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18.不思議なフレイ君っす
しおりを挟むフレイ君にアジトを案内して少し経った日。
その日、俺は夢を見た。フレイ君がボスと楽しそうに話しをしていて、モー達みんなに囲まれて笑っている姿を。そんな光景を俺は遠くから一人で眺めている。……なんともいえない感覚の夢で、その時の自分が何を思っていたかなどは全く覚えていないが、やけにその光景だけは記憶に残る、そんな不思議な夢を見た。
「――……んー?」
フレイ君がいないっす。
お昼。俺が転んで破いてしまった服を着替えている間、トイレに行って来ると言っていたフレイ君は待てど暮らせど戻ってこなかった。おかしいなと一階にあるトイレを見に行くも誰も居ない。
迷子っすかね?
そう思い、家の中を探した。まだアジトの中と外を案内し、それほど経っていないとはいえ、トイレに行くと言って家の外に出る可能性は考えられないだろう。なら家の中で迷子かといえば簡単な造りに三階に行けば俺がいるので迷った可能性は低い。なら何かあったのか。
どこ行ったんっすかね~?
そう焦る気持ちもないが、ぐるりと家の中を見て回るも見つけられなかったため、出会う仲間達にフレイ君の居場所を尋ねてみた。――が、
「ん? フレイっつぅ子ならさっき一階の廊下で見たぞ」
「おう、ツキ。あの可愛い子ならさっき二階の廊下歩いてたぞ」
「あの子ならさっきボスの部屋の前の廊下をうろちょろしてるの見たぞー?」
「俺はさっき食堂のドアに張り付いて中きょろきょろ覗いてんの見たぞ?」
「フレイちゃんならさっき外の横手の花壇とこで一人ぽつんと立ってたぞ?」
「ツキー、さっき今度はボスの仕事部屋の前の廊下うろちょろしてるの見たぞー」
「ツキ坊、フレイくんならさっき玄関前で扉見ながら立ってたぞー」
……と、綺麗にフレイ君とすれ違って出会えない。当然玄関に行ってもフレイ君は居らず、もうあっち行ったりこっち行ったりと忙しい。誰に聞いてもフレイ君の居場所を教えてもらえるのにどうしてこうもすれ違うことができるのか。俺とフレイ君の間には見えない何かが存在しているのか。あと、フレイ君は一体どうしたと言うのか。……ん? いや、違うこれは!
「んー……あ! フレイ君!」
「ビクッ……あ、ツキさん」
家の外、漸く訓練場にポツンと一人寂しげに立つフレイ君を見つけた。玄関を見ていたと言うので今度は誰にも聞かず外に出たのは正解だったのか。後半聞くにつれてニヤニヤ笑い出していた仲間達のその思惑に、俺はようやく気付いたのだ。
もう! みんなさっきさっきばっかの過去形ばっかりで今の情報全然教えてくれないんっすから! 常にフレイ君の居場所わかってる癖っすのに揶揄うのもほどほどにしてほしいっすよね!
そう心の中で文句を言いつつも、フレイ君の元に行くまでには切り替え、どうしたのか首を傾げつつ尋ねた。
「フレイ君。どうしたんっすか? なんかいっぱいうろちょろしてたっすね。迷子っすか?」
「……いえ、ちょっと……。……あのツキさん。ラックさんって家にいますか?」
「え? ボスっすか? いるっすよ?」
フレイ君、ボス探してたんっすか?
ボスならフレイ君を探し、家の中でみんなに聞いて回っている間に二回もすれ違ったしちゃんと家にいた。ここに来る時もすれ違ったし、剣を持っていたからついさっきまで訓練場にもいたのではないだろうか。フレイ君から目を離したなと怒られるのが嫌だっため、軽く挨拶するだけで、あとはスルーしていたからわからないが。
「ボスに何か用っすか?」
「え? いや、えと……はい……あったんですけど全然会えなくて……」
「あー……」
それはたぶんフレイ君のこと避けてるからっすね……。
ボスならやりかねない。勘で避け、隠れ、やり過ごしていたのだろう。だから俺といないフレイ君について触れもせず、ただ俺を睨むだけで終わっていたのか……。納得だが、そんなこと本人に言えるはずがない。
「俺も一緒に探そうっすか?」
たぶん誰かと一緒なら見つかってくれると思うっす。
「え? い、いえそんな……!」
「内緒の話なら俺聞かないっすよ?」
もしかして捕まっていた時のことで何か思い出したことがあるのかもしれない。聞かれずらい大切な話が。そう思うもフレイ君は少し焦った様子で首を横に振る。
「っだ、大丈夫です。偶然じゃないと意味が――っコホン、すみません。話すこと忘れちゃったみたいです」
「え? そうっすか?」
「はい! それより――……ツキさんさっき僕がいっぱいうろちょろしてたって言いましたよね?」
「? 言ったっすね?」
「……どうして知ってるんですか?」
「? みんなに聞いたからっすよ?」
「……僕、ここまで誰にも会っても、見てもいないんですけど人いました?」
「………………いたっすよ?」
いっぱい。隠れた監視が。
やや目を逸らしてしまう俺に、フレイ君は何かを悟ったのか肩を落としてしまった。
「……僕……もっとラックさんとお話ししたり、皆さんとも仲良くなって囲まれ……親しくなりたかったんですけど……――僕一人だと誰も声かけてくれないんですね……」
「……そんなことないと思うっすよ?」
哀愁漂うフレイ君に、俺はそう答えることしかできなかった。別にそれはフレイ君が悪いわけではないのだ。みんな気さくないい奴らばかりなのだ。だけど……
ほら、ボスがあんなんっすからみんなどうフレイ君と接しようか考え中なんっすよね。フレイ君だいぶ……ちょっと怪しい行動してたみたいっすし、みんな泳がせとことかそんな感じだったっすから……。
だが、やはり本人に直接そんなこと言えるわけがない。
「ボソ……わざわざ夢まで見せてその姿を見せつけてやろうって思ってたのに話すどころか会うことすらさせてくれないってなに? ……ちょっと僕の想像してたスタートの切り方と違う……」
「え? なんの切り方っすか?」
「……なんでもないです」
「そ、そうっすか? ……えと……」
肩を落とすフレイ君のその姿があまりにも寂しさを纏っていて、一瞬どう声をかけていいかわからなくなった。
「……おやつ貰いに行くっすか?」
「…………行く」
なんとか絞り出した言葉に、フレイ君は頷きトボトボと歩き出す。
……なんか夢とのギャップがすごいっすね……。さっき囲まれてって聞こえたっすけど、たぶんあの夢みたいなのがフレイ君の理想なんっすよね……。ん゛ー……でもボスがっすね……。
ボスのあの調子だとそれはちょっと難しいな、とフレイ君にバレないように小さく唸った。そして、フレイ君の肩を慰めるように数度叩いて一緒に家の中へと戻って行った。
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