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4.なんっすかその目! 

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「……その子、生きてるっすか?」


「……ああ」


 男の子に近づき息を確認するボスにそっと尋ねた。袋の中にいた男の子は擦り傷だらけだった。


「……ん……」


「ビクッ!」


 ピクリと動いた男の子に俺の体もまた跳ねる。


「……ここは?」


 ……うわ~やっぱり綺麗な子っすね。


 ボスの背中から隠れ見るその子は俺より四、五歳下……十三、四歳くらいの子に見える。首元までの空色の髪に瞳も同じ空色の瞳。なのに見方によっては虹のように七色に輝いて見える不思議な目だった。肌も白くて目はパッチリ。無垢そうに見えるのに見ているこっちが照れちゃうくらいの色気があるようにも見える、そんな可愛くて綺麗な男の子。その子を見ていると、なんだか雰囲気からして俺とは全く別世界の子に見えるのに、なんとなく懐かしいものを感じて不思議だった。だけど……


「///」


「……ツキ?」


 覗くのをやめ、ボスの後ろに完全に隠れた。そして、ささささっと手で髪をすき身嗜みを整える。


 ……俺、こんな美少年君見たの初めてっす。ボスの子どもの時もすっごくかっこよかったっすけど、この子とは種類が違う美少年だったっすから……なんか照れちゃうっすね///!!


 不思議な感じより照れが勝った。


「……おい、ツキお前……」


 何故かボスが俺を睨んでくる。


「な、何すか?」


「……いや――「あの!」……なんだよ」


「あ、あの……あなたが僕を助けてくれたんですか?」


 目を覚まし、怯えたように小さく辺りを見回していた美少年君は、捕まり捕縛されている人達や保護され毛布に包まれている人達になんとなく今の状況がわかったのだろう。怯えながらもその目には一筋の希望を宿らせ、涙を滲ませながらボスを見上げていた。ボスと二人揃えばその姿はどこかの詩人に歌われていそうな出会いのワンシーンのように見え、見ていてちょっとワクワクとした。だが、そんなシーンを台無しにするかの如くボスの顔はすっごく嫌そうに歪んでいる。


 ……いや、何でっすか?


「……ちげぇよ」


「え?」


「俺じゃねぇよ。お前を助けたのはそこにいる強面の奴らだ」


「「「ボ、ボスっ!」」」


 ボスに顎を差され、大きな図体をモジモジとさせ照れているのはさっきレト兄と一緒に俺を放って仕事に戻っていったスキンヘッド頭の男三人。確かに、ボスは崖から落ちてすぐに俺を離れた場所にポイっと放りに行っていたから戦闘には加わっていないし、救出にも参加していない。


 ほら、あれっすよ。俺がいたら何が起こるかわからないっすから先に危険物を遠ざけに行ってたんっすよね。そのあとは俺のことずっと怒ってたっすから……グスン……思い出したら悲しくなってきたっす……。


「え、あ、そ、そうなんですか? ……あの、ありがとうございます……」


「「「え!? あ、いや別に///」」」


「ぶっ!」


 っ笑っちゃダメっす!


 吹き出しかけた自分の口を両手で塞いだ。だって三人とも美少年君に見られてすっごく恥ずかしそうにモジモジクネクネして、チラチラチラチラと両手で顔を隠しながら美少年君を見ているのだ。


 三人行動揃ってるっすし顔真っ赤っす。似合わないっすね! ぷぷ!


「……ツキどうした?」


「なんでもないっす。ふふ」


 ダメっす。喋ったら笑い声漏れちゃうっす。


 俺が見る視線の先で、ボスには何故俺が笑っているのかバレたようで呆れた顔をされた。それからボスはまた美少年君へと視線を戻すと難しそうに眉を顰めた。


「……首輪持ちか」


「!」


 ボスの言葉にハッと美少年君の首元を見る。そこには鈍い銀色の金属、首輪が嵌っていた。鍵穴がない代わりにその中心には何やら魔法陣が描かれており、それは奴隷につけられる隷属の首輪だった。


「レト、契約紙はあるか?」


「これだな」


 美少年君がいた馬車の中からレト兄が顔を出し、紙を一枚掲げた。


 ……よかったっす。


 ホッと安堵に肩が落ちる。


 奴隷契約紙。違法な契約書。売られる者の魔力を紙に登録し、その紙に買い主である者の魔力を通せば首輪の魔法陣が反応し、契約紙を通して命令を聞かせることができるというもの。命令に逆らえば首輪から激痛が走るのだ。その激痛から逃れるためには命令に従うしかない。……犯罪奴隷を除く奴隷商売はこの国では禁止されている。犯罪奴隷を扱う商売であっても国から認可を受けた特別な商会だけしか取り扱いしてはいけない決まりになっているのだが、今回のこれはそのどちらとも違う。保護した人達は犯罪者でもなければ、それを運んでいた人達も認可を受けた商人ではない。違法な奴隷商売を企んでいた者達だ。


 隷属の首輪を外すには契約紙を破くか燃やすかが一番手っ取り早い。あとは首輪に付けられた陣の破壊もしくは陣の解除などがあるが、魔法陣の破壊や解除などそう易々とできるはずもなく、失敗すればボンっ! っと爆発してしまうのであまり推奨されない。だってそんなことが起これば首輪をしている相手は死んでしまうから。ボスはそういう壊したり解除が得意だけれど、見ているこっちは冷や冷やものなので契約紙があるのはありがたい。手っ取り早く美少年君を解放してあげられる。


「……?」


 ……んー? でもおかしいっすね? 普通は買い手と売り手揃ってから隷属の首輪って付けられるもんなんっすけど?


 なんで運んでいる最中に? と内心首を傾げた。美少年君以外の人達は一応逃げないようにと首輪を付けられているが、なんの魔法も施されていない普通の首輪の方を付けられている。


「契約の方への魔力の登録は?」


「……なにもないな」


「……そうか」


「???」


 んんんんん? とボス達の会話に内心首を傾げる角度を深めた。契約主になんの登録もないのでは、それはただの鍵が紙に変わっただけの首輪では? と。隷属の首輪は契約紙に二つの魔力が込められ始めて効力を発揮するものなのだ。


 ……もしかして用意してた首輪の数が足りなかったんっすかね?


 ビリッとレト兄から手渡された契約紙をボスが破けば、ガシャンと美少年君から首輪が落ちる。それを見てボスは辺りを見渡した。


「……これで、大体の後始末はできたみてぇだな。そろそろ引き上げるか」


「「「「「はーい」」」」」


 疑問はあるが、外れた首輪にみんなにこにこと微笑み、俺も含めていい子に返事をした。そして、撤収準備に取り掛かる。


「え? あの……待っつっ……」


「え? だ、大丈夫っすか?」


 各自その場を離れる連中に慌てて立ちあがろうとし、膝をついてしまった美少年君。俺は慌ててそんな美少年君に近づき体を支えた。


「……すみません」


「いえ……って熱! ボスこの子すごい熱っすよ?」


「へー」


「へーじゃないっす! 何でそんな顔してるんっすか!」


 熱があると言っているのにボスは興味なさそうに冷めた目を美少年君に向けている。そんな顔をしたらこの子が怖がってしまうではないか。


「っ……」


「! ……大丈夫っすからね」


 ほらやっぱりっす!


 小さく震えながら俺に身を寄せる美少年君を抱きしめ、俺は慰めるように頭を撫でた。


 酷いボスですみませんっすね~。おーよしよし。


「……おいツキ。お前俺に喧嘩売ってんのか?」


「何故っすか!?」


 ひっくい声でボスに睨まれた。


「うわ~あいつアホだな」


「火に油を注ぎに行ったな」


「ボスどんまい笑」


「……」


 ガッ!



 …………シクシクシクシクシクシク


「おい連れてくんならさっさとそのガキ、イーラんとこに連れて行け」


「「……うっす」」


 ……酷いっす。ボスに殴られたっす。


 美少年君が俺の手からおっさん連中の手に渡ってしまう。


「ほらツキ泣くなよ」


「飴ちゃんやるから」


「元気出せって」


 俺と同じように頭にコブをこさえたスキンヘッド三人が飴ちゃんをくれる。さっきまでモジモジしてて面白気持ち悪いと思ってごめんっす!


「ありがとうっす! モジモジーズ!」


「「「誰がモジモジーズだ!」」」


 ガッ×3

「いだいっす!!」


 みんなしてボコボコ頭叩かないでほしいっす! 馬鹿になっちゃうでしょう!





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