55 / 150
54.……。 sideラック
しおりを挟む(sideラック)
「……あ゛ぁ゛~マジうぜぇ」
「……まぁ元気出せよボス」
「「「うんうん」」」
「ウザさの原因、ほぼお前らだからな?」
ツキが眠っている医務室で、包帯だらけのレトや三馬鹿共を椅子に腰掛けながら俺は睨みつけた。
てめぇらのその目が腹立つんだよ。
「元気出せよ」と言葉では同情的な言葉を吐いてるくせに、何かを含んだような目を向けてく奴等に苛立ちは募る一方だ。それは非難か軽蔑か。しかもレト達だけじゃなく今回の騒ぎを知ってるほとんどの奴らが同じような目を俺に向けてくる。
俺はなんもやってねぇって言ってんだろ。
「おい、イーラ。ツキはどうなんだよ」
ベッドに横たわるツキを診ているイーラへと声をかける。
ツキがおかしくなって眠ってから丸四日。あれからツキは高熱を出してずっとベッドの中だ。その間、何回か目を覚ますことはあっても情緒不安定気味でいつものツキじゃない。そんなツキの側ではフレイが心配気にツキへと寄り添っていた。
「熱も完全に引いて今は落ち着いてるけど、また起きた時にどうなるかはわからないね。昨日みたいに取り乱すかもしれないし」
「……」
「ツキ君の様子を見る限り、何かの心理的外傷でこうなってるんだと思うけど理由がわからない限り……」
「……そうか……」
そう言って意味深な視線を向けてくるイーラを無視して俺は椅子から立ち上がり、眠っているツキに近づいた。それに対し、フレイ以外のこの場にいる五人の警戒する視線が俺に突き刺さったが、それすらも無視して俺は泣き濡れるツキの頬に手を当てた。ツキは拭いても拭いてもポロポロと涙を流しながら眠っている。
「はぁぁ……」
なんでこうなったかなぁ……。
ーーー
――四日前
「ツキ! おいどうした!!」
「っ離れてっす!! 離れてっす!!!」
泣き叫ぶように離れろと暴れ、俺から逃げようとするツキに、なんでこんないきなり錯乱し始めたのかわからず困惑した。こんなツキ初めて見た。
「おいしっかりしろ!! ツキ!!」
「うあ゛ぁぁあ!!! ごめんなさいっす! ごめんなさいっす! ごめんなさいっす!!」
「くそっ!」
何度名前を呼びかけても叫ぶだけでツキは一向に落ち着く気配を見せない。それどころか嫌だ嫌だとぶちぶちと毛が抜けることも厭わずに自分の髪を引っ張り頭を振りながら小さく小さく隠れ縮こまろうとするツキに、慌ててその腕を掴んで押さえにかかった。それはどこか怯えているようにも、何かから目を逸らそうとしているようにも見えた。
「ツキやめろ!! それ自分が痛ぇだろうが!」
「いやっ! やっ!!」
「や! じゃねぇんだよ!」
バタンッ!
「ボス!! どうしたんだ!!」
「「「ツキ!?」」」
「! ちょうどいいところに来たお前ら! ツキ抑えんの手伝え! あと誰かイーラ呼んでこい!!」
力の限り暴れ、俺の腕から身を隠しつつも逃れようとするツキを必死に抑えつけていると、レトとモージーズーが部屋の扉を開けやってきた。
このツキは尋常じゃねぇ。医者のイーラならここの奴らのメンタルケアとかもやってるしなんとか落ち着かせることができるかもしれないと思った。だから呼んでこいと言ったのに誰も動かない。
「「「「…………」」」」
「? っおい!」
レトもモー達も愕然としたまま動かず何も言わない。いや、レトやモー達だけじゃなく、その後ろからゾロゾロとやってきた連中すらも同じように固まって一向に動こうとしねぇ。
この非常事態に何やってんだよ!!
「やっ! やっ! 離してっす! 離してっす!!」
「ダメだ! ツキ一旦落ち着け!」
「やぁ゛ーー!!!」
「くそっ!」
なんだこれ!! ほんとどうなってんだよ!!
尋常じゃないツキの様子にどんどん焦りが募る。手を離そうにも離せば何をしでかすかわからないため容易に離せない。
「あ゛ぁ゛ぁぁあ!!!」
「おい!! お前ら早くしろよ!!」
「……あ……あぁ、わ、悪い」
「「「…………」」」
扉の前でいつまでも突っ立って固まってる連中に怒鳴れば、漸く全員動きだして俺の加勢に入りだす。けど、どこか青ざめ絶望しているかのような表情が気にかかった。
……もしかしてこいつらなんか原因知ってんのか?
もしそうなら一刻も早く問いただしたいところだが、今はツキだ。俺はレト達にツキを押さえるのを任せ、ツキと目を合わせるようにツキの前へと回る。
「ツキ、もう大丈夫だ。落ち着け。な? 大丈夫だ」
「あ……あ……ッッうわぁ゛ぁ゛ーーッッ!!」
「うぉっ!?」
「あぶねっ!!」
さっきよりも暴れるツキにレトとモーが慌てて押さえる手に力を入れた。ツキは余計に嫌、嫌と涙を溢れさせてしまう。
くそっダメか……。いつものツキならこれで大人しくなるんだけどな。
説得が失敗して、ツキの暴れが増したことでさっきよりもレトの表情が暗くなって、モー達も何か言いたげだ。
……これは先にレト達から話を聞くべきか? けどツキが……
「――ちょっとどいて! はぁっはぁっ、ツキ君大丈夫っ!?」
「! イーラ来たか!!」
どうするべきか考えていた時、部屋の前で屯っている連中を押し除け、息を切らしたイーラがやってきた。早ぇ。それだけ誰かが急いでイーラを呼びに行き、連れてきたんだろう。
「ツキさん!?」
「フレイ?」
イーラのすぐ後ろからやってきたフレイに微妙な気分になった。フレイのことは気に食わねぇが、(ムカつくことに)ツキのお気に入りだ。追い出さないとも約束したし、何かに使えるかもしれないと考えを切り替えた。
「おいイーラ、ツキのこと診れるか?」
「……パニックを起こしているみたいだね。どうしてこんなことに……」
イーラはサッと部屋の惨状を確認し、レト達を見た。するとレトを含むその場にいた全員が複雑そうに頷き、イーラも表情を暗くした。
……こいつもなんか心当たりがあんのか?
「とりあえず落ち着かせないといけないけど……この錯乱様だと少し難しそうだね。何があったかは聞いてたけど、まさかこんなことになっているなんて……」
そう言ってイーラが俺を睨む。
……なんで睨むんだ?
「ちょっと鎮静剤とってくるから待って……ってあれ? 大人しくなってるね?」
「は?」
ツキを見てみると、今さっきまでの暴れようが嘘のようになくなって、レト達に押さえつけられながらシクシクと小さく泣いていた。
「ツキ?」
「ビクッ!! うわぁぁぁーーーん!! やっす!! やぁっす!!」
「うおっと!」
「危ね!!」
「…………」
さっきまで大人しく泣いてるだけだったツキが俺が近寄って声をかけた瞬間また暴れて泣き出した。これは……
「……ボス。ちょっとこっち来ようか。というかツキ君から離れようか」
「…………」
笑顔で手招きするイーラの言う通り、そっとツキから離れ黙る。そうするとすぐにまた、ツキの暴走が落ち着いてシクシクとした泣き方になった。
「「「「「…………」」」」」
なんともいえない空気が部屋に漂った。
85
あなたにおすすめの小説
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~
トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。
突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。
有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。
約束の10年後。
俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。
どこからでもかかってこいや!
と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。
そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変?
急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。
慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし!
このまま、俺は、絆されてしまうのか!?
カイタ、エブリスタにも掲載しています。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています
八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。
そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる