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16.やっぱりいい子っす!
しおりを挟む結局モージーズーの三人は渡すものを渡せばさっさと去って行ってしまった。
「……初めようっすかフレイ君」
「はい。……しっかり覚えて皆さんの役に立てるように頑張ります!」
「! いい子っす!」
腕輪を手に付けたフレイ君は小さく両手に握り拳を作って意気込む。そんなフレイ君に一通り感動した後、俺は今いる建物の最上階となる三階から順に案内と組織について簡単な説明をしていった。
この狼絆の傭兵団は大体六十人程度の人数で構成された組織で、フォレスティア領主に雇われ、領主邸がある主の街から街道を歩いて約一日半程度の場所にアジトがある。近道を使えば行き方により半日からその半分の時間で街に行くことも可能だ。フォレスティア領主から山辺近くの土地を貸してもらっているからそこでみんな暮らしているのだ。ちなみに暮らしている人達の年齢は下は一桁から上は六十代程。
今、ボスや俺達が住んでいるこの建物は結構大きく、三階建てのみんなの宿舎みたいなものになっている。もちろんこの外に家を建てて住んでいる仲間達もいるが、このお家には食堂や医務室も、ボスが臭いと言ったから大きな浴場だってあるし、一階には遊戯室だってある。そこでみんなでカードゲームやボードゲーム、格闘技などをして遊んだりもする。この建物の裏には訓練所代わりの空地もあって、この間こっそりボスのあとをついて行った罰に組み手の稽古をさせられ酷い目に遭わされた。
「……ふぅ……――で! 改めてここが物干し場で、その向こうにある花壇は季節ごとに庭師のおっちゃんが花を植えてくれるっすよ!」
「…………庭師?」
「そうっす!」
案内を開始した建物の横手の物干し場。そこではいい天気の空の下、そよそよと風に揺れてシーツや衣服が気持ち良さそうにそよいでいた。こういう日は簡単に魔法に頼らず天気干しするに限るらしい。そんな洗濯物達の向こうでは白やピンクやオレンジといったお花も可愛くそよいでいる。そんな光景を、フレイ君は建物の壁にもたれて座り、力無く眺めていた。
「……フレイ君、大丈夫っすか?」
元気ないっすね……。
フレイ君に近寄り、窺うようにしゃがみ込んで尋ねた。家の中からここまで案内するなかで、開いた窓から入り込んできた鳥の大群と格闘して追い出したり、糞や羽まみれになった廊下を綺麗に掃除して、その道具を片付けようとしたところで階段から滑って転んで俺が手放してしまった箒が後ろにいたフレイ君の顔面スレスレに飛んでいってしまって二人で固まったりした。さっきはさっきで外に出て物干し場に案内にきた瞬間、突然吹いた突風により飛ばされたシーツが俺とフレイ君に絡みついて取れなくなり、二人揃って転んでコロコロシーツに絡まりながらもがいて、とったらとったで泥だらけになってしまったシーツを二人で洗って干してと今ここだ。……少しフレイ君には大変だったかもしれない。
「……はい、すみません。話には聞いていましたけど実際体験してみるとすごいですね……」
「へへ/// そうっすか?」
「褒めてはいないです」
「……ごめんっす」
しょぼんと肩を落として謝った。軽く俺の体質についてフレイ君には話しはし、大丈夫だとは言われていたが身をもってフレイ君は理解した様子だ。疲れ切ったフレイ君の様子に止めどない申し訳ない気持ちが湧き上がってくる。
「……あの、本当にごめんっすね。俺のせいで疲れたっすよね……。えと、家の中に戻るっすか? その、……お世話役、交代してもらうっすか?」
俺やボス達には慣れたものだがフレイ君は今日が初めてだ。フレイ君の疲れようにもしかしてもう俺と一緒にいるのは嫌だと言われてしまうかもしれないと思った。
……でもそれも仕方がないっすよね。俺、こんなんっすから……。
悲しさ半分、諦め半分に落ち込んでいると……
「……ツキさん。そんな悲しそうな顔しないで下さい」
そんな言葉におずおずとフレイ君を見上げれば、フレイ君は苦笑した。
「確かにちょっと大変だなとは思いますけど大丈夫ですよ。ツキさんといるのとても楽しいですから、ツキさんでお願いします」
「っフレイ君!」
「だからもっと色々と教えて下さいね、先輩」
「!」
先輩! お兄ちゃんとは違ういい響きっす!! なんていい子なんっすか!!
「はいっす! 任せて下さいっす!」
「ふふよろしくお願いします!」
あーやっぱりフレイ君の微笑み癒されるっす!
しょんぼりした気持ちから一転俄然やる気が湧いてきた。
「じゃ、じゃあ次行こうっすか! あ、でももうお昼前っすからご飯食べて、次は外の案内をするっすよ!」
「はい!」
それから俺達は一旦俺の部屋に戻り、汚れて汗をかいた服を着替えた。フレイ君の服はまだないため俺のおさがりを渡している。
「……ツキさん持ってる服多いですね」
「はいっす。すぐ破れたりしてボロボロになっちゃうっすから」
いけるところまでは頑張って繕うんっすけどね。
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