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19.姉さん家へ! 

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「おいツキ。ババァんとこ行くけどお前も来るか?」


「え?」


 フレイ君の肩を慰め叩き、厨房へとお菓子を貰いに行ってから一週間。朝、畑仕事の手伝い中、畑に巣作っている魔物、魔蚯蚓マミミズ(無害の益魔)にじゃれつかれてフレイ君と共に泥んこまみれになって泥に埋まっていた時、ボスにそう声をかけられた。ババァとはこの領地の領主である姉さんのこと。


「いいんっすか!?」


「…………」


 ガバッと勢いよく立ち上がり興奮のままボスの元に駆けつければ、泥だらけだからかちょっと嫌そうな顔をされた。なお、フレイ君は魔蚯蚓との遊びに疲れ切って泥の中に引き続き埋もれている。立ち上がる様子も見せず、どうやら冷たくて気持ちいいらしい。


「ああ。フレイを一回ババァに合わせるついでにお前も連れてこいってうるせぇんだよ。嫌なら来なくていいぞ」


「行くっす!」


 フレイ君も行くんなら俺も絶対行くっすし!


「そうか、嫌か、じゃあ断っとくな」


「話聞いてるっすか!?」


 誘ってきたくせに、行かないと決めつけスタスタと去って行こうとするボスに飛びつき阻止する。


「うわっ! てめぇ泥だらけのくせに飛びついてくんな!」


「じゃあ連れてって下さいっすよ~」


「わかったから離れろ!! ……んでさっさとフレイを起こせ」


「はいっす!」


「…………」


 そんなやりとりの後、泥に埋まっているフレイ君を救出し、立たせ、俺とフレイ君はそれぞれ泥まみれになった服を着替えた。そして、フレイ君は一応その身を狙われ探されているだろうということでフードを被っての出発となった。


 姉さんの家まで近道を通って約半日からその半分ほど。ボスの気分的にその近道を通ってゆっくりと向かいたいようで、ボスと俺とフレイ君三人でのんびり歩いて向かった。フレイ君はその距離を歩いていくことに頬を引き攣らせつつ、ボスに護衛とかいらないのかと聞いていたが、向かうのは姉さんの家だしボス自身最強なのでいらない。まぁのんびりと言っても通る近道は山の中。姉さんの家から俺達のアジトまでの間には大きな山があり、普通なら迂回して進むのが正しいのだが、鬱蒼とした森の道じゃない道を道として突っ切って通っていくため、俺とフレイ君は腰ほどある段差に飛び乗ろうとして失敗して転けたり、猪に追われたり空から急降下で突っ込んで来る鳥から逃げたり、虫の大群に襲われたりと全然ゆっくりではなく走り回ってばかりで大変だった(ちなみにボスはこの程度では動じず、来てもひと睨みで追い返し、ボスのみゆっくりとしていた)。


 なんで何もしてないっすのに襲ってくるんっすかね?


 しかもその途中、魔物にも襲われた。角が大きくて強そうな鹿っぽい見た目のふさふさっとした毛の凶暴な魔巨角鹿マキョツジカだ。一心に俺に向かって走ってくるのだ。


「ギャァァァアーーーー!」


「ツキさん! あだっ!?」


 もう急いでボスの後ろに隠れた。そしてフレイ君の頭に生い茂る木の枝が落ちて刺さった。


 ……フレイ君大丈夫っすか?


「ツキ、目瞑ってろ」


 ボスはそう言うと、腰から剣を抜いて最小限の動きだけで魔巨角鹿の突進を避ける。そこから素早く足を引っ掛けると胴へと剣をブスリと刺した。


 ……あう~見ちゃったっす……。


 その後ドカッと重たい音がするも、両手を目に当てていた俺の目にはもう何も見えなかった。


 見ないっす見ないっす。


「……っ魔物をその場で一撃で……」


 フレイ君の驚愕に満ちた声が聞こえる。


「これくらいならんなもんだろ」


「魔巨角鹿ってそこそこ危険な魔物では? 普通人間一人じゃ無理ですよ。この大きさだと四、五人は必要なんじゃ……」


「角さえ気をつけてればなんとかなるし、四、五人程度なら俺一人で十分だ。それよりこいつ魔巨角鹿に詳しそうな言い方だなァ、フレイ」


「…………森住みですからたまに僕も見ることがありましたよ。一突きで熊を串刺しにしていました」


「へぇー、そりゃツキなら卒倒するようなもんを見たな」


「!?」


 そ、卒倒はしないっすよ! ……でも、フレイ君恐ろしい場面に遭遇したことあるんっすね……。


「……そうですね。で、ツキさんはなんで目を隠してるんですか?」


「目にゴミが入っちゃったんっすよ」


 別に怖いからとかじゃないっすよ?


 恐る恐る目を開ければ、ボスが剣を刺した部分はボスの魔法により焼かれ、血は出ていなかった。それからボスは魔道具である巾着袋に魔巨角鹿を収納した。詳しい仕組みはちょっとわからないが、魔道具は物に魔法の陣が描かれている道具のことを言い、巾着袋には容量拡大の魔法の陣が描かれている。そのため、生命あるもの以外、こうやって大きさも無視していろんなものを中に入れ、収納してられるのだ。


 魔道具ってほんと便利っすよね。俺もなんか持って使ってみたいっすけど九割の確率で一回二回使ったら壊れちゃうっすから、ボス達に持たせてもらえないんっすよね。


「よし、行くぞ」


 収納した魔巨角鹿はどうやら街に行った際、素材は売ってお肉は持って帰って今日の晩御飯の足しにするそうだ。素材を売ったお金は姉さんの話が終わり次第、街で遊ぶお小遣いにしてもいいとのことで、姉さんと会うこと以外にも楽しみが増えた瞬間だった。そうして姉さんの屋敷がある街についたのち俺達は、


「お前ら、特にフレイ汚れ過ぎだろ」


「……逆にどうしてラックさんはそこまで綺麗なんですか?」


「俺だから」


「…………」


「あの、ごめんっすね? フレイ君」


 まず、ボスに汚れた服を綺麗にしてもらうことになった。

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