20 / 127
19.姉さん家へ!
しおりを挟む「おいツキ。ババァんとこ行くけどお前も来るか?」
「え?」
フレイ君の肩を慰め叩き、厨房へとお菓子を貰いに行ってから一週間。朝、畑仕事の手伝い中、畑に巣作っている魔物、魔蚯蚓(無害の益魔)にじゃれつかれてフレイ君と共に泥んこまみれになって泥に埋まっていた時、ボスにそう声をかけられた。ババァとはこの領地の領主である姉さんのこと。
「いいんっすか!?」
「…………」
ガバッと勢いよく立ち上がり興奮のままボスの元に駆けつければ、泥だらけだからかちょっと嫌そうな顔をされた。なお、フレイ君は魔蚯蚓との遊びに疲れ切って泥の中に引き続き埋もれている。立ち上がる様子も見せず、どうやら冷たくて気持ちいいらしい。
「ああ。フレイを一回ババァに合わせるついでにお前も連れてこいってうるせぇんだよ。嫌なら来なくていいぞ」
「行くっす!」
フレイ君も行くんなら俺も絶対行くっすし!
「そうか、嫌か、じゃあ断っとくな」
「話聞いてるっすか!?」
誘ってきたくせに、行かないと決めつけスタスタと去って行こうとするボスに飛びつき阻止する。
「うわっ! てめぇ泥だらけのくせに飛びついてくんな!」
「じゃあ連れてって下さいっすよ~」
「わかったから離れろ!! ……んでさっさとフレイを起こせ」
「はいっす!」
「…………」
そんなやりとりの後、泥に埋まっているフレイ君を救出し、立たせ、俺とフレイ君はそれぞれ泥まみれになった服を着替えた。そして、フレイ君は一応その身を狙われ探されているだろうということでフードを被っての出発となった。
姉さんの家まで近道を通って約半日からその半分ほど。ボスの気分的にその近道を通ってゆっくりと向かいたいようで、ボスと俺とフレイ君三人でのんびり歩いて向かった。フレイ君はその距離を歩いていくことに頬を引き攣らせつつ、ボスに護衛とかいらないのかと聞いていたが、向かうのは姉さんの家だしボス自身最強なのでいらない。まぁのんびりと言っても通る近道は山の中。姉さんの家から俺達のアジトまでの間には大きな山があり、普通なら迂回して進むのが正しいのだが、鬱蒼とした森の道じゃない道を道として突っ切って通っていくため、俺とフレイ君は腰ほどある段差に飛び乗ろうとして失敗して転けたり、猪に追われたり空から急降下で突っ込んで来る鳥から逃げたり、虫の大群に襲われたりと全然ゆっくりではなく走り回ってばかりで大変だった(ちなみにボスはこの程度では動じず、来てもひと睨みで追い返し、ボスのみゆっくりとしていた)。
なんで何もしてないっすのに襲ってくるんっすかね?
しかもその途中、魔物にも襲われた。角が大きくて強そうな鹿っぽい見た目のふさふさっとした毛の凶暴な魔巨角鹿だ。一心に俺に向かって走ってくるのだ。
「ギャァァァアーーーー!」
「ツキさん! あだっ!?」
もう急いでボスの後ろに隠れた。そしてフレイ君の頭に生い茂る木の枝が落ちて刺さった。
……フレイ君大丈夫っすか?
「ツキ、目瞑ってろ」
ボスはそう言うと、腰から剣を抜いて最小限の動きだけで魔巨角鹿の突進を避ける。そこから素早く足を引っ掛けると胴へと剣をブスリと刺した。
……あう~見ちゃったっす……。
その後ドカッと重たい音がするも、両手を目に当てていた俺の目にはもう何も見えなかった。
見ないっす見ないっす。
「……っ魔物をその場で一撃で……」
フレイ君の驚愕に満ちた声が聞こえる。
「これくらいならんなもんだろ」
「魔巨角鹿ってそこそこ危険な魔物では? 普通人間一人じゃ無理ですよ。この大きさだと四、五人は必要なんじゃ……」
「角さえ気をつけてればなんとかなるし、四、五人程度なら俺一人で十分だ。それよりこいつに詳しそうな言い方だなァ、フレイ」
「…………森住みですからたまに僕も見ることがありましたよ。一突きで熊を串刺しにしていました」
「へぇー、そりゃツキなら卒倒するようなもんを見たな」
「!?」
そ、卒倒はしないっすよ! ……でも、フレイ君恐ろしい場面に遭遇したことあるんっすね……。
「……そうですね。で、ツキさんはなんで目を隠してるんですか?」
「目にゴミが入っちゃったんっすよ」
別に怖いからとかじゃないっすよ?
恐る恐る目を開ければ、ボスが剣を刺した部分はボスの魔法により焼かれ、血は出ていなかった。それからボスは魔道具である巾着袋に魔巨角鹿を収納した。詳しい仕組みはちょっとわからないが、魔道具は物に魔法の陣が描かれている道具のことを言い、巾着袋には容量拡大の魔法の陣が描かれている。そのため、生命あるもの以外、こうやって大きさも無視していろんなものを中に入れ、収納してられるのだ。
魔道具ってほんと便利っすよね。俺もなんか持って使ってみたいっすけど九割の確率で一回二回使ったら壊れちゃうっすから、ボス達に持たせてもらえないんっすよね。
「よし、行くぞ」
収納した魔巨角鹿はどうやら街に行った際、素材は売ってお肉は持って帰って今日の晩御飯の足しにするそうだ。素材を売ったお金は姉さんの話が終わり次第、街で遊ぶお小遣いにしてもいいとのことで、姉さんと会うこと以外にも楽しみが増えた瞬間だった。そうして姉さんの屋敷がある街についたのち俺達は、
「お前ら、特にフレイ汚れ過ぎだろ」
「……逆にどうしてラックさんはそこまで綺麗なんですか?」
「俺だから」
「…………」
「あの、ごめんっすね? フレイ君」
まず、ボスに汚れた服を綺麗にしてもらうことになった。
76
お気に入りに追加
381
あなたにおすすめの小説
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
本当に悪役なんですか?
メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。
状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて…
ムーンライトノベルズ にも掲載中です。
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
前世である母国の召喚に巻き込まれた俺
るい
BL
国の為に戦い、親友と言える者の前で死んだ前世の記憶があった俺は今世で今日も可愛い女の子を口説いていた。しかし何故か気が付けば、前世の母国にその女の子と召喚される。久しぶりの母国に驚くもどうやら俺はお呼びでない者のようで扱いに困った国の者は騎士の方へ面倒を投げた。俺は思った。そう、前世の職場に俺は舞い戻っている。
例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…
東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で……
だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?!
ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に?
攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)
巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる