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64.ここに居させてほしいんっす
しおりを挟む「……ツキさんのせいって……特にそれがキスせいって決まったわけじゃないんじゃ……」
話した内容にフレイ君は困ったように眉を下げるも、俺は再び首を横に振った。
「絶対俺のせいっす。キスのせいっす。だってそれ以外にもあったっすから」
あの日の出来事は俺にとってトラウマになるほどのものであったけれど、当然それはそれでキスとは結びつかなかった。キスと言ってもちょっと「ちゅっ」としただけであんなことが起きるだなんて誰が想像できるだろうか。だが、キスが原因であろうと決定付ける出来事が他にも起きたのだ。
俺はボスに助けられてからしばらくはボスと共に過ごし、夜眠る時も一緒に眠っていた。その時にボスがゴソゴソと、たまに寝ている俺の口にちゅっとしてきていたのを知っているのだ。
「……初めは気づかなかったんっすけどね。ボスとキスしたら一週間以内に絶対にボスは酷い不幸に遭うんっすよ……。強い魔物に襲われたり、橋が崩落して谷底に落っこちちゃったり、事件に巻き込まれたりとかしていっつも酷い怪我をして血塗れか、何回も生死を彷徨うんっす……」
そうなってくると流石にこれは俺が原因なのではと気づく。これまでも俺のせいで誰かが怪我をしたことはあれど生死を左右するような怪我を負ったことはなかった。なのにボスとキスをすれば高確率で、ボスは生死を彷徨うのだ。しかも即日じゃなくて期間が空くのが厄介なところ。ホッとしたところに襲いかかってくるのだ。
「そんなの気のせいじゃ……」
「気のせいじゃないっすよ!!」
ダンッとテーブルを叩いた。
「キスしたら絶対ボス、雷に撃たれたり、ドラゴンと鉢合わせして死闘繰り広げたりするんっすよ? ドラゴンはなんとか引き分けになったみたいっすけど一週間目覚さなかったっすし! その前は 魔毒牙豹って毒持つ魔物に襲われてっ! 引っ掻かれてっ噛まれてっ、勝ったんっすけど毒回ってボス死にかけたっすもん! 一人で戦っていっぱい怪我するっすもん! 目覚さないっすもん! こんなのっ、絶対いつかボス死んじゃうっすよ!!」
「いや、それだけ危機に見舞われて死なないならもう逆に死なないんじゃないんですか? なんで雷に当たって死なないの? ドラゴン? 国一国の覚悟はいるんじゃない? それに魔毒牙豹って一発で死ぬほどの猛毒持ってなかったっけ? え、それいつの話? いくつの時の話? ボスさんって本当に人間ですか???」
「人間っすよ!!」
ワッ! と叫んだ言葉に返って来た冷静な言葉にまたワッ! と叫び返した。
確かにっすよ! ボスはみんなが「あ、あれは死んだな」って思う目にあっても生きてるっすしっ、だんだんと適応していって脅威じみた生命力と強さと状態異常と毒耐性を身につけていってるっすけどそんなのいつどうなるかわからないじゃないっすか!
だからこそ、初めは隙あらば寝ている俺にちゅっちゅっとしてこようとするボスに感じていたドキドキも、次第に恐怖のドキドキへと変わっていき一時期全く眠れなくなった。それでこれはダメだとボスのためにも、自分のためにもとボスと一緒に寝るのをやめ、距離を少しおくことで見事、ボスが死にかける回数は減ったのだ。
「だから俺が思うキス=厄災は間違ってないと思うんっす」
この間は油断して部屋に行ってしまったが、行くべきじゃなかった。逃げればよかった。今回はことが起こる前にフレイ君が俺の体質を封印してくれていたおかげでことなき事を得ることができたが、そうでなければどうなっていたことか。
「……っ」
想像してブルっと体が恐怖に震えた。
「……なるほど」
フレイ君の言葉にそっと顔を伏せる。ボスからの告白は、本心で言えばすごく嬉しいものだった。昔はちゅっちゅとされていたし、好きだと言われたこともあったから両想いだったかもしれない。だけど、それはもう数年も前のことで、一緒に寝ないと言って部屋も別にすると言って大喧嘩をしてからそんなことはなくなり、言われなくもなった。最近では、昔のあれは俺の夢か幻かボスの勘違いだったんじゃないのかと思いだしてきていたところだった。ボスはこう……ペットに対して向けるような好きと恋愛感情とを間違え、今はそれを自覚して俺を……
「それは無理があるんじゃ……」
「え? そ、そうっすか?」
フレイ君の俺の思考への返答にドキリとした。
なんかボスにもそういう雰囲気なかったっすか? 昔のボスの好きとかキスは本気だった気がするんっすけど、最近のボスのキスっぽいものをしてきそうな雰囲気とか、なんか変に色っぽい空気出してきたりの時とかのあれ、真剣じゃなくてなんか冗談そうな雰囲気混ざってなかったっすか? 俺の反応見て遊んでるような、愛玩動物を愛でるような雰囲気なかったっすか? ……ハッ! もしかしてこの間話してたボスがストレス発散で愛でるって言ってたの俺っすか!? ……じゃあやっぱりボスの好きって恋愛感情じゃないんじゃ……いや、今は置いとこうっす。
とりあえず、今まで俺はボスがペット認識なら甘えても許されるかなと思っていたのだ。……不幸は幸せが大好きだから。今の俺は十分幸せで仲間にも恵まれている。そんな中で、ボスとキスをしたり、ましてやボスと付き合えた日には、その日からは俺は毎日すっごく幸せな気持ちになることは間違いない。……だからこそ、その過ぎたる幸せを消そうと、不幸はやってくると思うのだ。だから今のままでいい。今のままがいい。ボスのことは好きだけれど、今の状態だと不幸も許してくれるから、これ以上を望めばボスの命が危ないから、俺はボスとのこれ以上の関係を望まない。
「……俺……本当はここにいない方がいいんじゃないかって思うんっすよ?」
ずっと前から思っていたことをポロッと漏らしてしまう。不幸は幸せが好き。不幸は今の状態だと許してくれる? ……そんなことはないと思う。だって俺はボスのことも好きだけれど、ここにいるみんなのことも大好きなのだ。こんなにも面白くて楽しい、こんな俺を受け入れてくれるような仲間達はそうそういない。今だってとても幸せだ。……だからこそ、みんなにも不幸が襲いかかってしまっている。
今は「慣れた」と笑っている仲間達も、昔はよく傷だらけになっていた。今だって、昔ほどではなくても俺といて怪我をすることもある。俺がいなければしなくて済む怪我をするのだ。俺の大好きな人、大好きな仲間達が。そんなの嫌だ。嫌だけど……
「……俺、悪い人間っすからどうしてもみんなと離れたくないって思っちゃうんっすよ……」
悪い人間だから、みんなが怪我してしまうとわかっていても此処から離れられない。「もう慣れた!」と笑ってくれるから、それに甘えて此処から離れられない。こうすれば大丈夫。こうしなければ大丈夫だからと馬鹿な頭で必死に考えてここに居ていい理由を作っている。不幸は思うことの逆を起こすことが好きだけれど、これは許してくれている。だからそれに縋って、信じて、このままでいる。
だって一人はとてつもなく悲しく、恐ろしいものなのだ。ここならみんな笑って俺の存在を認めてくれる。みんなが俺の側にいてくれる。一人じゃない。……そんな幸せを、俺は手放せない。
「……フレイ君。俺、ボスのこと好きっすよ。でも、だからこそ俺はボスと一緒になるつもりはないっす。俺、ここにいたいっすから、みんなと一緒にいたいっすから。みんなから出て行けって言われるまで俺はここにいるんっす」
フレイ君を見つめ、はっきりと告げた。
ボスのことが好きだから、死なせたくないからボスの気持ちを受け取ることはできないし、しない。でもボスも他のみんなも大好きだからここにいる。それがみんなを危険に晒すことだとしてもみんなの「大丈夫」を信じてここにいる。これでは俺は本当にタチの悪いみんなの厄病神だ。……だけど、それでも俺はボスが、みんなが許してくれるその時まではここにいて、少しでもみんなの役に立ちたいと思っている。立たせてほしいと、それでここにいさせてほしいと思っているのだ……。
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