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362、門の中へ

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「トラスフィナ王家? いいえ、違うわ。この扉を開けたのは、精霊王を始祖とするローゼディア王家の血が持つ力よ」

 ララリシアの言葉にエリスは、その場に立ち尽くした。

「ローゼディア王家……私が?」

 戸惑うエリス。
 それに目の前に立っているララリシアの雰囲気は、先程とは違う。

「そんな、何かの間違いよ……」

 思わずそう呟くエリスに、ララシリアは首を横に振る。

「間違いのはずがないわ。もしそうなら、貴方が私と共にここに居るはずがない。精霊王の血を引く者しか、この扉の前に立つことなど出来ないのだから」

(私が精霊王の血を?)

 エリスは思い出す。
 エイジが、ファルティーシアから聞いた伝承を皆に話してくれた。
 かつて精霊王レークスフェルトは、この世界で一人の女性を愛したと。
 その二人の間には、子供が生まれたということも。
 ララリシアはエリスを見つめながら言う。

「精霊王とその妻ミレスフェリシアの間に生まれた子。彼は父の名を一部受けついで、エーゼンフェルトと名付けられた」

 エリスは、魅入られたようにララリシアの瞳を見つめて答える。

「……ええ、それはエイジから聞いたわ。精霊たちの伝承にそう描かれているって。精霊王と人間の間に生まれた子供が王となり栄えた古代文明ローゼディア、その都がルイーナだって」

 少女の青い髪が静かに揺れる。

「そう、精霊と人が共に暮らした時代。魔法科学と呼ばれる文明」

 ララリシアはそう言うと、エリスの手を引いた。
 抵抗する事が出来ないのか、それともエリスの意思なのか。
 彼女自身にも分かなかった。

 ただ、気が付いた時には、ゆっくりと歩を進めている自分に気が付く。
 扉へ一歩一歩近づいていく。
 あまりにも巨大な建造物がそこにはある。

 真実の大門。

 エリスは、それに圧倒されながらも前に進んだ。
 今や大きく開かれた扉の中に何があるのか。
 白い光に包まれて覗き見ることが出来ない。
 エリスはララリシアに尋ねる。

「教えてララリシア、私がローゼディア王家の血を引いているってどういうこと? ローゼディアは、そこで暮らしていた人々と共にずっと昔に滅びたんじゃないの?」

 ララリシアは、その光の中に進んでいく。

「その答えは自分の目で確かめればいいわ、エリス」

「ララリシア!」

 エリスはその手に引かれて、自らもその光に飲み込まれていく。
 眩しさに目を暫く閉じる。
 そして、エリスはゆっくりと瞼を開いた。

「ここは……」

 赤い髪の王女は、辺りを見渡した。
 自分が入ってきたはずの巨大な扉は、もはやどこにも見当たらない。
 そして、信じられない光景が眼前に広がっている。
 エリスは思わず呟いた。

「これが……あの扉の中の世界」
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