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63.初めてじゃないんっす 

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「……え? 死? 誰がですか?」


「ボスがっす……」


 面を食らったような顔をするフレイ君にしょんぼりと答えた。


「……それはどうして……」


「……俺の体質のせいっす」


「……体質?」


 コクリと頷くと、フレイ君は困った顔をする。


「……体質……でも不幸はもう……」


「それでもダメっす」


 いくらフレイ君が魔法か何かをかけてくれて、もう悪いことが起こらなくなったといっても、それがいつ解けるかわからないのだ。ボスと恋人同士になれたとして、フレイ君の力が解ける度にフレイ君が力を使ってくれたとしても、人間いつ、どうなるかわからない。……もし、フレイ君の力が解けてしまった時、そこにフレイ君がいなければ、そしてそこにボスがいてしまえばボスは死んでしまうだろう。それほどに俺の体質は恐ろしく、警戒するに越したことはないものなのだ。


「……でも死って。流石にそれはないんじゃ……」


「そんなことないっす」


 頭を振った。甘い。甘すぎる。俺を舐めてもらっちゃいけない。


「ボスが俺と付き合ったりなんかしちゃったら絶対にボス死んじゃうっすよ」


「……どうしてそこまで言い切れるんですか?」


「経験済みっすから」


「経験?」


「そうっす」


 ふっと悲しく笑い、腕を組んで俺はうんうんと頷いた。これらの言葉は何も想像で言っているのではないのだ。その前段階でそれほどのことを経験済みだからこそ自信を持って言える言葉なのだ。


「……それはどういう意味ですか?」


「……実は俺、ボスとキスするのこの前のが初めてじゃないんす。もう何回もしてるんっすよ」


「え?」


(((((……え?))))) (……え?)  (……シラ~)


 怪訝な表情から一変、目を丸くするフレイ君。そうじゃなかったらキスされたくらいであそこまで取り乱し、パニックになったりしない。……たぶん。


「……へー初めてじゃないんですね」


「そうっす。経験あるからこそ厄除けのためにボスに塩を振ったんっすよ?」


「なるほど、そうでしたか。……ちなみにそれ初めてはいつの時なんですか?」


「え? は、初めてっすか?」


 フレイ君、なかなかなこと聞いてくるっすね。


「えと、初めて……初めては六歳の時っす///」


((((((…………))))))(…………シラ~)


「……そんな小さな頃に……」


「へへ///」


 子どもの頃の話といえども、ちょっと照れてしまう。あの時の気持ちは一生忘れることができないほどふわふわ温かく、嬉しく幸せなものだった。……まぁそれはその日合わせてほんの三日程までの話だったが。


「……フレイ君。俺が昔、奴隷でボスに助け出されたのは知ってるっすよね?」


「ええ、まぁ……」


「……ボスは……家から逃げる時に俺も一緒に連れ出して助けてくれたっす。だから今俺はここにいるんっすけど……、その逃げる前にボス、俺の所に来て事前にその話をしてくれたんっすよね。それで、迎えにくるって言われてボスにキスされたんっすけど、そのせいでボス死にかけたんっすよね……」


 昔を思い出す。


 奴隷の頃、俺がいた場所はボスが住んでいた屋敷ではなく、そこから少し離れた森の中、急遽地中に掘られた洞穴の檻の中で一人、飼われていたのだ。俺は厄病神だから殺すのも、近くに置いておくのも怖かったようで、奴隷として飼われ、暫くしてからはずっとそこにいた。そして、ひょんな事からそんな俺の存在を知ったボスが俺のところに訪れてくれるようになり、仲良くなって一緒に逃げようと言ってくれたのだ。


「ボス、二日後には迎えに来るって言ったんっすよ? ……なのに全然来なくて、その約束の日の……四日後くらいっすかね? 血だらけで俺の所まで来たんっすよ」


「……血だらけですか」


「そうなんっすよ!」


 あの日のことはその受けた衝撃と共に今でも鮮明に覚えている。どうやらボスは屋敷から逃げ出す際に、叔父さんに逃亡を勘付かれてしまったらしく酷い暴行を受けてしまっていたそうなのだ。途中でモー達が助け出せたからよかったものの、ボスはそんなモー達の手を振り切り、傷の手当ても受けずに背中が血塗れになるほどの鞭後を残しながらも一直線に俺を迎えに来てくれた。


 だけど、俺はボスが来てくれた時そんなボスの様子に気づくことはなく、純粋にボスが来てくれたことを喜んだ。その日はあいにくの豪雨で、夜だったこともあり、俺がいた場所は真っ暗で全然そんなボスに俺は気付けなかったのだ。ボスが檻に寄りかかり、そんなボスに触れた自分の手に血がついたことで漸くボスの状態に気付いたほど。当然パニックになる。


「しかもっすよ? その時ちょうどおっきな雷が落ちて偶然檻までの道が塞がっちゃったもんっすからモー達が助に来てくれるまで時間がかかっちゃって……。ボス死んじゃうかと思うくらいやばかったんっすよ?」


 途中からボス喋らなくなるし、雨に濡れてびしょびしょだし、だんだん冷たくなっていくし、なのに檻から出られないためボスの手を握ることくらいしかできなくて……。いつ助けが来てくれるのかも、本当に来てくれるのかさえもわからない恐怖の中で、モー達が助けに来てくれるまでずっと暗闇の中そのままだったのだ。トラウマにだってなるだろう。ましてやこれらは俺のせい、俺とボスがキスをしたせいなのだから。



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