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17.そんな気ないと思うっすよ?
しおりを挟む「――よし! じゃあ外に行くっすよ!」
「はい」
お腹も満腹になり、次は外への案内を開始だ。家を出て、砂利道をフレイ君と二人揃って歩く。
「基本は姉さ……領主から仕事がある時以外はそれぞれ別の仕事を受けに行くか、ここでみんなで作物を育てたり、山に山菜取りや狩に出かけたりするっす!」
「そうなんですね。……でもなんだかここって傭兵団のアジトというより小さな村みたいですね」
そう言ってフレイ君が見る先には、広がる自然や畑、そこでお仕事をしている人達にポツポツと建つ木の家、そしてその周辺を駆け回るちびっこ達の姿がある。
「確かにそうっすね。六年前までは転々とあちこちを渡り歩いてたんっすけど、このフォレスティア領の領主であるレーラ・フォレスティア姉さんに雇われて、この場所を貸してもらうことになって落ち着ついてこうなったっす」
「そうなんですね。でもそれってすごいことですよね? 雇われて、それで土地まで貸してもらえるだなんて……」
「んーボスはすっごく嫌がってるっすけどね」
「え? どうしてですか?」
「姉さんがボスをここに根付かせる気満々だからっす」
ほんと今でもあのボスの嫌そうな顔ははっきりと思い出せる。貸し与えられ、そこに住むということに難色を示していたボスだが、団内にちょうど子どもが生まれそうな夫婦や腰が弱くなってしまったお婆ちゃん、その他諸々の理由から結局はこの地に住まうこととなった。先に中を案内した俺達が住む、この場所に似合わない大きな家だって姉さんが建ててくれたもだ。ボス曰く「なんの予行だよ」と呆れていたが。
「姉さんって……ここの領主の方のことですよね? ツキさんさっきから領主様を姉さんと言っていますがその方と親しいんですか?」
「あ」
もういつもの癖で姉さんって言っちゃってたっす。
「皆さんが住む建物も立派でしたし、どうしてその方はラックさんを……」
「んーもとはこのフォレスティア領はボスのお父さんが治める土地だったからっすかね?」
「……え?」
ここの領主であるレーラ姉さんは、実はボスとはいとこにあたる。今言ったようにここはもともとはボスのお父さんが治めていた土地だったが、姉さんのお父さん、ボスのお父さんの弟がボスが六歳の時にボスのお父さんとお母さんを事故に見せかけて殺して家を乗っ取ったのだ。そこから約二年間ボスは飼い殺しにされて酷い目に遭わされるも、その後家を飛び出し、なんやかんやあって傭兵団を立ち上げ今に至る。ちなみに『狼絆』との名前を考えたのは俺だ。狼は仲間意識が強く絆も深いとの話をボス達から聞き、感動してその名前を提案して採用されたのだ。
「レト兄やイーラさん、さっき紹介したモージーズーとここに住んでる三分の一くらいの人達はもともとはボスとボスのお父さん達に仕えてた人達やその家族っすよ。ちなみにレト兄はボスの乳母兄弟でモー達はボスの専属護衛だったらしいっす! ボスのお父さんはすっごく立派な人で慕ってた人が多かったって話も聞いたっすよ!」
だからボスが家から逃げる手助けをし、そのまま一緒にボスについて来たのだ。もちろんそれはボスのお父さんへの忠誠心もあってのことだが、その息子でもあるボスにもみんな忠誠を誓い慕っていたからだ。
ま! ボス自身すっごく立派な人っすから当然っすけどね!
あとの人達は傭兵稼業を続けるうちに拾ったり助けたり仲間なったり結婚したりという人達だ。男女の割合は大体八対二ほど。
「ここにいるみんな優しくて気のいい人達ばっかりっすよ~!」
「……そうですか。……あの、ラックさんのその話って僕に話していい話なんですか?」
「え? ダメなんっすか?」
「……いや……だって僕まだここにきて日が浅いですし……」
「大丈夫っすよ!」
別にボスに口止めされてないっすし、言っちゃダメな時はボス、ちゃんと言うっすから!
「で、でもそれってっ……ラックさんがここにいる理由ってもしかして奪われた家を取り戻すためとかそんなんなんじゃっ――」
「え? それはないと思うっすよ?」
この土地すら渡されるのを嫌がってたボスっすよ?
「え?」
「その逆で姉さんがボスにめちゃくちゃ返したがってるんっすよ」
なんだか一瞬、フレイ君の声が興奮したように高くなったような気がしたがそれはないと思う。ボスが家を取り戻したいと思っているなんて話聞いたことがないし、逆に姉さんに面倒ごとを押し付けれたと自由にしているボスだ。ボス以外の人達も誰も何も言っていないし、姉さんに報酬をもらった時には「これで酒飲むぞ!!!」って飲むことしか考えずみんな馬鹿騒ぎするくらいでたぶん姉さんに対して敵対心を持っている人もいないと思う。
姉さんは確かにボスの両親を殺して家を乗っ取った人物の子どもだ。だけど、姉さん自身、ボスやボスのお父さん達にはお世話になっていたようで、ボスの家を乗っ取った元凶達はみんな姉さんが追い出し処分済みであり、荒れていた領地も立て直し済みだ。そして、だからこそ姉さんはボスに全てを返したがっているのだ。
「姉さんすっごく優しい人っすよ? 姉さんのお父さんはほんっっとうに最悪だったっすけど!!」
「……そんなにですか?」
「そうっすよ!? 殴るっすし蹴るっすしご飯抜くっすし閉じ込めるっすし! 最終存在まで忘れられて俺ずっと檻の中に閉じ込められて放置されてたんっすよ!? ご飯もくれなくなって今生きてるのは奇跡みたいなもんっすもん!」
「…………いや、ちょっと待って下さい。情報追いついてないです。ツキさんとその方達の関係って……」
「奴隷とその飼い主だったっす!」
そしてその孤独から救い出してくれたのが我らがボス! 家から逃げ出す時に俺も連れて行ってくれたんっす!!
「……え? 僕そんなの知らな……」
「え?」
「っい、いえ! コホンッ……すみません。なんだかさっきから重そうな話をさらっと明るく話すなと思って……」
「そうっすか?」
まぁ、明るいことはいいことっすよね! それだけ今が幸せだっていうことっすから!
それから、微妙にショックを受けているフレイ君に首を傾げながらも畑仕事に勤しむお爺ちゃんに手を振ったり、洗濯をしているおばちゃんにお芋をもらったり、親の仇かと思うほどの勢いで飛んでくる鳥達から逃げ回り、転げ、突かれながらも外の案内を終わらせ、一日が終了していった。
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