 喧嘩売ってんのかてめぇ」


「「「「「……?」」」」」


 いまいちレトの言いたいことがわからない。ボスがムッツリなのは周知の事実だ。


「わかっていたんだ。なのに子どもだからと俺はボスとツキが一緒に寝るのを許可してしまっていた!! せめて俺も一緒にいて見張っていてやれば!!」


「「「「「……? …………ハッ」」」」」


 ……その時、全員思い出した。そう言えばツキは寝ている時によくボスからちゅっちゅっとされていたと言ってたじゃないか。


 なんちゅーガキだ!! 俺達の知らぬ間にツキ(息子)に手を出していたのかこの男は!!


 自分の分が悪くなったのを感じ取ったのかボスは素知らぬ顔で晩飯をとりにカウンターへ行く。


 今でも浮かれ気分なのだ。この勢いのままではボスがツキになにをするかわかったものではない。俺達がしっかりとボスの手綱を握らなくては。


「「「「「コク」」」」」


 その場にいる者達で目配らせだけでツキを守るぞ同盟を結成した。二人の仲を応援はしているが下手にツキに手を出そうというものならば俺達から愛の鞭が飛ぶことになるであろう。気分は娘を守らんとする父親気分。


 それはそれ、これはこれなんだよ!


 そして――


「♪」


 機嫌良く飯を食べる自分達の主に、みんなして苦笑混じりの溜息を吐いた――。





『……何ここ? いい人しかいないの? ……なんかすっごい心重たい……』

『え? フレイ君どうしたんっすか? 心???』



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