上 下
4 / 70

3.役に立ちたいんっす!

しおりを挟む


「……」


 木の根元で膝を抱えて座りながら、足元に転がる石ころを恨みがましくえいっと蹴った。結局またボスの説教が始まってたくさん怒られた。仲間達ももう誰も助けてくれず、薄情な奴らだ。


「おい、いつまで拗ねてんだ」


「……拗ねてないっす」


 説教を終え、指示を出しに行っていたボスが俺の元に戻ってきた。


「見るからに拗ねてる奴が何言ってんだ。ほら機嫌なおせ」


「……ポロ……うゔ~~」


 頭撫でるのやめてほしいっす。なんか悲しくなってくるじゃないっすか~。


「泣くなって」


「だっ、だってお、俺も゛ボズのやぐに立ぢだがったんずっ」


 泣きながら訴えた。


 ボスは俺にとって命の恩人。ボスのお陰でこんな不幸体質を持つ俺でも優しい仲間達に恵まれ、楽しく毎日を過ごせているのだ。だから少しでもボスに恩を返したくて役に立ちたいと思うのに、俺にできることといえばさっきみたいにボスに石をぶつけたり、崖を崩してボス達を落とすことくらい。恩以外にも俺はかっこいいボスの役に立ちたいと思う気持ちがあるのだ。みんなみたいにかっこよく並び立ちたいのだ。なのに俺だけなんか違う。いつも邪魔ばかりしてしまうし、これで泣くなと言う方が無理がある。


「はぁぁ……あのな。そんな気張らなくていいっていつも言ってんだろ?」


「でもっでも゛ぉ~」


「でもじゃねぇよ。俺はお前が側にいるだけでいいって言ってんだろ?」


「ボズ……ズズ」


 鼻水を啜っているとボスが俺の隣に腰を下ろす。側にいるだけでいいと言いながら俺を置いていったくせに、とジトーッと恨みがましくボスを見た。そんな俺に、ボスはふっと笑って俺の顎をクイっと持ち上げる。


「……ボス、なんっすかこの手?」


「なんだと思う?」


「…………」


「……おい、ツキ。この手はなんだ?」


「ボス近いっす」


 徐々に顔の距離を詰めてくるボスの顔を、俺は両手で押しやった。だが、ボスも負けずに力を入れてくる。


「何抵抗してんだお前?」


「ボスが顔を近づけてくるからっす! 何でそんな近づけてくるんっすか!!」


 頭突きっすか! 頭突きするつもりっすか!!


「ああ? ここまで近づけたらやることは決まってんだろ?」


「なっ⁉︎」


 押しのけていた手をサッと取られたかと思うと甲に軽く唇を落とされた。そしてボスは色気を含ませた目で俺を見てくる。……カッと頬が熱くなった。


 なんっすか!? 頭突きじゃなくて噛む気っすか!? 舐めるんっすか!? ばっちぃっすよ!?


 また口が近づいてくる。


 やっぱり噛むんっすか!? 


「っおちょくるのやめて下さいっす!!


 抵抗しようにも力の差でボスに負ける。ボス! と、叫ぼうとしたところで……


「ボっ――」


「ボスー! ちょっとこっち来てもらっていいですかぁー!」


「!? くっ!! 離れてくださいっす!!!!」


 バキッゴッ

「ぐッ!?」


「あ」


 聞こえた仲間の声に渾身の力でボスを突き飛ばした瞬間、太い木の枝が落ちてきてボスに当たった。


 うわ~またいい音鳴ったっすね……これも痛いっすよ?


「っ~ツキ!! てめぇ何すんだよ!!」


「ええー!? やっぱり俺っすか!?」


「ボス! もういいから早く来てくださいよ!! んなとこでイチャつこうとするボスが悪いんですから!!」


「うっせぇ!!」


 コソコソ……

「ボスってなんか空気読めないよな?」


「な。何で今ここでなんだよ。俺らも見てんのにさ」


「ほらあれだよ。見せつけたいんだよ」


「嫌がられてんのに?笑」


「誰だ今笑った奴!?」


 コソコソと話す体をとっていながらも全くコソコソした声で話していない仲間達に向かって、ボスが叫び歩いていく。


 ふー……危なかったっす。


 額の汗を袖で拭い、あとをついて来るなと言われていないことをいいことに俺はボスのあとをトコトコとついて行った。


「……何だこれ?」


「?」


 ボスの後ろからひょっこりと覗くと、ボスの視線の先には人が一人入っているほどの膨らみと大きさのある布袋が転がっていた。だが、その布袋は所々赤黒く滲んでいて嫌な想像を掻き立てるものだった。


 中身を尋ねたボスに、仲間の一人が答える。


「一番前走ってた馬車の荷台の木箱の中に隠すように入ってたんだよ」


「へーそう。中身見たのか? 何で俺を呼んだんだよ?」


「え? ボスに開けてもらおうと思って見てないぜ?」


「は? なんで?」


「だってなんか怖いだろ?」


「「「「コクコク」」」」


 みんな恐る恐る袋から距離をとり、頷きながらボスを見た。


「……てめぇら」


 その様子にボスの額に青筋が浮かぶが、俺はうんうんと頷いた。


 そりゃそうっすよね~。みんな顔は強面とか凶暴というに相応しい連中ばっかっすけど心の優しい奴らばっかりっすからね。仕方がないっすよね。


 そんなみんなの懇願の視線に、ボスが頭を痛そうに片手で抱えるのを横目に見つつ、俺は袋に近づきその辺の枝を拾ってつんつん突いてみた。


 これ何が入ってるんすかね~? まさか本当に人だったりするんっすかね? でもそう言う時に限って違ってたりするもんっすしまさかっすよねー。……ん?


「ギャっ!?」


「っツキ? お前そこで何してんだ。そんなのに簡単に近づくなっ」


「ボ、ボス、こ、これゴソッってなんか動いたっす!」


 まさかのこれ本当に人っすか!? 突いてごめんなさいっす!!


 驚いた拍子に抜けた腰で、何とかボスの元に這って行き足に引っ付いた。


「本当か?」


「コクコクコク!!」


 高速で頷く俺にボスは眉を顰め、俺を後ろに隠すと警戒しつつ袋に近づいた。俺も腰が抜けながらもなんとかついていき、ボスが剣で袋を破いていくのを見ていると……


「これは……」


「? ……男の子っすか?」


 袋からめちゃくちゃ可愛い男の子が出てきた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

瞳の代償 〜片目を失ったらイケメンたちと同居生活が始まりました〜

Kei
BL
昨年の春から上京して都内の大学に通い一人暮らしを始めた大学2年生の黒崎水樹(男です)。無事試験が終わり夏休みに突入したばかりの頃、水樹は同じ大学に通う親友の斎藤大貴にバンドの地下ライブに誘われる。熱狂的なライブは無事に終了したかに思えたが、…… 「え!?そんな物までファンサで投げるの!?」 この物語は何処にでもいる(いや、アイドル並みの可愛さの)男子大学生が流れに流されいつのまにかイケメンの男性たちと同居生活を送る話です。 流血表現がありますが苦手な人はご遠慮ください。また、男性同士の恋愛シーンも含まれます。こちらも苦手な方は今すぐにホームボタンを押して逃げてください。 もし、もしかしたらR18が入る、可能性がないこともないかもしれません。 誤字脱字の指摘ありがとうございます

30歳まで独身だったので男と結婚することになった

あかべこ
BL
4年前、酒の席で学生時代からの友人のオリヴァーと「30歳まで独身だったら結婚するか?」と持ちかけた冒険者のエドウィン。そして4年後のオリヴァーの誕生日、エドウィンはその約束の履行を求められてしまう。 キラキラしくて頭いいイケメン貴族×ちょっと薄暗い過去持ち平凡冒険者、の予定

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

可愛くない僕は愛されない…はず

おがこは
BL
Ωらしくない見た目がコンプレックスな自己肯定感低めなΩ。痴漢から助けた女子高生をきっかけにその子の兄(α)に絆され愛されていく話。 押しが強いスパダリα ‪✕‬‪‪ 逃げるツンツンデレΩ ハッピーエンドです! 病んでる受けが好みです。 闇描写大好きです(*´`) ※まだアルファポリスに慣れてないため、同じ話を何回か更新するかもしれません。頑張って慣れていきます!感想もお待ちしております! また、当方最近忙しく、投稿頻度が不安定です。気長に待って頂けると嬉しいです(*^^*)

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

成長を見守っていた王子様が結婚するので大人になったなとしみじみしていたら結婚相手が自分だった

みたこ
BL
年の離れた友人として接していた王子様となぜか結婚することになったおじさんの話です。

人生二度目の悪役令息は、ヤンデレ義弟に執着されて逃げられない

佐倉海斗
BL
 王国を敵に回し、悪役と罵られ、恥を知れと煽られても気にしなかった。死に際は貴族らしく散ってやるつもりだった。――それなのに、最後に義弟の泣き顔を見たのがいけなかったんだろう。まだ、生きてみたいと思ってしまった。  一度、死んだはずだった。  それなのに、四年前に戻っていた。  どうやら、やり直しの機会を与えられたらしい。しかも、二度目の人生を与えられたのは俺だけではないようだ。  ※悪役令息(主人公)が受けになります。  ※ヤンデレ執着義弟×元悪役義兄(主人公)です。  ※主人公に好意を抱く登場人物は複数いますが、固定CPです。それ以外のCPは本編完結後のIFストーリーとして書くかもしれませんが、約束はできません。

処理中です...