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40.ちょっとっすよ…?

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「んじゃあ寝るかツキ」


「はいっす!」


 暫くして話し合いは終わったようで、勝ち誇った様子のボスと、そんなボスにジト目を向けるレト兄とイーラさんがこちらへと戻ってきた。


「……まじで手を出すなよ?」


「ちゃんと我慢するんだよ?」


「……うるせぇな。出さねぇって言ってんだろ。ちょっとは信用しろよ。お前らの目には俺がどう映ってんだ」


「「飢えた野獣。ツキ(君)に関して信用はしてるけど、こっちの分野での信用は全くない」」


「……お前らあとで覚えとけよ? もういいからさっさとそいつフレイ連れて出て行け。ツキが寝れないだろ?」


「「チッ」」


「!」


 チッって、チッって舌打ちしたっすよ二人とも!


 手で払う仕草をするボスに舌打ちするレト兄とイーラさん。そんな二人に目を丸く驚いていると、二人は俺の前まできて真剣な表情で俺と目を合わせた。


「ツキ君、本当にラックと寝るの? 頭大丈夫? 意識はっきりしてる? 判断間違ってない?」


「寂しいならイーラか俺が一緒に寝てやろうか? モー達は……今、外に出てていないんだよなぁ。他の連中呼んできてやろうか?」


「ええ?」


「……おい、余計なこと言ってツキを惑わすな」


「だってなぁ……。……はぁぁ……わかった。――いいかツキ。これだけは約束してくれ。ボスだからって遠慮はするなよ。嫌なことされたら嫌ってはっきり言ってもいいんだからな」


「ボスが変な動きをしたらすぐに知らせるんだよ? 僕もレトもみんなも飛んで駆けつけてくるからね」


「じゃあなツキ。おやすみ」


「今は席を外すけど、またすぐ僕は戻ってくるから安心してね。……おやすみツキ君。フレイ君行こうか」


「え? あ、はい。えとツキさんおやすみなさい」


「? はいっす。おやすみっす」


 目をパチクリさせつつも、部屋を出る三人に手を振る。レト兄もイーラさんもいまいち話がよくわからなかった。


「……あいつら俺のこと過保護だとか甘いとか言う割にあいつらも結構だよな?」


 扉が閉まったのを見て、ボスがゲンナリとした顔で言った。


「……まぁいい。ほらツキ寝るぞ」


「はいっす!」


 またボスの場所を空けてどうぞとベッドの上をパンパン叩く。それにボスは「ふっ」と笑うとベットの中に入って来て、一緒に向かい合うように寝転んだ。


「ツキ、頭は大丈夫か?」


「大丈夫っすよ?」


「そうか」


 ボスはじっと俺を見つめたあと、俺の後頭部に手を添え、自分の方へと引き寄せた。そして、俺の頭を自分の胸元に埋めた。


「……フレイとお前が帰ってきた時、お前の意識がなくてすげぇ焦った。……あんま心配かけんな」


「ごめんなさいっす」


「無事でよかった」


「はいっす」


 怪我に触らぬ程度に力が込められた手とボスの言葉に胸がむず痒く、そして嬉しくなった。ボスにくっつくようにボスの胸元にぐりぐりと額を押し付け、それから二人でたわいも無い話をする。早く寝ろとは言われたが、つい矢継ぎ早しにいろんな話をボスにしてしまう。でもやっぱり早く寝ろと言われてしまう。


「ツキ。怪我してんだ。話はまた起きた時に聞いてやるから早く寝ろ」


「……はいっす」


 ぎゅっとボスの胸元を握る手に力を込め、顔を沈めた。そんな俺を、ボスは宥めるように抱きしめた。


「大丈夫だツキ。……そんな怖かったか?」


「…………ちょっとっすよ? ……ちょっとだけ怖かったっす」


 追いかけられる怒鳴り声や最後にフレイ君の頭に落ちようとする花瓶が何度も頭に蘇る。


「そうか……。悪いな、側に居てやれなくて」


「ボスは悪くないっすよ? 黙って行っちゃった俺が悪いっすもん……。……ボス、ごめんなさいっす」


「ラックな。あと『達』だ。謝罪はさっき聞いた。今はもうなんも考えるな」


「うぅ……でもっ……!」


 ごめんなさいっすごめんなさいっすと何度も言えば、抱きしめられたままボスに頭を優しく撫でられる。


「大丈夫だツキ」


「……っ」


「もうなんも怖くねぇし、反省してんだろ? みんな怒ってねぇよ。心配しただけだ。……起きても側にいてやるから、安心して休め」


「……っはいっす」


 優しい声に、じわじわと熱くなる目をボスの胸元に埋めて隠す。そして、ボスの服を握っていた手を離してボスの背中へと回し、ギュッと抱きつく腕に力を入れた。……外からはザァーザァーとした雨の音が聞こえる。でも、大丈夫だ。ボスがいる。ボスはあったかい。次起きた時も側にいると約束してくれた。俺は一人じゃない。一緒だ。


「おやすみツキ」


「はいっす……。おやすみっすボス……」



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