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62.そういえばそうっすね…

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「えーと……」


 フレイ君から言われた言葉になんて答えればいいのか戸惑った。フレイ君は俺とボスの恩人だ。だからこそ、フレイ君が知りたいことなら機密事項以外のことならなんでも話すつもりでワクワクとフレイ君の言葉を待っていた。……だが、これは予想外だった。


『ツキさんってボスさんのこと好きですよね? もちろん恋愛の意味で』


 恋愛……。ボスのことをっすか? ……。


 パッと笑う。


「そんなことな――」


「あ、嘘はなしですよ? ツキさんなんでも聞いて下さいって言ってくれましたよね? ぜひ本当のことをお願いします!」


「…………」


 先手打たれたっす。確かに言ったっす。言ったっすけど~(泣)。


 全てを聞かず遮られた言葉。自分が言った言葉に早くも後悔した。そんなこと聞かれるとは思ってなかったのだ。この間もボスに聞かれたし一体なんなのか……ん?


 ……あれ? なんか忘れてるような気がするっす。


「それでどうなんですか? ツキさんボスさんのこと好きなんですか? 好きですよね?」


「……っ」


 一瞬何かを思い出しかけたが胡散する。フレイ君は興奮しているのかやや早口だ。


「えぇとっすね……」

 
 ……嘘……なし……ボス……好き……あぅ~悩むっす。悩むっすけど、大丈夫っす。ここにボスはいないっすもん。なら……


「好きっす……」ポツリ


 少々照れながら、小さな声で言った。


 ガン!!

「ん?」


 (~~!!~~!!)←喜びを必死に耐えてガッツポーズをしてる

 
 (ボス静かに!) 


 (((((ぉ~……)))))


「?」


「ツキさん?」


「あ、ごめんっす」


 声をかけられ、横に向きかけていた体の向きをフレイ君に戻した。だが、どことなく気恥ずかしく、もじもじとしてしまう。なので前へと曲がりそうになる腰をピンっと伸ばしてなんでもない顔を貼り付けた。それでも頬っぺたは熱い。


「大丈夫です。でもやっぱりツキさんもボスさんのこと好きだったんですね。じゃあなんでボスさんを振ったんですか?」


「え? 振ったすか?」


「え? 振りましたよね?」


 きょとんと返す俺にフレイ君もきょとんとして二人揃って首を傾げた。


 だって振ったっていうことはボスから告白されたってことっすよね? そんなことあったすか? いつ……


『ツキ、愛してる。お前が何を考えての言葉かは知らねぇけどな、その嘘くさい笑顔をやめろ馬鹿が。……ずっと昔から好きだったんだ。いい加減俺のものになれ、ツキ』


 …………。


「ツキさん?」


「……そういえばあったっすね」


 キスの衝撃と諸々の事態に忘れてたっす。はははははははははは! …………。


 ボンッッ///  ガシャンッッ

「ツキさん!?」


「っご、ごめんっす!!」


 身体が沸騰する勢いで熱くなった。跳ね上がった衝撃でテーブルにあったコップを落とし割ってしまい、あわあわと割れた破片を拾いその場を片付けた。


「……っ///!!」


 そ、そうっすよ俺。告白されたっすしキスもされたんだったっす!!


 キス=ボスへの厄災が強過ぎて忘れていた。なのに思い出してしまったからにはあの時のボスの真剣な表情と言葉とが何度も脳内で再生され、頭を振っても止まらない。


 や、やばいっす! どうすればいいっすか? 俺、どうボスを見て接すればいいっすか!? いや、でも!!


「フレイ君なんで告白されたこと知ってるんっすか!?」


「告白だけじゃなくてキスされたことも知ってますよ?」


「ふぁ///!?」


 これは恥ずかしいっす!!!


「っ/// ~~///!」


 あわあわ手を動かし、口をパクパクさせていると、フレイ君は溜め息を吐き、呆れた表情を浮かべた。


「はぁぁ……ツキさんそんな真っ赤になって喜ぶくせになんでボスさんのこと振ったんですか?」


「喜っ///!? ……ん? え? 振ったっすか?」


「振りましたよね?」


「え? あー……」


 ……そういえばそうだったっす。


 浮き上がっていた気持ちが一気に下がった。……告白されて、キスされてそれでパニックになって暴れ、離してと嫌だと拒絶もいっぱいした。あの時は、ボスにキスをされて告白とかを考えてる暇などなく、頭がいっぱいいっぱいになり、ボスから離れることしか頭になくて告白自体を拒絶したわけではなかった。だが、確かその前に俺自身ボスには恋愛感情はないと言っていたではないか……うん、そうだ。


 ……俺、ボス振ったっすよね。ボスのことは好きっすけど、もしあの時のキスがなくて直接告白されただけだとしてもやっぱり「ごめんなさい」したと思うっす。


 そう考えながら椅子へと座り直した。俺の考えを読んだのかフレイ君は困ったように眉を下げた。


「……ツキさん。ボスさんがツキさん一筋で童貞な事くらい知ってるでしょう? 両想いならどうして気持ちに答えてあげないんですか?」


「えぇ!? ボスって童貞なんすか!?」


 (((((ぶっ!!)))))      (…………)


 これは衝撃的な事実だ。まさかのボスが童貞。あんなにもカッコよくてモテモテで男も女もよりどりみどり選べて、実際遊んでると思っていたボスが童貞……


「……ボス……女の人遊びも男の人遊びもいっぱいしてると思ってたっす」


「……いや、そんなこと思ってたんですか? 流石にボスさんが可哀想ですよ……」


「だってモー達がボスと花街に行ったって、入れ食い状態だったって言ってたっすから……」


 (……は?怒)    (((あ、やべっ))) 


 ボスからそんな話を聞いたことはなかったが、俺はモー達が影でコソコソと花街に行った時の話をしているのを何度も聞いたことがあるのだ。三人とも「流石ボス! 選びたい放題の遊びたい放題だったな!!」「ボスの手管にかかりゃ情報を聞き出すの早いったらないわ」「あの女ったらしの男たらしめ! 羨ましいぜ!」ってガハガハ笑っていたのを知っているのだ。だからボスも相当遊んで慣れているんだろうなとずっと思っていた。


 (…………殺)   (((…………汗汗ッ)))    


「……なるほど。まぁその辺の事実確認はボスさんに直接聞いた方が良さそうですね」


「…………」


 ……いや、ちょっと聞きにくいっすよ?


 一体ボスにどう聞けばいいというのか。「ボスって童貞なんっすか?」とか? 「入れ食い状態じゃなかったんっすか?」とかを聞くのか? ……告白前なら聞けたかもしれないが、一応ボスを振った身として流石の俺でも聞く勇気は持てな……いや、場合によっては聞けるか?


 ……ちょっと気になるっすもんね。


「まぁ、話を元に戻しましょうか。ツキさんもボスさんのことが好き。両想いなのにどうして断るなんて真似したんですか?」


「……だってっす……」


 常にない様子でフレイ君がグイグイ聞いてくる。どことなくその目が生き生きしているように見えるのは俺の気のせいなのか。……答えに悩むこの疑問。だが、フレイ君は俺の体質を治してくれた俺とボスの恩人。理由くらい話してもいいかと話すことに決めた。


「……俺は……ボスとは一緒になっちゃダメっすから……」


「どうしてですか? 好きなんですよね?」


「……」


 コクリと頷く。ボスのことはずっと前から誰よりも、何よりも大好きだ。……でも、だからこそ今の距離間がちょうどいいのだ。これ以上を求めてしまえばボスはきっと……


「死んじゃうっすから……」




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