雨さえやさしく

あまみや慈雨

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 瞬きで頷くのがやっとだ。目じりから零れ落ちた涙を晴臣は唇でそっと吸い、ゆっくりと楔は穿たれた。

「…………ッ、」

 充分にほぐされ、体も心も準備したつもりだったのに、息が詰まる。

 ゆっくりと気遣うような挿入はかえって晴臣の大きさと熱とをまざまざと伝えた。 

「は……、ん……っ」

いやらしくほころびたそこが、誘うように受け容れる、そんな様まで見えてしまいそうな、錯覚。

「つばき……さん……」

 ゆっくり腰を推し進めながら晴臣の漏らす声。

 切なげに嗄れるそれを愛しいと思ってしまうと、中がうねった気がした。晴臣にも伝わってしまっただろう。恥ずかしく思うと同時に快感でもある。なにもかも開け放って誰かを受け容れていることが。

 晴臣がぴったりと背中に胸をつけてくる。

「……全部、挿入りましたよ」

 敢えてなのか、言わずもがなのことを耳元で囁く。

 腹が圧されて、奇妙な感じだった。生まれて初めての感覚に戸惑い、ただかくかくと頷くことしかできない。

「動きますね」

 動く? 動くって? 

言葉の輪郭だけが耳に届いて、意味を図りかねているうちに、下肢がずるりと蠢いた。

「あ……、」

 晴臣が穿った楔をゆっくりと引き抜いている。

 そのゆっくりとした動き。昂ぶりの質量をまざまざと伝えようとするかのような。

 晴臣は椿の不慣れな体にその形状を教え込ませるように入り口ぎりぎりまで引き抜くと、今度はまたゆっくりと沈めた。

もどかしいほど、探るようなその動きをくり返されて伝わる快感は、強い刺激こそないものの、椿の体を確実に拓いていった。



 もう二度と誰のことも信じない。誰にも恋情なんて抱かない。

 そう思って頑なにしまい込んでいた欲望を暴かれてしまう。



 なんだか怖いような気さえして身じろぐと、晴臣の手がなだめるようにしなった背に触れる。それさえ感じてしまうというのに、そのまま手は前に回り、先走りを滴らせる椿を握った。

 腰の動き同様に、そっとてのひらで包み込んでは上下させる。

「……、……」

 もどかしい刺激に、声は出せず、喉の奥からただくぐもった吐息だけが漏れる。

やわやわと触れてくる晴臣のてのひらは、その手つきに反して酷く熱い。その熱は自分とのこういう行為の所為なのだと――欲情されているのだと思うと、椿の花芯は一層固く芯を持つ。

 いつの間にか晴臣が止めていたらしく、シャワーの音はもうしなかった。他に誰もいないシャワールームは、どこか遠いところで機械の稼働音がしている以外は、ひどく静かだ。

 くちゅ、くちゅ、――

 晴臣と自分との、肉の食み合う音とかすれる吐息だけがだけが、ひそやかに響いている。

 晴臣は片手で椿を慰撫しながら、もう片方の手で胸の突起を撫でる。

 それを欲して欲して自らタイルに擦り付けていたのだ。直截な刺激に背中は大きくしなる。晴臣はそのうねりに合わせて椿の薄い腰を撫でると「クソ」と呟いた。

「ごめんね椿さん。俺、もう――」

 なにがクソ? なにがごめん? ――わけがわからずにいるうち、晴臣は椿の腰を両腕で押さえつけると、激しく突き上げた。

「――――――――、」

 ぐう、と熱いものが、椿の熟した肉を割く。まるで熱した刃物で貫かれたようにも感じ、息を詰まらせてると、今度はあっけないほど引いていく。

 ほっと出来たのは束の間で、再び激しく打ち付けられる。獣のように腰を突き出さされたまま施される注挿は、次第に速くなり、隘路はくち、くち、と音を立てた。

「あ、あ、あ、あ、あ、」

 突き立てられる度、だめだと思っても声が出てしまう。

「椿さん、好き。可愛い」

 また、そういうことを。

「――また、きゅっとしたね」

「い、いちいち言わなくていい、……ッ!」

「言いたいんですよ。ごめんね」

 ぴったりと、椿の背中に胸をつけ、壁との間に挟むようにして、晴臣は耳にそう吹き込んでくる。

「好きです」

「……ッ」

 囁きひとつで全身が漣立つ。悔しい。でも気持ちいい。――嬉しい。

「椿さん……」

 うなじに口づけを落としながら、晴臣は椿を壁との間にぴったりと挟んで、再び、短いピッチで突き上げてくる。リンスや先走りで淫らに濡れた体がタイルの目地で擦れると、いけない、と思いながら感じてしまう。

「椿さん、」

 うなじに、髪に、耳朶に――まるでそうすることが唯一呼吸する手段であるかのように、晴臣は間断なく口づけを落としながら責め立てる。

「あ、あ、あ、う、ん、んんぅ……」

 注挿と、ぬるりとした体がタイルに擦れるのと、快感の板挟みで、逃げ場もない。

 あんなに凍えていたはずの体が今はもう、炉で熱せられた金属のようにとろけだしてしまいそうだった。

「ん……ッ」

 せめて、と彷徨わせた指先も、上から覆うように手を重ねられ、指をからめて押さえつけられる。指の股の薄い表皮、そんなところまで快感を覚えるようになっていて、椿は震えた。

 一分の逃げ場もない快楽で壁に縫い留められてしまう。ぐっと腰を打ち付けられると、昂ぶりがぬるりと擦れ、悲鳴が漏れた。

「や、やあ……!」

「なにが嫌? 椿さん」

「だ、だってこんなの、――」

 気持ちよすぎる、という言葉はきっと、泣きじゃくる子供のような響きを持っていたと思う。

晴臣の腰の動きは止まることはなく、むしろ激しさを増して、椿に容赦なく快感を与えた。

「や、や、や、いっちゃう、いっちゃうからあ……!」

 まだ一度も見たことのないそこへ、達してしまうのが怖い。

 本能的な恐怖が、やはり子供のように「やだ」とくり返し紡がせる。それでいて、もっと欲しいとも思っている。相反する感情が、嵐に翻弄される小舟のように揺れている。

「いいよ、いって。……一緒にいこう」

 晴臣が囁く。突き上げは激しくなる。

「やっ……、あっ、あっ、あっ、あ、」

「好きです、椿さん――」

 強引に首をねじられ、口づけされる。ひどく苦しい態勢のはずなのに、零れ落ちるのは快感の涙だ。

不器用に、それでも抑えつけていた感情がほとばしるままに、舌先をからめて応えると、晴臣の体が一瞬強張った。

 同時に下肢が熱を持つ。

「椿さん、俺、もう――」

 今にも泣きだしそうな響きで口にすると、晴臣は体を預けてくる。触れた体が、びくっと跳ねるのがわかった。

「あ、……ああ……、あ……」

 劣情を注ぎ込まれる。きつく目を閉じて一滴残らず受け止める。



 あの日並んで見た夕日と同じ色に、視界が灼けた。

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