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350、管理者

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「ああ……何なんだここは」

 真っ暗だった通路。
 だが辺りが淡い光に包まれていくうちに、その周囲の状況が明らかになっていく。
 リアナは、ギュッとエイジの腕を掴むと足元を見た。

「エイジ!」

 エイジたちは今、空中を歩いているのだ。
 周囲が暗やみに包まれている時は気が付かなかったが、眼下には百メートル四方はあろうかという巨大な施設が見える。
 その30mほど上空にエイジたちは浮いているのだ。
 いや正確に言えば、そう錯覚を覚える場所にいる。
 だが、よく見れば自分たちが透明に近い壁で出来た通路の中にいることが分かった。
 エリスやオリビア、そしてアンジェも思わず小さく悲鳴を上げた。

「きゃ!」

「嘘! 何これ」

「ラエサル!!」

 ラエサルにギュッとしがみつくアンジェ。
 その頭を撫でながらラエサルは言う。

「安心しろ、落ちはしない。ここの管理者がそう言っていたからな」

「管理者?」

 アンジェはまだおっかなびっくりした様子で、自分の足がきちんと通路の床についているのかを試しながらそう尋ねた。

「ああ、下に降りるぞアンジェ」

「下に降りるって、どうやって?」

 先頭を歩いているキーラは、腰に手を当てると皆の方を振り返って答える。

「いいから、ついていらっしゃい」

 透明の通路を歩いていくと、人が数人乗れる程度の大きさの丸い石板のようなモノの上にたどり着く。
 キーラに促されて、エイジたちは恐る恐るその上に乗った。
 注意深く見ると、先程の通路から今度は縦に透明のチューブ状の通路が伸びている。
 エイジたちが乗っている石板は、そのチューブ状の通路の中を下方に動き始めた。

「きゃ!!」

「エイジ!!」

 左右からエイジに抱きつくエリスとリアナ。
 オリビアも遠慮がちにエイジの背に身を寄せる。
 アンジェに至っては、半泣きになってラエサルにしがみついていた。
 一方で、エイジは徐々に冷静になっていく。

(凄いな……まるでSFに出てくる未来のエレベーターみたいだ)

 自分たちが今、移動している透明なチューブ。
 そして、高度な科学技術を扱うような研究施設。
 それはエリスたちが馴染んでいる世界では異端だろうが、エイジにとってはそうではない。
 エイジがいた世界はここまで発達はしていないが、映画の中で近未来として描かれる光景を想像すればこういう光景を見慣れていると言える。

(もしかして、これが超古代文明ローゼディアの本当の遺跡なのか? 確か魔法科学とか言ったよな)

 キーラは驚くエリス達を見て笑う。

「私たちには良く分からないけど、太古の文明のものらしいわ。初めてここを見つけたのはラエサルと私。ルイーナにいる調査団も何度もここに入っているわ」

「調査団が?」

 エイジの問いにキーラは頷いた。

「ええ、彼らの護衛をするのが私やラエサルの仕事の一つだもの」

 エリスとリアナもようやく落ち着いたのか、ふぅと息を吐くと。

「そういえばジーナさんも昔、調査団のガードをしたことがあるって」

「そうね、言っていたわ」

 ラエサルはそれを聞いて肩をすくめると。

「ああ、それは最初にジーナやキーラと一緒に調査団のガードをした時の話だろうな。調査団からは、あれからよく声がかかるようになったからな」

 キーラはラエサルの腕に自分の腕を絡めると。

「当然よね、ラエサル以上に頼りになる男なんていないんだから! 第一、こんな深層に素人を連れてきてガードが出来るSランクなんてそうはいないわ」

 その姿はまるで少女のように可愛らしくて、いつもの妖艶な様子は影をひそめている。
 ラエサルはふぅと溜め息をつくと。

「いずれにしても、調査団は俺たち抜きではここには入れんからな」

 その言葉にエイジは尋ねる。

「どういうことですか? それは」

 その時、エイジたちを乗せた石板はチューブの中を下がりきる。
 そして目の前の半透明のチューブが左右に開き、出口が作られた。
 ラエサルは外に出るとエイジに答えた。

「初めて俺たちがここに入った時に、ちょっとしたトラブルが起きてな。それ以来、ここの管理者は俺たちがいなければ、誰も中にはいれようとはしない」
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