上 下
62 / 96

61.聞く体勢に    side No

しおりを挟む



 ツキのにこやかな機嫌のいい返事にその場にいた者達はコソコソ身を寄せ、顔を寄せ合いツキにバレぬよう話し出した。


 コソコソ

(なんでツキの野郎あんな素直に頷くかね……)


(馬鹿なのか? お馬鹿ちゃんなのかツキちゃんは)


(てか不幸を止めるってなんだ? やっぱあれ呪われてたのか?)


(ほんとフレイちゃん謎だわ~)


 ……ここは食堂。しかも今は最後のご飯時。当然そこにはツキとフレイだけではなく、モー達を含む多くの者達が晩ご飯を食べに来ていた。実は皆、時間が経つにつれて元気をなくしていくツキの様子にソワソワと心配していたのだが、フレイからの任せろ来るなという笑顔の圧に声をかけられないでいたのだ。


(なぁどうする? 誰かあれ突っ込みに行くか? それとな~く自然に話を戻しに行くか?)


(行った方がいいよな? ツキあのままじゃマジで聞がねぇぞ。どうする? ジャンケンで決めるか?)


(ボスもレトもいねぇしな。いや、待て。こういうのはモー達が一番得意だよな? ならお前らが行ってこいよ)


(((えー。まぁ、いいけどな!)))


 そう、コソコソとした短い会議を終わらせ、さぁ自然にとモー達が立ち上がり、それを援護するためみんながそれぞれ腰を浮かし、体の向きを変え始めた。――が


「そう言えばツキさん。僕ツキさんに聞きたいことがあるんですけど……」


「はい! なんっすか? なんでも聞いて下さいっす!」


「じゃあ――」


「ん? あ。ツ――バン!!  ガッ! づッッ!?」


「ラッ!?」


「チッ」


(((((ビク!?)))))


「ん? ……あれ? なんか今レト兄の声しなかったっすか?」


(((((……)))))


 ツキがきょろきょろと辺りを見回す。だが、全員目を合わせないことでそれをやり過ごした。


「え? そうですか? 風で扉が閉まった音じゃないですか?」


「? そうだったんっすかね?」


(((((……)))))


 ……キラキラと目を輝かし、さぁ! さぁ! とフレイの言葉だけを待っていたツキの耳には、あのラックの痛ましい声は届かなかったのだろうと全員が察した。そして、皆、口を噤み扉の向こうで悶えているであろうラックに同情の目を向けた。


 見る限り風は吹いていないし、窓も開いていないのだから扉が閉まったのは風のせいじゃない。それにラックがツキに声をかけようとしたタイミングで扉が勝手に閉まったのだ。それと同時に聞こえたフレイの舌打ち。ツキの疑問に答えるフレイの素知らぬ顔のなんと怪しいことか。……だが、やはりどことなく漂うフレイの黙ってて圧に、全員とりあえずさっきの状態のまま、お尻を浮かしたり体の向きを変え固まったりした不自然な体勢のままスルーを貫くことに決めた。そして――


「それでツキさんに聞きたいことなんですが……」


「あ、はいっす。なんすか?」


「ツキさんってボスさんのこと好きですよね? もちろん恋愛の意味で」


(((((!?)))))


((っ!?))


 フレイの言葉を聞くや否や食堂内にいた全員素早くサッと音も立てず椅子に座り直し、姿勢を正し聞く体勢を整えた。そして、ツキにその存在を意識されぬよう限りなく気配を薄めさせながら二人の会話へと耳を集中させる。それは部屋の外にいるラック達ですらもだ。


 これは全員が気になってるお話なのだ――。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スキルも魔力もないけど異世界転移しました

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
なんとかなれ!!!!!!!!! 入社四日目の新卒である菅原悠斗は通勤途中、車に轢かれそうになる。 死を覚悟したその次の瞬間、目の前には草原が広がっていた。これが俗に言う異世界転移なのだ——そう悟った悠斗は絶望を感じながらも、これから待ち受けるチートやハーレムを期待に掲げ、近くの村へと辿り着く。 そこで知らされたのは、彼には魔力はおろかスキルも全く無い──物語の主人公には程遠い存在ということだった。 「異世界転生……いや、転移って言うんですっけ。よくあるチーレムってやつにはならなかったけど、良い友だちが沢山できたからほんっと恵まれてるんですよ、俺!」 「友人のわりに全員お前に向けてる目おかしくないか?」 チートは無いけどなんやかんや人柄とかで、知り合った異世界人からいい感じに重めの友情とか愛を向けられる主人公の話が書けたらと思っています。冒険よりは、心を繋いでいく話が書きたいです。 「何って……友だちになりたいだけだが?」な受けが好きです。 6/30 一度完結しました。続きが書け次第、番外編として更新していけたらと思います。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

氷の華を溶かしたら

こむぎダック
BL
ラリス王国。 男女問わず、子供を産む事ができる世界。 前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。 ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。 そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。 その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。 初恋を拗らせたカリストとシェルビー。 キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。 ノアが秘匿される理由。 十人の妃。 ユリウスを知る渡り人のマホ。 二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

足元に魔法陣が湧いて召喚されたら、異世界の婚活だった件

たまとら
BL
レンは双子のハナと一緒に魔法陣に落ちた。 そしたら異世界の番探しに巻き込まれたのだ。

処理中です...