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しおりを挟む晴臣の指の記憶をたどりながらそっと。先端をくすぐるように。ときには痛いほど。ときには焦らすように――
リンスのぬるみを借りて、椿はその行為をくり返した。控えめな薄紅色だったそこは、劣情で鮮やかな赤に変わっている。
「――」
晴臣が息を呑んだような気配があった。
次の瞬間、いっそう猛った舌が野獣のような力強さで、入り込んで来る。
「――、あ……っ、あっ、ん、んんぅ……っ」
後孔を舌で犯されながら、自ら胸を擦り付ける。淫らな真似をしている――罪悪感にさいなまれながら、それさえ快感に変わっていく。
「んっ、んっ、んっ」
「椿さん、声、可愛い。気持ちいい?」
快感の涙でぐちゃぐちゃになった顔で、唇をかみしめながら必死で頷く。なのに晴臣は許してくれず、さらに双丘を割り開いた。
「ああ……ッ!」
「ちゃんと言って。椿さん」
「……もちいい」
「ん?」
「気持ち、いい……! ――あ、やめっ、ああっ」
くちくちと獰猛にも感じる動きでさらに穿たれて、いよいよ悲鳴のような声をあげたとき、なんの前触れもなくシャワールームのドアががらりと無遠慮な音を立てて開いた。
――え?
「たぶんここに忘れたと思うんだよなあ」
「早くしろよ、みんな待たせてるんだから」
「だいたい、なんでシャンプー使うんだ。もうちょろーっとしかないのに」
どっとあふれる笑い声。裏腹に、椿は青ざめていた。
これは。今自分と晴臣が淫らな行為に使用しているシャンプーリンスの持ち主ではないのか。
「は、はやさかさん」
小声で名前を呼ぶ。
「えーと、どこだったかなあ。なあ俺、どこ使ってたっけ」
「知らないよ」
老人はひとつひとつブースを覗きこんでいるようだ。ということは、間違いなく、ここにも――なにしろ遠慮のないじいさんたちだ。ひょいと覗き込まれでもしたら。
体を取り巻いていた快感の渦が一瞬で解けた。
やばい。
どうしよう。
心臓がばくばく波打って訴えかけてくるというのに、あろうことか晴臣は愛撫をやめようとしなかった。
両手の親指を秘めやかな個所にあてがい、ほぐれ具合を確かめるように広げてくる。
「ちょ、……!」
声を出したら、ひとりでないことがばれてしまう。押し殺すと、それを楽しむかのように舌がぐりぐり入り込んで来る。
「ちょっとすみませんね。その辺にシャンプーとリンスないかね。小さいの」
さすがにいきなり中を覗き込んでこなかったのは幸いだったが、返答できる状況でもない。戸惑っていると、ふっと笑みを含んだ吐息が収縮するそこに触れた。
こいつ、わざと……ッ!
変態! と心の中で罵りながら、ぐにぐにと蹂躙されれば甘苦しい吐息が漏れてしまう。
「あのー?」
「……ないです」
微妙な声の震えは、シャワーのせいだと思って欲しいと切実に願いながら、椿はか細く絞り出した。淫らな隘路では、晴臣の濡れた舌が蠢いている。
ぴちゃ、ぴちゃと奏でる水音が聞こえてしまわないよう、椿はもう一度気力を振り絞った。
「わ、忘れ物は回収されて、受付に集約されるみたいですから、明日以降に訊いてみたらいいと、思いま……っ」
す、まで紡げなかったのは、晴臣の舌先がぐいっと入り込んだからだ。
ば、か……!
「そうかね、じゃあそうするか。邪魔してすみませんね」
「いえ――」
お友だちたちに急かされて、じいさんは去っていく。扉が閉まる音に耳を澄ませ、念のためしばらく待ってから、椿は声を張り上げた。
「こ、の、変態……!!!」
そんな反応すら予想していたのだろう。晴臣は愉快そうに笑っている。
「でも、椿さん感じてたでしょ。舌持ってかれるかと思うくらいきゅっと締まって――」
振り上げた手を軽々掴んで動きを封じると、再び壁に押し当てて、晴臣はすっかりほころびた椿の蕾に指を入り込ませた。
「あっ――」
あまりのことに椿が戸惑っている間に、晴臣は長い指を前後し始める。
「あっ、あっ、あっ」
「椿さん、可愛い。もっと感じて」
くい、と中で指が折り曲げられる。敏感なふくらみを中から撫でられて、悲鳴が口をついて出た。
「あ……ッ!?」
小さな巣穴に憶病に隠れる小動物を誘い出すかのように、晴臣の指先は繊細にそこをこする。
その度、体の輪郭がほどけてあやふやになるほどの快感が走った。
「んっ、んっ、んんッ、……は、ん……ッ」
腰が快感で揺れる度、触れられてもいないのに張り詰めた昂ぶりも揺れてしまう。小さな鈴口で、先走りが艶めかしく光る。
まるで波に翻弄されるように、いくつもの快感が次々襲ってくる。甘い酩酊のようであり、未知への恐怖でもある。
不意に不安に襲われて、涙越し晴臣を振り返れば、察したように口づけされた。
「……挿入れていいですか」
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