不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

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55.くそ腹立つ   sideラック

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 シクシクと泣くツキの泣き声だけが響く部屋の中、フレイがツキに近づいた。


「おいっフレ――」


ビクッ! 

「ひッ」


「……」


 俺が声を上げた瞬間体を跳ね揺らすツキ。聞こえた小さな悲鳴に口を閉ざすしかなかった。


「ツキさん。そんなに泣かないで大丈夫ですよ」


「あ……あぁ……」


「おやすみなさい」


「……? …………ぁ」


「! ツキ?」


「zzz……」


 フレイがツキに手を翳した瞬間、まるでぐずった子どもが寝落ちするかのように、ツキは眠りに入った。スースー聞こえる寝息に、全員一斉に安堵の息を吐いた。


「「「「……はぁぁあ……っ」」」」


「……今のはなんだ?」


 フレイに近づいて尋ねれば普通に教えてくれる。


「睡魔魔法です。読んで字の如くの魔法です。上手くいったようでよかったです」


「……字の如くね、へーそう。……今、魔法使ってたか?」


「使いましたよ?」


「…………」


 きょとんと俺を見上げるフレイ。その割には魔力の動きがなかったような気がするが……まぁ……


「……そうか、ありがとな」


「え?」


 怪しいが助かった。ツキがこれ以上暴れて傷つくのも、泣き叫ぶのも見たくなかった。だから礼を言ったのにフレイの野郎は信じらないというように目を見開いて俺を見てくる。


「……なんだよ」


「いや……お礼を言われるとは思わなかったので。……なんかさっきから素直ですね? きもちわ……何か企んでるんですか?」


「……てめぇ」


 顔が引き攣る。


 こいつ今気持ち悪いって言おうとしただろ。嫌な奴でも礼くらいちゃんと言うわ。俺をなんだと思ってんだ。


「ボス。とりあえず今のうちにツキ君を医務室に連れて行くよ」


「ああそうだな。じゃあ俺も……」


「ボスはダメ」


「……は?」


 イーラがツキを抱き上げ連れて行こうとするのを見て、ツキをもらおうと手を伸ばせばサッとイーラに避けられる。イーラの俺を見る目は敵を見るように厳しい。


「……イーラ?」


「……悪いけど、ボスにツキ君は渡せない」


「は?」


「くそっ! 俺が悪いんだ! ラックに同情なんてしたからっ!!」


「……いや、それを言うならすぐ止めず会議なんて言った俺が……」


「酒盛り始めちまったからな……」


「油断するんじゃなかったな……」


「は?」


 なんかイーラは冷たいし、レトはレトで床に拳を叩きつけてなんか言ってるし、モー達は悔し気に拳を握りしめている。そのまま俺に突き刺さる視線に辺りを見回せば、部屋に屯ってる奴ら全員が複雑そうにしているか暗い顔してるか、中には泣きながら俺を見ている奴らもいた。けど、全員の俺を見るその瞳には俺を咎める色があった。


 ……なんだこれ?


「……ボス、ツキ君がボスに反応して暴れてたのはわかってるよね?」


「それは……」


 あんだけあからさまならまぁ……いや、でも……


「じゃあ、僕は行く」


「は? ちょっと待て!」


「待つのはお前だラック!!」


「っなんだよ!!」


 さっさと歩いて行くイーラを追おうとすればレトに腕を掴まれ阻止される。振り解こうとするが簡単には離れず、レトの俺をツキの元には行かせまいとするその本気度を感じた。


「おいフレイ! こいつどうにかしろ!!」


 じゃねぇと蹴る。


「え、僕ですか? それはちょっと……」


 じゃあ蹴る。


「うおっと!」


「チッ」


 避けられた。


「おいおいボスよォ、暴力はいけねぇよ」


「あ?」


 モーが俺の後ろに立つ。そして、ジーズーが俺の行手を遮るよう前に立った。


「しかも、散々敵視してたくせにこんな時だけすぐフレイちゃんに頼るなんてなぁ」


「人としてどうなんだよ」


「うるせぇよ」


 仕方ねぇだろうが。フレイ以外のやつら全員が俺を敵視してきやがんだがら。その唯一の髭ハゲ散らかすぞ!!


「ラック……悪い……っ。お前の気持ちに気づけず本当に悪かったっ」


「あ゛ぁ!? っ!?」


 苛立ちのまま声を荒げ、レトに視線を戻せばレトはボロボロと涙を流していた。


「うぅ……」


「……」


 思いっきり引いた。


「……落ち着けレト。しゃーねーよ」


 本気で泣いてるレトにドン引いていると三馬鹿が慰めるかのようにレトの肩を叩いた。


「俺らだってまさかボス……坊ちゃんがここまで追い詰められてんのに気づけなかったんだ」


「本当にな……。まさかあのボ……坊ちゃんが本当にツキに無体を働くだなんて誰も予想もつかねぇよ……」


「あ?」


 無体?


「あれだけツキを溺愛しててこれとか……。ツキ可哀想になぁ。あんなにも取り乱して……よっぽど怖かったんだろうぜ。首に歯形までつけられて……」


「…………」


「……なぁ坊ちゃんよぉ。気持ちがなかなか伝わらねぇからって無理矢理はダメだろ? んなこと言われなくても坊ちゃんならわかってると思ってたのによ……」


「…………」


「ずっと昔から坊ちゃんがツキのこと大切にして、想ってるのを知ってるからこそ俺達残念で仕方ねぇよ……。もう俺達坊ちゃんの親父さんお袋さん達に合わせる顔がねぇよ」


「「「「「コクコクコク」」」」」


「………………」


 三馬鹿の言葉に部屋にいる全員が頷いた。それに俺はイーラを呼びに行ったであろう仲間に尋ねる。


「…………おい、お前、イーラになんて言って連れてきた」


「……ボスが……ツキを襲ったと……」


「「「「「…………」」」」」


 悲痛な面持ちで顔を伏せ、俺から目を逸らしながら答える仲間に、全員そいつと同じ表情をした。……俺としたことが、それでようやくこいつらが俺に対して敵意を向ける理由に察しがついた。


 ……なるほどな。こいつら全員、俺がツキを無理矢理襲ってああなったと思ってんだな。


 確かに、今思い返せばツキもめちゃくちゃ暴れていたし、俺も押さえようとしてツキの服を掴んだりしてたからまぁまぁツキの服ははだけて、破けていたようにも思う。それに押し倒し、キスもしたし首筋を噛んで血まで出しちまったのは事実だ。見ようによっては俺が無理矢理ツキを襲い、ツキが抵抗したからに見える。なんでかツキは俺だけに反応して嫌がって暴れてもいたから、こいつらが勘違いしたのも仕方ないのかもしれない。そう仕方ねぇな。


「……お前ら、なんか勘違いしてないか? 確かに押し倒してキスまではしたけどそれ以上はなんもしてねぇし、しようともしてねぇよ」


 ちゃんと俺はキスだけに押し止めたぞ?


「「「「「…………」」」」」


「……なんだてめぇら、その目は」


 くそ腹立つな。


 白けた目を向けてくる連中にぴくりと頬が引き攣るのを自覚しながらも、誤解を生むような真似をしたのは俺だと苛立ちを抑え、もう一度全員を見るよう「やってない」と言った。そんな俺に部屋にいた奴らは懐疑的な目をし、一箇所に集まりコソコソと何かを話し始めた。


 コソコソ

「……なぁどう思う?」


「いや押し倒したんだろ? 押し倒した時点でアウトだし、それでなんもやってないって本気か? 坊ちゃんがツキにだぞ? んなことありえるかよ」


「な、絶対嘘だよな。絶対キス以上に手ェ出してると思うぜ? なんせ坊ちゃんだし」


「「「「「コクコク」」」」」


 どう意味だコラァ?


 三馬鹿達の俺への呼び方がボスから坊ちゃんに変わってる。どう言う意味の心境の変化だそれ。


 そうイライラするも、三馬鹿達以外の連中も次々とムカつく言葉を交わしていく。


「まぁ俺はいつかこんな日が来ると思ってたぜ?」


「ボス、ツキに対して相当拗ねらせてたからなぁ」


「でも俺はツキも悪いと思うぜ? 思わせぶりな態度ばっかとってたからな。だからボスもいい加減我慢の限界だったんだろうぜ。最近はフレイ君ばっかだったし」


「けど無理矢理はダメだろ? ツキのあれは昔からじゃん」


「うぅ……俺が悪いんだ……。無理矢理わからせるかってこの間言ってたんだ。なのにいつもの冗談だと思って簡単に終わらせてたからっ。もっと真剣に話を聞いて止めてやっていればっ!!」


「……」


 ……レトやイーラ、三馬鹿以外もそうだけどここにいる奴らの俺に対する信用ゼロだな。もう俺が無理矢理襲ったって決めつけてやがる。


「いやいやレト落ち着けよ。坊ちゃんはまだツキに告白すらしてねぇんだぜ? 無理矢理とか、思ってても急に色々なもんすっ飛ばして実行して襲った坊ちゃんが全面的に悪いって」


「はぁぁ……んなことなら早めに大人の階段登らせてやるべきだったなぁ」


「え? ジーさんそれどう言う意味? ボスってまだ童貞なのか? 結構モテるだろ?」


「いや、ほら、坊ちゃんって子どもん時からツキ一筋だから」


「うっわ~まじかぁ~。そんだけツキしか見てなかったってこと?」


「一途にツキにだけ操を立てるボスまじで尊敬するわ」


「え? でも待てよ? じゃあ童貞拗ねらせた結果がこれってことか?」


「「「「「……うわぁ~……悲惨」」」」」


「…………」



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