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8巻

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 普通に旅をするんじゃなくていわば新婚旅行だから、そんなに時間はかけていられないし、蜜月も二か月しかない。
 できれはドラールでは一週間以上ゆっくりしたいということで、空から行くことになった。
 ずっと気になっていた空の旅だけど……なんと従魔たちに力を借りるということらしい!
 全員、大型な鳥類の従魔がいるからね。
 飛行機みたいな乗り物があるのかと思っていたから驚きました!
 出発は明日の早朝の予定。
 それまでに旅の準備をしないといけないんだけど、ぶっちゃけるとダンジョンに潜る準備とあまり変わらない。せいぜい、数着の着替えを持っていくくらいしかないのだ。
 水は魔法で賄えるし、食料は途中の町で買ったり、魔物を狩ればいい。
 着替えだっていざとなったら途中の町で買うことができる。【無限収納インベントリ】にしまってしまえば旅行鞄もいらないし、歩くときの鞄さえあればいいから、ほぼ手ぶら。
 その鞄だって、【無限収納インベントリ】になっているマジックバッグだしね。
 そう考えると……ねぇ?
 行動力のあるエアハルトさんたちからすれば、無問題なわけで。

「ふむ……よくよく考えると、今から出発できるな……」
「そうですね。出発いたしますか?」
「わたくしはそれでもいいですわ」
「私もです」
「なら、さっさと準備して出発しよう」
「「わかりました」」
「あ、私はママに声をかけてきますね」

 というわけで、明日の出発が急遽今日になりました!
 大慌てで母のところに行き、店番を頼む。母は急ねぇ、なんて苦笑している。

「リン、神酒ソーマとハイパー系、万能薬の在庫を見てちょうだい」
「わかりました」

 母は神酒ソーマ以外のポーションを作れるからね。ハイパー系はまだ失敗することが多いみたいだけど、それでも作れているんだから凄い。
 もちろん、私と母の作ったポーションではレベル差があるから、確実にレベル五が作れるハイ系以外は店には出していない。
 店内に貼ってある鑑定書には販売しているポーションのレベルが記載されているし、認定証か許可証に書かれているレベル以外のものは販売できない。
 無許可のポーションを販売すると詐欺として告発され、営業停止や廃業に追い込まれてしまうからだ。
 それをわかっているから、母もレベル五以外のものは店には出さないし、出せないものは『アーミーズ』が使用している。
 ちなみに、薬師が廃業になる場合は、そういうことをやらかすか、犯罪に走った人ばかりらしいしね。
 それはともかく、ハイ系は母もレベル五が安定して作れるようになったから、店に出しても問題ない。
 母に言われたポーション類全部の在庫を確認し、この日のためにちまちまと作り貯めていた神酒ソーマを千本と、万能薬とハイパー系を五千本ずつ、ライゾウさんが作ってくれた【無限収納インベントリ】になっているマジックバッグの中に入れる。
 もちろん、別々に収納しているのだ。

「ママ、ハイ系以外は在庫を出しておいたよ」
「ありがとう。いくつあるの?」

 そう聞かれたから出した数を言うと、「多すぎ!」って呆れられてしまった。

「そうは言うけど、もし不測の事態があったらどうするんですか?」
「それは……」
「念のためなので、持っていてください。もし神酒ソーマが足りないようなら、ここにもあと千本ありますから」
「リン……」

 カウンターの下に【無限収納インベントリ】になっているマジックバッグがあるんだけど、そこにも神酒ソーマが千本あると教えたら、愕然とした顔をしていた。
 他にも、万能薬とハイパー系がまだ五千本ずつあるって言ったら、どんな顔をするんだろう……?
 それは父に言うことにして、もし足りないって相談されたら出してと伝えておこう。
 店のことを母にお願いし、その足で向かいにある父の診療所に行く。
 カウンターの下にあるポーションの話をすると、苦笑しながらも「わかった」と頷いてくれた。
 これから出発することを伝えると「急だな」と言われたけど、それ以上なにも言われることはなかった。

「気をつけて行っておいで。職人支部のみんなにも、よろしく伝えてくれ」
「はい。いってきます! リョウくんも、お土産を期待しててね!」
「あーい! ねーね、いてらーちゃい」
「いってきます!」

 リョウくんの紅葉もみじの手を握ってからお土産の約束をし、バイバイしてから診療所を出る。
 私がいない間は、両親が店の二階に住んでくれるそうだ。
 店があるのに中に誰もいないと、泥棒どろぼうに入られることがあるからなんだって。
 しかも、店主である私がいないというのは一番まずいことだという。どれだけ優秀な防犯機能があっても、泥棒どろぼうが入りやすい家だと目をつけて、精力的に狙ってくるからだそうだ。
 普段は私や従魔たちがいるから、夜に外出していたり、ダンジョンに潜ったりしていても問題なかったけど、さすがに二か月も留守にするのはよろしくないらしい。
 だからこそ、両親とリョウくんが期間限定で住んでくれることになった。
 父の診療所にはお弟子でしさんが寝泊まりしているから安心していられるけど、私は弟子でしをとっていないからね。
 だから、まったくの無人になってしまうことを考えるとよろしくない、ってことみたい。
 弟子でしがいないとこういう弊害へいがいもあるんだね。
 帰ってきたらになるけど、誰か弟子でしをとったほうがいいのかなあ……
 それはゆくゆく考えるとして、しばらくはいいか。
 従魔たちに相談して、私が拠点に住むようになったら従魔たちに巡回してもらうのもいいかもしれないし。
 もしくは週に一回、エアハルトさんと一緒に店の方に泊まってもいいしね。
 それはともかく、両親には神様たちにいただいた緑茶類も自由に飲んでいいと言ってあるから、私がいない間は大丈夫だろう。もしお茶がなくなったら、筒ごと神棚にお供えしてと言ってあるし。
 当然のことながら、神棚のお供えもお願いしてあるので問題ない。
 バタバタしつつ診療所を出たあとは、ゴルドさんや隣の道具屋さんにも新婚旅行でしばらく店にいないからと話し、慌てて拠点に戻る。

「すみません、遅くなりました!」
「大丈夫だ。俺たちも今準備が終わって、挨拶してきたところだから」
「よかった! 鞄を取ってきますね」
「慌てて転ぶなよ?」
「ぶー! 転びません!」

 フラグを立てるようなことを言わないでよ、エアハルトさん!
 まあ、転ぶこともなく、ロキがリュックを銜えて持ってきてくれたから、助かった!
 外に出ると、エアハルトさんが建物を一周して戻ってくる。
 玄関の鍵を閉めたあとでなにか呟くと、一瞬半透明の壁のようなものが出たあとで建物が光り、消えた。
 今光ったのは、長期間家を空けるときに使う、防犯結界なんだって。魔法ではなく、複数の魔道具を使用して、結界を作っているとのこと。
 解除できるのは家主であるエアハルトさんとアレクさんのみで、泥棒どろぼうが入ろうと扉に手をかけると、ビリっと痺れて通りに弾き出されると同時に、騎士きしの詰め所に連絡が行くようになっているという。
 店が使っているような防犯機能と同じものらしい。
 ファンタジーだなあ……
 カギ閉めなどが終わると従魔たちを引き連れて門まで行き、挨拶をして出た。
 しばらく歩いてから誰もいないことを確認し、三人はそれぞれの飛べる従魔たちにのり、他の従魔たちは小さくなって彼らの前にあるかごの中に入る。
 というかね……いつの間に小さくなれるスキルを手に入れたんだろう?
 神獣じゃなくても取得できるって知らなかったよ……
 多分、ロキたちが教えたんだろうけどさ。
 そして私だけど、グリフォンのリュイ、ガルーダのカーラ、シームルグのラン、ズーのベルデとアビー、フレスベルグのペイルの六羽が、休憩のたびに交代で飛ぶことに。
 コカトリスのロシュは飛べないわけじゃないけどそっちに特化しているわけじゃないし、サンダーバードのルアンとクインだと私をのせて飛ぶには小さすぎるという理由で、この六羽になったのだ。
 飛ぶ順番でかなり揉めていたんだけど、決着してよかったよ。
 決着方法? あみだくじにしましたが、なにか。
 もちろん、他の従魔たちは小さくなってかごに入っているし、ロシュはかご、それ以外の他の飛べる子たちは私たちの護衛を兼ねて、空を飛んで行くのだ。


 その護衛として飛んでいくルアンとクインの頭の上には、なぜかラズとスミレが陣取っている。

「準備はいいか? ……よし。出発」

 上空は寒いからともこもこのコートを着こみ、エアハルトさんの合図で全羽が空を飛び立つ。
 途中にある町にも宿泊するって言っていたし、観光もするつもり。
 そんな町やドラールはどんなところなのかな? 楽しみ!



   第二章 空の旅と国境の町・ガスト


 拠点をでて、南西に向かって飛ぶ私たち。
 今は国境を目指している。
 本来なら国境に到着するまで、馬車だと三日かかるそうだ。というのも、道中に複数の森があって、馬車だと整備された街道を通るために迂回うかいしないといけないから。
 でも今は、森を迂回うかいしないで真っ直ぐその上空を飛んでいるからか、もうじき着きそうだとエアハルトさんが教えてくれる。
 飛び始めてまだ一時間弱だから、想像以上に速いスピードで飛んでいるみたいだ。
 とはいえ、風圧で飛ばされないよう結界を張っているらしく、移動はかなり快適だ。上空にいるから寒いけど、もこもこコートがいい仕事をしていて暖かい。
 上空から地上を見下ろしてみる。
 森と草原の間にあるのは、土がむき出しの街道だ。
 小さな点の塊が動いているから、誰かが馬車で移動しているんだろう。行列のようになっているから、大きな商会の隊商キャラバンかもしれない。
 森自体はあちこちに点在していて、その合間に川も見える。
 それに、沼や湖があるのか、ところどころ地面が輝いていた。太陽の光を浴びて、水面に反射しているんだろう。
 ゆるく、あるいは大きく蛇行している川は、上から見るとヘビのよう。
 それを見て、四国に龍の形をした川がある! とSNSに投稿されていた写真を思い出した。
 曲がりくねった龍の尾と胴体、手足の部分が吉野川、頭部を早明浦湖さめうらこだと説明されていたっけ。
 眼下に見える川は、それに近い形だ。
 頭にあたる部分はないけどね。
 うしろを振り返れば冠雪かんせつした高い山脈が見え、そのままぐるっと見回せば、頂上だけ冠雪かんせつしている山に、緑一色の山。
 山脈の辺りに黒い塊が空を移動しているのが見えた。たぶん空を飛ぶ魔物がいるんだろうと推測することができる。
 ――本当に、この世界は綺麗だ。
 まるで、空撮をした動画をテレビで見ているみたい。
 そんな感動を覚えつつ、移動を続ける。
 見上げればどこまでも続く青い空がグラデーションを作り、それを彩るように雲が浮かぶ。白い雲もあれば、遠くには薄いグレーの雲も見える。
 グレーっぽい雲の下は雨かなあ……なんて考えている間も、着々と目的に近づいていて……
 眼下に映る景色は、森を飛び越え、川や草原を通り越して、また森に入っていった。
 自然が豊かな世界だと改めて感じるとともに、魔物もいる世界なんだなあ……って実感する。
 もうすっかり慣れてしまったけれど、この世界には様々の種族が住んでいるんだもんね。
 まだまだ、私が見たことのない景色がたくさんあって、会ったことのない種族の人々がたくさんいるんんだろう。
 そんなことを考えていたら、魔物が襲いかかってきた。
 きっと空を飛ぶ魔物もいるんだろうな……と推測はしていたけど、本当にいるんだね。
 地上同様に野生のワイバーンやサンダーバード、レッサードラゴンが襲ってきたよ……
 まあ、護衛をしているみんなが【風魔法】や【雷魔法】で呆気なく倒している。
 スパっと切れたりピカって光って稲妻いなづまが走ったあと、どんどん魔物が落下していく。私たちは落下した魔物を掴んで、スミレの糸で捕獲してマジックバッグの中にしまっていった。
 それらは休憩のときに解体。もしくは、ギルドに依頼があったら依頼票を剥がしてそのまま持ち込み、達成扱いにしてもらうんだって。
 旅の道中とはいっても、効率的に動かないとね!
 戦闘を繰り返しているうちに、遠くのほうに白い建造物が見えてきた。
 万里ばんり長城ちょうじょうほどではないけど、同じくらいに長い壁と、それよりも先にある建物群だ。

「お、見えてきた。手前にあるのがアイデクセ国の隣国となるベイエレン国との国境、その先が国境の町、ガストだ」

 エアハルトさんが教えてくれる。

「ガスト……」

 国境のかなり先に、おおきな石垣の円形があった。
 そこから四方に街道が見えることから、重要な場所でもあるんだろう。
 たしか、交易が盛んな町だと言っていた気がする。
 ただ、名前を聞いて某ファミレスを思い出してしまって、吹き出してしまったのはしょうがない。エアハルトさんたち三人に不思議そうな顔をされたから、前の世界にあった食堂と同じ名前だと言うと、同じように吹き出していたっけ。
 だよね~、そんな偶然があったら吹き出すよね~。
『フライハイト』のメンバーは、私が〝わたびと〟だと知っているからね。
 最近は、四人や『アーミーズ』のメンバーがいる場合に限り、日本のことも話すようになった。
 もちろん、周囲に誰もいないことが前提だけど。
 飛んだまま国境を越えるわけにはいかないので、国境を超える手前で地上に降りる。
 移動中、かごに入ってもらっていた従魔たちにはそのままかごに入ってもらっていた。
 私たちが乗ってきた従魔たちを引きつつ、従魔たちがいる人専用の門に行くと、すぐに順番が来る。

「ほう? 飛べる従魔とは珍しいな」

 門番が笑顔で声をかけてきた。

「だろう? おかげで旅が快適だよ」
「それは羨ましい。よし、いいぞ。次」

 タグを見せてから白水晶に触るエアハルトさん。次にアレクさん、ナディさんと続き、最後に私の番になった。
 門番は私のタグを見てギョッとしたあと、さらに従魔たちが上から見ていたことにもギョッとする。そしてなにかを思い出したのか、目を輝かせる。

「は……ははは……。もしかして……ローレンス様の怪我を治した薬師って君か?」
「はい」

 なにかと思ったら、グレイさんのことか!

「おお、ありがとう! 俺が礼を言うのは違うかもしれんが、やっぱり尊敬している殿下の怪我は心配だったからな。まあ、今は王子じゃないが」
「そうですね」
「まあ、なんだ。とにかくありがとう。よき旅を。そしてアントス様のご加護がありますように」
「ありがとうございます」

 にっこり笑ってタグを返してくれる門番のお兄さん。
 ……もう加護があります、とは、さすがに言えなかった。
 それにしてもグレイさん、本当にいろんな人に慕われているんだね。
 さすがだな~と嬉しくなるよ。
 無事に国境を越えたということで、従魔たちには役割を交代してもらう。
 飛ぶ子が交代するので、私はかごをリュイからベルデに変え、そのまま跨る。

「よろしくね、ベルデ」
《任せて、ご主人様!》

 ベルテは気合十分といった様子だ。

「お待たせしました」
「よし。あと少しで国境の町・ガストだから、その手前まで飛んで行く」


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