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本編 2
家族でバーベキュー 4(カール視点)
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久しぶりに……本当に久しぶりに、両親や兄上たちと話をした。
そのきっかけを作ってくれたのは、視線の先にいるエアハルト兄上の妻となった、平民で薬師のリン義姉上だ。そして、僕の魅了魔法を、いとも簡単に解いてしまった人でもある。
あの当時、僕はエアハルト兄上や父上の側で、領地経営の補佐をしていた。騎士になるにも文官になるにも能力が足りず、補佐をするしかなかったのだ。
だから勘違いした。補佐なんだから、領主にもなれると。
魅了魔法を使えば、自分の思うがままだと。
けれど、それはリン義姉上が作った高レベルのテンプポーションであえなく解除され、人に対して使ってはいけない魅了魔法を使ったことで、僕は罰として魅了魔法だけが使えない腕輪を嵌められ、しばらく王宮の牢で過ごすことになったのだ。
そのときですら、僕はまだ領主の仕事をきちんとこなせると思っていた。
けれど、レイラの家へ婿養子に入り、義父上やレイラに領主の仕事を教わるにつれ、僕に領主の仕事は無理だと現実を知った。僕はとても驕っていたのだ。
補佐はできるけれど、領地経営の主要部分となるとどうしてもわからない部分があった。それを義父もレイラも、どこか諦めたような顔をして溜息をつかれたことは一度や二度じゃない。
僕はどうしたらいいんだろう……
まだ幼い子どもたちに混ざって勉強をしていてもわかところとわからないところがあり、頭を悩ませていた矢先に、母上から息抜きに来ないかと誘っていただいたのが今回のバーベキューだった。
兄上たちの婚姻式後のパーティーや両親の婚姻記念日に出席したりもしたが、いつも自分が仕出かしたこともあって気まずかった。けれど、いつまでもこのままじゃいけないとレイラにも言われ、思い切ってバーベキューに参加してみた。
最初は僕もレイラも気まずい思いをしたが、両親は僕たちを歓迎していくれたうえ、積極的に話を聞いてくれた。それがとても嬉しかった。
それでもどこか気まずく、だけど意を決して参加したのだからと、リン義姉上に話しかけた。
「あの……、ごきげんよう、リンお義姉様。ご招待、ありがとうございます」
「……こ、こんにちは」
「こんにちは、レイラさん、カールさん。招待を決めたのはお義父さんたちなので、そちらにお礼を言ってくださいね」
「「はい」」
そんな会話から始まった交流だが、どうしても微妙に顔がこわばってしまう。だけどレイラに「カール様」と促され、レイラと決めた謝罪をしようと口を開いた。
「あの、さ……。以前は、その……」
「ふふ。私は怒ってないので、大丈夫ですよ? あのときはまあ……エアハルトさんに頼まれた、というのもありましたし」
「……」
だけど、リン義姉上は笑みを浮かべ、怒っていないという。そのことに安堵した。そして聞かれた、当主教育のこと。だからこそ、僕は正直に勉強は苦手だと言うと、思いがけないことを言われた。
「そうなんですね。実は私も、勉強が嫌いでした。しかも、記憶力が乏しいせいで、必要なことを覚えるのが大変だったんです」
「「えっ!? そんなふうに見えません!」」
「あはは~! よく言われるんですけど、事実なんですよね。得意な分野が偏っているんです」
そう言ったリン義姉上に僕とレイラを顔を見合わせ、信じられない思いでリン義姉上を見つめる。
まさか、得意な分野をそのまま伸ばすことで、薬師になったと言われたのだから。
それから、僕の得意なものは何か聞いてくれたうえ、リン義姉上が描いたという絵本の出版をしないかと提案された。
僕が、絵本の出版を……? 本当に、僕にできるのだろうか?
それがとても不安だったけれど、それらも含めて後日絵本を見て決めてほしいと言われたのだ。
正直にいえば、とても嬉しかった。本を読むのが好きだった僕が、子ども向けの絵本とはいえ、まさか僕が本の出版に携われることになるとはと。
後日、義両親には内緒だと、レイラとともにエアハルト兄上から聞かされた、リン義姉上の本当の正体。
それこそ、青天の霹靂ともいえるし、荒唐無稽ともいえるような内容だったけれど、神酒を作れるだけで実家のガウティーノ家と王家だけではなく、ユルゲンス家や宰相殿の家などが後ろ盾として就く理由に納得もした。
ここ二千年以上現れなかった渡り人だったのだ、リン義姉上は。しかも、アントス神のミスと加護も賜っている、とても稀で貴重な存在でもある。
そう言われて僕は、よく貴族籍の剥奪や毒による死を賜らなかったなと、身震いをしたし、もっと愚かなことをしていたら、レイラたちに毒を盛られていたかもしれないとも思い至った。
そう思ったら、自然と涙が溢れ、とまらなくなった。
「カール様、旦那様。わたくしと一緒に、絵本の出版をいたしましょう?」
「レイラ……」
「あのようなお話をしてくださったリンお義姉様ですもの。きっと、赦してくださっていると思いますの」
「……」
「ですから、リンお義姉様の提案に乗りましょう」
「そう、だね」
レイラと一緒に、絵本を作る。そのぶん、領地経営は義父母とレイラに任せきりになってしまうけれど、もともと僕にはできないことだ。それなら、絵本の出版を事業として立ち上げてもいいんじゃないかと思ったし、レイラに相談したら。
「素敵ですわ! 領地はわたくしとお父様にお任せくださいませ」
だから大丈夫ですわと、レイラは朗らかに笑ってくれたのだ。
この事業が本当にうまくいか、未知数すぎて僕にもわからない。それでも、リン義姉上のように、得意なものとして僕ができる精一杯を捧げてみたい。
そう決意してリン義姉上とエアハルト兄上に連絡をすれば。後日、ジェルミ家が治めているカルティス領に来てくれることになった。
ある程度のことは聞いているけれど、詳しい内容を聞いていない。どんな絵本なのか、今から楽しみだと、レイラと共に話したのだった。
そのきっかけを作ってくれたのは、視線の先にいるエアハルト兄上の妻となった、平民で薬師のリン義姉上だ。そして、僕の魅了魔法を、いとも簡単に解いてしまった人でもある。
あの当時、僕はエアハルト兄上や父上の側で、領地経営の補佐をしていた。騎士になるにも文官になるにも能力が足りず、補佐をするしかなかったのだ。
だから勘違いした。補佐なんだから、領主にもなれると。
魅了魔法を使えば、自分の思うがままだと。
けれど、それはリン義姉上が作った高レベルのテンプポーションであえなく解除され、人に対して使ってはいけない魅了魔法を使ったことで、僕は罰として魅了魔法だけが使えない腕輪を嵌められ、しばらく王宮の牢で過ごすことになったのだ。
そのときですら、僕はまだ領主の仕事をきちんとこなせると思っていた。
けれど、レイラの家へ婿養子に入り、義父上やレイラに領主の仕事を教わるにつれ、僕に領主の仕事は無理だと現実を知った。僕はとても驕っていたのだ。
補佐はできるけれど、領地経営の主要部分となるとどうしてもわからない部分があった。それを義父もレイラも、どこか諦めたような顔をして溜息をつかれたことは一度や二度じゃない。
僕はどうしたらいいんだろう……
まだ幼い子どもたちに混ざって勉強をしていてもわかところとわからないところがあり、頭を悩ませていた矢先に、母上から息抜きに来ないかと誘っていただいたのが今回のバーベキューだった。
兄上たちの婚姻式後のパーティーや両親の婚姻記念日に出席したりもしたが、いつも自分が仕出かしたこともあって気まずかった。けれど、いつまでもこのままじゃいけないとレイラにも言われ、思い切ってバーベキューに参加してみた。
最初は僕もレイラも気まずい思いをしたが、両親は僕たちを歓迎していくれたうえ、積極的に話を聞いてくれた。それがとても嬉しかった。
それでもどこか気まずく、だけど意を決して参加したのだからと、リン義姉上に話しかけた。
「あの……、ごきげんよう、リンお義姉様。ご招待、ありがとうございます」
「……こ、こんにちは」
「こんにちは、レイラさん、カールさん。招待を決めたのはお義父さんたちなので、そちらにお礼を言ってくださいね」
「「はい」」
そんな会話から始まった交流だが、どうしても微妙に顔がこわばってしまう。だけどレイラに「カール様」と促され、レイラと決めた謝罪をしようと口を開いた。
「あの、さ……。以前は、その……」
「ふふ。私は怒ってないので、大丈夫ですよ? あのときはまあ……エアハルトさんに頼まれた、というのもありましたし」
「……」
だけど、リン義姉上は笑みを浮かべ、怒っていないという。そのことに安堵した。そして聞かれた、当主教育のこと。だからこそ、僕は正直に勉強は苦手だと言うと、思いがけないことを言われた。
「そうなんですね。実は私も、勉強が嫌いでした。しかも、記憶力が乏しいせいで、必要なことを覚えるのが大変だったんです」
「「えっ!? そんなふうに見えません!」」
「あはは~! よく言われるんですけど、事実なんですよね。得意な分野が偏っているんです」
そう言ったリン義姉上に僕とレイラを顔を見合わせ、信じられない思いでリン義姉上を見つめる。
まさか、得意な分野をそのまま伸ばすことで、薬師になったと言われたのだから。
それから、僕の得意なものは何か聞いてくれたうえ、リン義姉上が描いたという絵本の出版をしないかと提案された。
僕が、絵本の出版を……? 本当に、僕にできるのだろうか?
それがとても不安だったけれど、それらも含めて後日絵本を見て決めてほしいと言われたのだ。
正直にいえば、とても嬉しかった。本を読むのが好きだった僕が、子ども向けの絵本とはいえ、まさか僕が本の出版に携われることになるとはと。
後日、義両親には内緒だと、レイラとともにエアハルト兄上から聞かされた、リン義姉上の本当の正体。
それこそ、青天の霹靂ともいえるし、荒唐無稽ともいえるような内容だったけれど、神酒を作れるだけで実家のガウティーノ家と王家だけではなく、ユルゲンス家や宰相殿の家などが後ろ盾として就く理由に納得もした。
ここ二千年以上現れなかった渡り人だったのだ、リン義姉上は。しかも、アントス神のミスと加護も賜っている、とても稀で貴重な存在でもある。
そう言われて僕は、よく貴族籍の剥奪や毒による死を賜らなかったなと、身震いをしたし、もっと愚かなことをしていたら、レイラたちに毒を盛られていたかもしれないとも思い至った。
そう思ったら、自然と涙が溢れ、とまらなくなった。
「カール様、旦那様。わたくしと一緒に、絵本の出版をいたしましょう?」
「レイラ……」
「あのようなお話をしてくださったリンお義姉様ですもの。きっと、赦してくださっていると思いますの」
「……」
「ですから、リンお義姉様の提案に乗りましょう」
「そう、だね」
レイラと一緒に、絵本を作る。そのぶん、領地経営は義父母とレイラに任せきりになってしまうけれど、もともと僕にはできないことだ。それなら、絵本の出版を事業として立ち上げてもいいんじゃないかと思ったし、レイラに相談したら。
「素敵ですわ! 領地はわたくしとお父様にお任せくださいませ」
だから大丈夫ですわと、レイラは朗らかに笑ってくれたのだ。
この事業が本当にうまくいか、未知数すぎて僕にもわからない。それでも、リン義姉上のように、得意なものとして僕ができる精一杯を捧げてみたい。
そう決意してリン義姉上とエアハルト兄上に連絡をすれば。後日、ジェルミ家が治めているカルティス領に来てくれることになった。
ある程度のことは聞いているけれど、詳しい内容を聞いていない。どんな絵本なのか、今から楽しみだと、レイラと共に話したのだった。
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