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8巻
8-3
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エアハルトさんの合図で飛び立ち、そのままガストの近くまで飛ぶ。
まあ、国境からガストまですごく近い距離だったから、すぐに下りたんだけどね。なので、次に飛ぶときもベルデの担当のままだ。
門で白水晶に触り、中へと入る。
ここでも門番にギョッとされたけど、それは他のみんなの従魔たちも同じだった。
まあ、私のほうがヤバイ従魔たちと眷属たちだけど、三人の従魔たちもヤバイのがいるものね。
神獣やそれに次ぐ実力の魔物のオンパレードなんだから、何も知らない人にギョッとされるのは当たり前か。
ガストには食料調達に寄っただけなので、それほど長く滞在することはなく、すぐに出発することになる。
ガストはとても賑やかな町だけど、特別な観光地があるわけじゃないから、ドラールで過ごす時間のために早めに出るのだ。
町に無事に入ったところで、早速みんなで大きな通りを歩いていく。
まだ七時前だからなのか、朝市がとても賑わっている。
もちろん、従魔たちは通行の邪魔にならないようみんな小さくなっているんだけど……
私はさすがに全員を肩や腕にとまらせることはできないから、レンとシマだけが大きくなり、他の従魔たちは彼らの上にいた。
鳥の子たちは私とレンとシマに分散し、ロキとソラがレンの上、ロックとユキがシマの上だ。ラズとスミレは私の両肩にいる。
レンとシマは護衛も兼ねているので、私の両隣を歩いている。
初めての他国、しかも交易の拠点ともいえるべき場所。
だからなのか、アイデクセの王都で見たことがある種族の人もいれば、初めて見る種族や服装の人もいる。
王都ではあまり見なかった、背中に翼が生えている人たちもたくさんいて、その翼の色もさまざまだ。白と黒、茶色に灰色の人もいれば、全体的には茶色や黒だけど、先端が真っ白の人もいた。
どこの国の人なのかな。
興味はあるがあまりにもジロジロ見るのは失礼だと思い、それ以降は見ることをやめた。
他にも、キツネの耳と尻尾がある商人の格好をした人や、額に小さな角が生えていて、体の大きな冒険者もいたよ。
あとでこっそりとエアハルトさんに聞いたら、鬼神族という、西大陸にいる魔神族じゃないかと言っていた。
なるほど、一口に魔神族といっても、大陸によって違うってことなんだろう。
そういった人たちもいたし、初めての他国ということで珍しさから私も従魔たちも、きょろきょろと周囲を見回すので忙しい。
三人は落ち着いているから、来たことがあるのかな。そう思って聞いてみたら、一度だけだけど家族と来たことがあるんだって。
なんでもガストの町から北に向かうと湖があって、そこが避暑地になっているという。
王都の近くにある湖とは違うもので、魔物もランクの低いものしかいなそうだ。
それもあり、アイデクセの貴族たちに人気の避暑地らしい。
まあ、なにもないからか一回行けばいいと思ったのか、あるいは仕事が忙しかったのかわからないけど、一回訪れたきり三人は再訪していないみたいだけど。
そんな話をしているうちに、多くの朝市が立つ商店街に着く。
パッと見ただけでも、いろんな種類の野菜や肉、魚を見つけることができた。
さすがに果物は少ないけど、ダンジョン産と書かれた看板のところには、バナナとみかん、リンゴの絵が描かれていて、私がもたらした情報がここまで浸透しているんだなあと嬉しくなった。
「さて、食材を探すか」
「そうですね。肉は途中でも狩れますから、野菜や果物でしょうか」
「湖で獲れる魚と、調味料も欲しいですわ」
「私は香辛料もあったほうがいいと思います」
「わかった。じゃあ、デートがてらそれぞれの夫婦で行動しよう」
エアハルトさんがいきなりそんな提案をしてきたよ!?
しかも、アレクさんとナディさんも、嬉しそうに頷いてるし!
ま、まあ、気持ちはわかるから私も頷く。
「いいですね。集合時間はどうしますか?」
「はっきりとは決めないで、一周したらここに戻ってくることにしようか」
「わかりました。ナディ、行きましょうか」
「ええ! どのような食材や調味料があるか、楽しみですわ!」
嬉しそうなアレクさんとナディさんが微笑ましい。
「俺たちだけじゃなく、従魔たちのぶんも計算にいれろよ?」
「わかっております」
それでは、と左右に分かれて行動開始!
「それじゃあ、優衣。順番に見て行こう」
「はーい」
プチデートだ~! と内心ではしゃぎつつ、道路の両脇にある食材や調味料を物色する。
絶対に必要な調味料は持ってきているけど、それ程たくさんは持ってきていない。
道中でも買えるだろうと思ったからね。
ただし、味噌と醤油がドラールとアイデクセ以外にないと困るので、大量に持っていることは内緒。
出発前に、ドラールに着いたら手作りの味噌と醤油、お豆腐を買うつもりだとヨシキさんに話したら、紹介状を書いてくれた。
ドラールにはヨシキさんの仲間が残っていて、『アーミーズ職人支部』として活動しているんだとか。
……いろいろと突っ込んでみたい。
その紹介状を渡せば、味噌と醤油、お豆腐を融通してくれるかもしれないんだって。
融通してくれたら嬉しいな!
そんな調味料事情はともかく。
炒め物やサラダに使う野菜。
そろそろ肌寒いから、シチューなどの鍋やスープに使うもの。
他にも湖で獲れた魚とカニとエビ、塩と砂糖を基本にした調味料とスパイスを買いながら、エアハルトさんと町を散策する。
鮭に似た姿で一メートル以上ある赤身の魚に、サバっぽい見た目で五十センチ前後の青魚。
まんまアンコウという名前の白身の切り身は、日本にいるときにスーパーで見た量の五倍はある。
それだけで、元の魚もとても大きいんだろうと想像できた。
あとは、伊勢海老の倍近いサイズの車エビとボタンエビサイズのバナメイエビ、ゼーバルシュではスパイダークラブと呼ばれているタカアシガニというか、タラバガニっぽいものをそれぞれ箱買いしてしまった。
特にスパイダークラブは見た目が真っ黒で脚が長いからなのか、誰も買っていなかったんだよね。
もちろん、茹でてカットされているものは買っていくんだけど、丸ごとの姿のものはだ~れも買わないという不思議。
解体が面倒なのかもしれないと思った瞬間だった。
とはいえ、はしゃぐ従魔たちと眷属たちとは違い、隣にいるエアハルトさんは若干呆れている雰囲気を醸し出しているわけで。
「優衣、買い過ぎじゃないか?」
「そうでもないですよ? エアハルトさんたちはともかく、私の従魔たちと眷属たちは御覧の通りだし……」
「まあな……」
呆れた声音で言われたけど、うちは大所帯なうえに大型の子が多い。
というか、ラズとスミレ以外はほぼ大型だ。
食材によっては箱買いしても、一食分でなくなってしまうこともあるんだよねぇ。みんなすごくよく食べるから。
だからこそ、私たちしか踏破していないダンジョンの階層に行くと、根こそぎ殲滅して帰ってくるのだ。他の人たちのために残す必要がないから。
ダンジョンによりけりだけど、ボス部屋以外の魔物の復活時間も、最長で二時間も待っていれば復活するから、その間にゆっくり採取することもできたりする。
それもこれも、従魔たちと眷属たちがいるからこそだし、主人である私としては、みんなに好きなものをたくさん食べてほしいとも思ってる。
だから、今回もたくさん食材を買うのです!
そんな話をしたら、エアハルトさんには妙に納得されてしまった。
エアハルトさんの従魔たちの成長具合はどうかなどの話をしつつ、あちこちのお店で箱買いしていたら、いつの間にか一周していた。
すぐアレクさんとナディさんとも合流したので、みんなで歩き始める。
途中にあった屋台でワイバーンのお肉の串焼きが売っていたのでそれを朝食代わりに買い、食べ歩き。
ワイバーンのお肉は珍しいものじゃないけど、こうやって異国の地で食べ歩くといつもよりおいしく感じるから不思議だ。
そして、この町にもスリはいるみたいだけど、温泉の町フルドのように、組織的に動いている様子はないみたい。
それでも現行犯で騎士に引き渡されているところを見たから、まったくいないってわけじゃないんだろう。
こういう人ってどこにでもいるみたいだしね……盗賊と同じように。
私たちはスリに遭うこともなく、買い物を終えた。
そのまま町を出るのかと思ったら、一度冒険者ギルドに寄るんだって。
なにをするのかと思ってエアハルトさんに聞いたら、ワイバーンの串焼きが売られているのを見て、ワイバーンの納品の依頼があるかもしれないと考えたんだって。
もし依頼があるなら、来るまでに狩ったワイバーンを納品することにしたみたい。
移動中に五体くらい連続で襲われたもんね……
ワイバーンは解体が大変だって言っていたから、そのままギルドに納品するほうが楽っていうのもあるんだろう。
町の人に聞きながらギルドまで行く。
中に入ると冒険者たちに一斉に見られたけど、従魔たちがいることに気づいてからは、サッと視線を逸らしていた。
「ああ、こちらにございますね」
「お、数もちょうどあるな」
「こちらにはレッサードラゴンとサンダーバードもありますわ」
「全部納品しちゃいますか?」
「そうだな、そのほうがいいだろう」
冒険者たちの視線をまったく気にすることなく、Sランクの掲示板を見るエアハルトさんたち。
周囲はその掲示板の前にいる私たちに驚いて、騒めいている。
なにに驚いているのか不思議だったんだけど……
そろそろ八時になるというのにこんなにたくさん依頼が残っているってことは、Sランクの冒険者がいないか、いたとしても狩る手段や術がないんだろうと、エアハルトさんたちが小さな声で話している。
数種類の依頼票を剥がしたエアハルトさんが、代表でカウンターに持っていく。
なにかを話したエアハルトさんに対して、受付のお兄さんが驚いた顔をしてすぐに立ち上がると、カウンターから出てきた。
「こちらになります」
「ありがとう。移動するぞ」
エアハルトさんに促され、お兄さんのあとをついていく。
連れて行かれた先は、見た目は比較的大きな小屋だったけど、馬車と同じように拡張されているのか、中に入ったら体育館並みに広かった。
そのことにあんぐりと口を開けつつあとをついていく。
すると、受付のお兄さんが声を張り上げた。
「おーい、ラウ爺! 大型の解体依頼だ! 頼む!」
「おう!」
受付のお兄さんの呼びかけにラウ爺と呼ばれた人が返事を返した。
奥のほうにいた集団の中から男性が一人歩いてくる。
筋骨隆々で、ところどころ白髪が交じっている男性だ。ゴルドさんのように髭が長いから、ドワーフ族なのかも。
爺と呼ばれているものの、どう見てもおじいさんには見えない。どちらかといえばおじさんの部類に入ると思う。
そんなことを考えていると、私たちの元にその人が到着した。受付のお兄さんに紹介されたあと、改めてお互いに挨拶。
「ラウレントという。解体を専門にしている」
「『フライハイト』のリーダー、エアハルトだ」
二人はガッチリと握手していた。
そして、受付のお兄さんから渡された依頼票を見て、目を丸くして驚くラウレントさん。
納品するものをここに出してほしいとテーブルを指定されたので、マジックバックから種類を分けて取り出す。
それはエアハルトさんたちも同じで、それぞれ種類ごとに分けて出している。
その数の多さはもちろんのこと、あまり傷がない状態だったからなのか、ラウレントさんに唖然とされた。
だけど、すぐに我に返って奥にいた人たちを呼ぶラウレントさん。
その声を聞いて、人々がたくさん集まってきた。
解体する職員だそうだ。
「おお~! こんなに綺麗なのは初めてじゃね?」
「だよね~! これは腕が鳴るわね!」
「血もまるまる残ってるじゃないか! おい、バケツをたくさん用意しろ!」
「瓶や皮の袋もだよ! レッサードラゴンの素材はそっちにお願いね!」
ラウレントさんともう一人、女性が指示を出していく。
女性の頭には茶色い尖った耳が生えており、お尻には先端が白くなっている茶色のふっさふさな尻尾も。
もしかしたらキツネの獣人さんなのかも。
職員たちはテーブルの周囲に集まって興奮した様子で騒いでいたのに、ラウレントさんと女性が指示を出すと蜘蛛の子を散らしたように移動したあと、バケツや皮袋、瓶などを大量に用意し始めたからは驚いた。
「よし、ここからは時間との勝負だ。特にレッサーの素材は医師が欲しがってたから、丁寧に頼む」
「「「了解です!」」」
その号令を皮切りに職員たちが動き出す。
レッサードラゴンとワイバーンは四人一組、サンダーバードは三人一組のチームとなり、一組一体で解体していく。
役割を分担しているようで、解体スピードが尋常じゃなく速い!
さすがプロだと感心しきりだ。
十メートル近いワイバーンやレッサードラゴンを二十分足らずで解体し終わったときには、四人全員で唖然とした。
「作業スピードが速いな」
「ワイバーンとレッサードラゴンは、痛むのが早いんだ。それもあって、解体の速さが命なんだ」
エアハルトさんのつぶやきに、ラウレントさんが返事を返す。
「そうなのか、それは知らなかった。ああ、あと、ワイバーンとレッサードラゴンの肉だが、一体分ずつこっちに欲しいんだがどうだろうか?」
「残りの肉と素材はこっちにくれるんだろ?」
「ああ」
「なら、構わねえよ。おーい! そっちのワイバーンとレッサーの肉は、こちらさんに渡してくれ!」
「はい!」
ラウレントさんが声をかけると、すぐに返事が返ってくる。
ただ、肉の量が多いので持ち運びに困っているようだったから、私たちが取りに行くことに。ロキとロックにお願いして、彼らの鞄に入れてもらった。
職員はその収納力に驚いていたけど、ダンジョンで出たマジックバッグだと説明すると、ものすごーく納得した顔をしたあと、羨ましそうな顔にもなった。
マジックバッグ自体を製作できる人はそれなりにいる。
腕のいい人は時間停止がついているマジックバッグも作れる。
だけど、作る人の魔力量や職業ランクなど熟練度と呼ばれるものの関係で、中の容量が決まってくるんだとか。
最高ランクをもってしても、【無限収納】を作れる人はほとんどいないという。
【無限収納】のマジックバッグはダンジョン産のものが多く、持っていることを秘匿する人が多いんだそうだ……奪うために、殺人を犯す人もいるから。
その話を聞いたとき、王様が内緒にしておくように言ったのはこれが理由か! と納得したのは余談だ。
閑話休題。
お肉ももらったし、査定も出たとのことで、ラウレントさんはかまぼこの板サイズの木札になにかを書き、その木札をエアハルトさんに渡した。
その木札を見て、エアハルトさんの目が丸くなった。
「こんなに、いいのか?」
「長年解体作業をしてきたが、ここまで状態がよく、新鮮なものは初めてでな。その分を上乗せした形だ」
「ありがとう」
なるほど、さっき新鮮さが命だって言ってたもんね。
まあ、国境からガストまですごく近い距離だったから、すぐに下りたんだけどね。なので、次に飛ぶときもベルデの担当のままだ。
門で白水晶に触り、中へと入る。
ここでも門番にギョッとされたけど、それは他のみんなの従魔たちも同じだった。
まあ、私のほうがヤバイ従魔たちと眷属たちだけど、三人の従魔たちもヤバイのがいるものね。
神獣やそれに次ぐ実力の魔物のオンパレードなんだから、何も知らない人にギョッとされるのは当たり前か。
ガストには食料調達に寄っただけなので、それほど長く滞在することはなく、すぐに出発することになる。
ガストはとても賑やかな町だけど、特別な観光地があるわけじゃないから、ドラールで過ごす時間のために早めに出るのだ。
町に無事に入ったところで、早速みんなで大きな通りを歩いていく。
まだ七時前だからなのか、朝市がとても賑わっている。
もちろん、従魔たちは通行の邪魔にならないようみんな小さくなっているんだけど……
私はさすがに全員を肩や腕にとまらせることはできないから、レンとシマだけが大きくなり、他の従魔たちは彼らの上にいた。
鳥の子たちは私とレンとシマに分散し、ロキとソラがレンの上、ロックとユキがシマの上だ。ラズとスミレは私の両肩にいる。
レンとシマは護衛も兼ねているので、私の両隣を歩いている。
初めての他国、しかも交易の拠点ともいえるべき場所。
だからなのか、アイデクセの王都で見たことがある種族の人もいれば、初めて見る種族や服装の人もいる。
王都ではあまり見なかった、背中に翼が生えている人たちもたくさんいて、その翼の色もさまざまだ。白と黒、茶色に灰色の人もいれば、全体的には茶色や黒だけど、先端が真っ白の人もいた。
どこの国の人なのかな。
興味はあるがあまりにもジロジロ見るのは失礼だと思い、それ以降は見ることをやめた。
他にも、キツネの耳と尻尾がある商人の格好をした人や、額に小さな角が生えていて、体の大きな冒険者もいたよ。
あとでこっそりとエアハルトさんに聞いたら、鬼神族という、西大陸にいる魔神族じゃないかと言っていた。
なるほど、一口に魔神族といっても、大陸によって違うってことなんだろう。
そういった人たちもいたし、初めての他国ということで珍しさから私も従魔たちも、きょろきょろと周囲を見回すので忙しい。
三人は落ち着いているから、来たことがあるのかな。そう思って聞いてみたら、一度だけだけど家族と来たことがあるんだって。
なんでもガストの町から北に向かうと湖があって、そこが避暑地になっているという。
王都の近くにある湖とは違うもので、魔物もランクの低いものしかいなそうだ。
それもあり、アイデクセの貴族たちに人気の避暑地らしい。
まあ、なにもないからか一回行けばいいと思ったのか、あるいは仕事が忙しかったのかわからないけど、一回訪れたきり三人は再訪していないみたいだけど。
そんな話をしているうちに、多くの朝市が立つ商店街に着く。
パッと見ただけでも、いろんな種類の野菜や肉、魚を見つけることができた。
さすがに果物は少ないけど、ダンジョン産と書かれた看板のところには、バナナとみかん、リンゴの絵が描かれていて、私がもたらした情報がここまで浸透しているんだなあと嬉しくなった。
「さて、食材を探すか」
「そうですね。肉は途中でも狩れますから、野菜や果物でしょうか」
「湖で獲れる魚と、調味料も欲しいですわ」
「私は香辛料もあったほうがいいと思います」
「わかった。じゃあ、デートがてらそれぞれの夫婦で行動しよう」
エアハルトさんがいきなりそんな提案をしてきたよ!?
しかも、アレクさんとナディさんも、嬉しそうに頷いてるし!
ま、まあ、気持ちはわかるから私も頷く。
「いいですね。集合時間はどうしますか?」
「はっきりとは決めないで、一周したらここに戻ってくることにしようか」
「わかりました。ナディ、行きましょうか」
「ええ! どのような食材や調味料があるか、楽しみですわ!」
嬉しそうなアレクさんとナディさんが微笑ましい。
「俺たちだけじゃなく、従魔たちのぶんも計算にいれろよ?」
「わかっております」
それでは、と左右に分かれて行動開始!
「それじゃあ、優衣。順番に見て行こう」
「はーい」
プチデートだ~! と内心ではしゃぎつつ、道路の両脇にある食材や調味料を物色する。
絶対に必要な調味料は持ってきているけど、それ程たくさんは持ってきていない。
道中でも買えるだろうと思ったからね。
ただし、味噌と醤油がドラールとアイデクセ以外にないと困るので、大量に持っていることは内緒。
出発前に、ドラールに着いたら手作りの味噌と醤油、お豆腐を買うつもりだとヨシキさんに話したら、紹介状を書いてくれた。
ドラールにはヨシキさんの仲間が残っていて、『アーミーズ職人支部』として活動しているんだとか。
……いろいろと突っ込んでみたい。
その紹介状を渡せば、味噌と醤油、お豆腐を融通してくれるかもしれないんだって。
融通してくれたら嬉しいな!
そんな調味料事情はともかく。
炒め物やサラダに使う野菜。
そろそろ肌寒いから、シチューなどの鍋やスープに使うもの。
他にも湖で獲れた魚とカニとエビ、塩と砂糖を基本にした調味料とスパイスを買いながら、エアハルトさんと町を散策する。
鮭に似た姿で一メートル以上ある赤身の魚に、サバっぽい見た目で五十センチ前後の青魚。
まんまアンコウという名前の白身の切り身は、日本にいるときにスーパーで見た量の五倍はある。
それだけで、元の魚もとても大きいんだろうと想像できた。
あとは、伊勢海老の倍近いサイズの車エビとボタンエビサイズのバナメイエビ、ゼーバルシュではスパイダークラブと呼ばれているタカアシガニというか、タラバガニっぽいものをそれぞれ箱買いしてしまった。
特にスパイダークラブは見た目が真っ黒で脚が長いからなのか、誰も買っていなかったんだよね。
もちろん、茹でてカットされているものは買っていくんだけど、丸ごとの姿のものはだ~れも買わないという不思議。
解体が面倒なのかもしれないと思った瞬間だった。
とはいえ、はしゃぐ従魔たちと眷属たちとは違い、隣にいるエアハルトさんは若干呆れている雰囲気を醸し出しているわけで。
「優衣、買い過ぎじゃないか?」
「そうでもないですよ? エアハルトさんたちはともかく、私の従魔たちと眷属たちは御覧の通りだし……」
「まあな……」
呆れた声音で言われたけど、うちは大所帯なうえに大型の子が多い。
というか、ラズとスミレ以外はほぼ大型だ。
食材によっては箱買いしても、一食分でなくなってしまうこともあるんだよねぇ。みんなすごくよく食べるから。
だからこそ、私たちしか踏破していないダンジョンの階層に行くと、根こそぎ殲滅して帰ってくるのだ。他の人たちのために残す必要がないから。
ダンジョンによりけりだけど、ボス部屋以外の魔物の復活時間も、最長で二時間も待っていれば復活するから、その間にゆっくり採取することもできたりする。
それもこれも、従魔たちと眷属たちがいるからこそだし、主人である私としては、みんなに好きなものをたくさん食べてほしいとも思ってる。
だから、今回もたくさん食材を買うのです!
そんな話をしたら、エアハルトさんには妙に納得されてしまった。
エアハルトさんの従魔たちの成長具合はどうかなどの話をしつつ、あちこちのお店で箱買いしていたら、いつの間にか一周していた。
すぐアレクさんとナディさんとも合流したので、みんなで歩き始める。
途中にあった屋台でワイバーンのお肉の串焼きが売っていたのでそれを朝食代わりに買い、食べ歩き。
ワイバーンのお肉は珍しいものじゃないけど、こうやって異国の地で食べ歩くといつもよりおいしく感じるから不思議だ。
そして、この町にもスリはいるみたいだけど、温泉の町フルドのように、組織的に動いている様子はないみたい。
それでも現行犯で騎士に引き渡されているところを見たから、まったくいないってわけじゃないんだろう。
こういう人ってどこにでもいるみたいだしね……盗賊と同じように。
私たちはスリに遭うこともなく、買い物を終えた。
そのまま町を出るのかと思ったら、一度冒険者ギルドに寄るんだって。
なにをするのかと思ってエアハルトさんに聞いたら、ワイバーンの串焼きが売られているのを見て、ワイバーンの納品の依頼があるかもしれないと考えたんだって。
もし依頼があるなら、来るまでに狩ったワイバーンを納品することにしたみたい。
移動中に五体くらい連続で襲われたもんね……
ワイバーンは解体が大変だって言っていたから、そのままギルドに納品するほうが楽っていうのもあるんだろう。
町の人に聞きながらギルドまで行く。
中に入ると冒険者たちに一斉に見られたけど、従魔たちがいることに気づいてからは、サッと視線を逸らしていた。
「ああ、こちらにございますね」
「お、数もちょうどあるな」
「こちらにはレッサードラゴンとサンダーバードもありますわ」
「全部納品しちゃいますか?」
「そうだな、そのほうがいいだろう」
冒険者たちの視線をまったく気にすることなく、Sランクの掲示板を見るエアハルトさんたち。
周囲はその掲示板の前にいる私たちに驚いて、騒めいている。
なにに驚いているのか不思議だったんだけど……
そろそろ八時になるというのにこんなにたくさん依頼が残っているってことは、Sランクの冒険者がいないか、いたとしても狩る手段や術がないんだろうと、エアハルトさんたちが小さな声で話している。
数種類の依頼票を剥がしたエアハルトさんが、代表でカウンターに持っていく。
なにかを話したエアハルトさんに対して、受付のお兄さんが驚いた顔をしてすぐに立ち上がると、カウンターから出てきた。
「こちらになります」
「ありがとう。移動するぞ」
エアハルトさんに促され、お兄さんのあとをついていく。
連れて行かれた先は、見た目は比較的大きな小屋だったけど、馬車と同じように拡張されているのか、中に入ったら体育館並みに広かった。
そのことにあんぐりと口を開けつつあとをついていく。
すると、受付のお兄さんが声を張り上げた。
「おーい、ラウ爺! 大型の解体依頼だ! 頼む!」
「おう!」
受付のお兄さんの呼びかけにラウ爺と呼ばれた人が返事を返した。
奥のほうにいた集団の中から男性が一人歩いてくる。
筋骨隆々で、ところどころ白髪が交じっている男性だ。ゴルドさんのように髭が長いから、ドワーフ族なのかも。
爺と呼ばれているものの、どう見てもおじいさんには見えない。どちらかといえばおじさんの部類に入ると思う。
そんなことを考えていると、私たちの元にその人が到着した。受付のお兄さんに紹介されたあと、改めてお互いに挨拶。
「ラウレントという。解体を専門にしている」
「『フライハイト』のリーダー、エアハルトだ」
二人はガッチリと握手していた。
そして、受付のお兄さんから渡された依頼票を見て、目を丸くして驚くラウレントさん。
納品するものをここに出してほしいとテーブルを指定されたので、マジックバックから種類を分けて取り出す。
それはエアハルトさんたちも同じで、それぞれ種類ごとに分けて出している。
その数の多さはもちろんのこと、あまり傷がない状態だったからなのか、ラウレントさんに唖然とされた。
だけど、すぐに我に返って奥にいた人たちを呼ぶラウレントさん。
その声を聞いて、人々がたくさん集まってきた。
解体する職員だそうだ。
「おお~! こんなに綺麗なのは初めてじゃね?」
「だよね~! これは腕が鳴るわね!」
「血もまるまる残ってるじゃないか! おい、バケツをたくさん用意しろ!」
「瓶や皮の袋もだよ! レッサードラゴンの素材はそっちにお願いね!」
ラウレントさんともう一人、女性が指示を出していく。
女性の頭には茶色い尖った耳が生えており、お尻には先端が白くなっている茶色のふっさふさな尻尾も。
もしかしたらキツネの獣人さんなのかも。
職員たちはテーブルの周囲に集まって興奮した様子で騒いでいたのに、ラウレントさんと女性が指示を出すと蜘蛛の子を散らしたように移動したあと、バケツや皮袋、瓶などを大量に用意し始めたからは驚いた。
「よし、ここからは時間との勝負だ。特にレッサーの素材は医師が欲しがってたから、丁寧に頼む」
「「「了解です!」」」
その号令を皮切りに職員たちが動き出す。
レッサードラゴンとワイバーンは四人一組、サンダーバードは三人一組のチームとなり、一組一体で解体していく。
役割を分担しているようで、解体スピードが尋常じゃなく速い!
さすがプロだと感心しきりだ。
十メートル近いワイバーンやレッサードラゴンを二十分足らずで解体し終わったときには、四人全員で唖然とした。
「作業スピードが速いな」
「ワイバーンとレッサードラゴンは、痛むのが早いんだ。それもあって、解体の速さが命なんだ」
エアハルトさんのつぶやきに、ラウレントさんが返事を返す。
「そうなのか、それは知らなかった。ああ、あと、ワイバーンとレッサードラゴンの肉だが、一体分ずつこっちに欲しいんだがどうだろうか?」
「残りの肉と素材はこっちにくれるんだろ?」
「ああ」
「なら、構わねえよ。おーい! そっちのワイバーンとレッサーの肉は、こちらさんに渡してくれ!」
「はい!」
ラウレントさんが声をかけると、すぐに返事が返ってくる。
ただ、肉の量が多いので持ち運びに困っているようだったから、私たちが取りに行くことに。ロキとロックにお願いして、彼らの鞄に入れてもらった。
職員はその収納力に驚いていたけど、ダンジョンで出たマジックバッグだと説明すると、ものすごーく納得した顔をしたあと、羨ましそうな顔にもなった。
マジックバッグ自体を製作できる人はそれなりにいる。
腕のいい人は時間停止がついているマジックバッグも作れる。
だけど、作る人の魔力量や職業ランクなど熟練度と呼ばれるものの関係で、中の容量が決まってくるんだとか。
最高ランクをもってしても、【無限収納】を作れる人はほとんどいないという。
【無限収納】のマジックバッグはダンジョン産のものが多く、持っていることを秘匿する人が多いんだそうだ……奪うために、殺人を犯す人もいるから。
その話を聞いたとき、王様が内緒にしておくように言ったのはこれが理由か! と納得したのは余談だ。
閑話休題。
お肉ももらったし、査定も出たとのことで、ラウレントさんはかまぼこの板サイズの木札になにかを書き、その木札をエアハルトさんに渡した。
その木札を見て、エアハルトさんの目が丸くなった。
「こんなに、いいのか?」
「長年解体作業をしてきたが、ここまで状態がよく、新鮮なものは初めてでな。その分を上乗せした形だ」
「ありがとう」
なるほど、さっき新鮮さが命だって言ってたもんね。
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