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5.変っすね〜?

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「……どうっすかイーラさん」


 アジト(家)の一階。陽もずいぶん昇り、温かい日差しが窓から差し込む医務室。その窓辺に置かれているベッドで眠っているのは今朝助けたばかりの美少年君だ。


 俺はそんな美少年君が眠るベッド端に手を置き、しゃがみ込みながら美少年君の手当を行っている、クリーム色の髪を一つに結んだこの狼絆ろうばんの傭兵団の仲間の一人であり、お医者さんでもあるイーラさんを、祈る気持ちで見上げていた。


「――うん、大丈夫だよ。擦り傷と打撲、あと疲労からか熱が出ているようだけど、怪我は軽いしどれも命に別状はないものばかりだから心配しなくても大丈夫だよ」


 美少年君の診察を終え、優し気に目元を和らげるイーラさんに俺はホッとして、ズズズッと鼻を啜った。


「うぅ……よ、よがっだっずぅ……」


 アジトに戻ってきたら美少年君の意識がなかったためすごく焦って心配していたのだ。ボスに言ったら「あ~……じゃあその辺に捨てとけ」しか言わないし。


「まぁ熱は高いから気をつけるに越したことはないけどね」


「ズズっはいっす! 俺、お世話頑張るっす!」


 涙を拭い、美少年君の熱が下がり、早く目が覚めて元気になるよう頑張るぞと気合いに拳を上げた。なのに……


「あははは! それはやめておいた方がいいと思うけど?」


「え? ……ダメなんっすか?」


 笑顔の拒否に気合いに上げた拳が落ち、しょんぼりと肩も落ちた。


 なんでっすか? 俺じゃあ荷が重いって思われてるんっすかね……?


「……俺にだってできるっすよ?」


 確かに不幸体質だけれど寝ている子のお世話くらい俺でも出来るのだ。


「……うん。まぁツキ君がいいのなら別にいいけど。でもボスに怒られるよ?」


「大丈夫っすよ!」


 こんなことくらいでボスは怒らないっすから!


「……その自信どこからくるの? さっきもボスに睨まれたって泣きべそかいてたくせに……。まぁ、ボスの許可を得られたんならしっかり面倒見てあげればいいよ」


「はーいっす♪」


 少々呆れたご様子のイーラさんに機嫌よく返事を返す。


 やったっす♪ 早速ボスから許可をもらいに行かないとっす!


 今ボスは捕まえた商人だか山賊だかの尋問を行なっている。アジトへ帰って来てからだいぶ時間も経つし、そろそろそれも終わる頃だろう。もう許可をもらえる気満々で外の尋問部屋にいるであろうボスの元へ行こうと立ち上がった時、ちょうどボスが扉を開け医務室へと入ってきた。


 ガチャ

「あ、ボス! ちょうどいい所に来たっすね! あのっすね~」


「却下」


「まだ何も言ってないっすよ!?」


 話聞く前からダメって酷くないっすか!?


「ボス! 俺この子のお世話したいっす!」


「ダメだ。その辺にポイしてこい。今すぐ」


「何言ってんっすか!? まだ諦めてなかったんっすか!?」


 なんでお世話したいって言ってるのに捨ててこいって話になるんっすか? 意識ない怪我人相手に鬼っすね!!


「うっせぇ」


「ん?」


 なんだなんださっきからボスの様子がおかしいぞ? ボスの顔を覗き込んでみるとムスッとした顔をしている。


「ボス?」


 いつものボスなら助けた人や怪我人相手にここまで酷いことを言うなんてことはあり得ない。なのに美少年君に対してボスはずっと塩対応だ。どうしてそこまでこの子を捨てたがる。治療も他の保護した人達を最優先とし、熱もあり意識もないこの子を後回しにした。そして、イーラさんが他の人の治療に当たっている間、もう既にここにはいないが、俺を含む他の仲間達を監視に置き、三人でガン見して見張っていろと言うくらいだ。


 変っすね~? どうしたんっすかね?


 くるくるボスの周りを回りながらボスを窺っているとイーラさんが仕方ないなぁというに苦笑し、声を上げた。


「まぁまぁツキ君、今のこのボスはただ拗ねてるだけだから相手にしなくてもいいよ。ほんと厄介だよね~」


「拗ねる?」


 なにに拗ねてるんっすか?


 不思議にイーラさんを見れば、ふっとイーラさんが笑う。


「ほら、ツキ君さっきボスがついてこいって言ったのに僕の方についてき――」


「黙れイーラ。おいツキ、お前ちょっと外でてろ」


「ええ? 何でっすか?」


 ジトーっとボスに疑いの目を向けた。今のボスに信用はゼロだ。もしかして俺がいない間にこの子を捨ててこようだなんて考えているのではないか。


「…………」ジトー


「……ツキてめぇ」


「ははは! 大丈夫だよツキ君。僕がちゃんと見張っておくから。外に出てて」


「……俺いちゃあダメなんっすか?」


 悲しい声が出てしまう。イーラさんが言うのなら信用できるが、俺がいてはダメな話をするのかと思うと仲間外れにされているようでちょっと悲しい。


「…………」ショボン……


「…………そう言えば三馬鹿がお前のこと探してたぞ。なんか頼みたいことがあんだとよ」


「!? え! そうなんっすか!? じゃあ行ってくるっす!」


 それはいけないっす! 大変っす!


 ボスの言葉に慌てて部屋を出る。俺を求めている人がいるのならば急がなくてはいけない。さっきの悲しい気分から一変、うきうきと跳ね急ぎながら三馬鹿達の元へ――あ!


「……単純な奴め」


「……まぁそこがツキ君のいいとこ――」


「忘れてたっす!!」


「「ビクッ」」


 うきうきとスキップで部屋を出るも、大切なことを忘れていたため部屋に戻った。ちょっとボス達が驚いていたようだけれど、それには触れずトコトコと美少年君に近づきヨシヨシと頭を撫でた。


「ちょっと行ってくるっすね。大丈夫っすから安心してゆっくり眠っててくださいっすね~」


「「…………」」


「……よし! じゃあボス行ってくるっす!」


「「…………」」


 バタン



「…………あいつ俺に喧嘩売ってんだろ?」


「……心狭すぎるって……」






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