転移先は薬師が少ない世界でした

饕餮

文字の大きさ
171 / 178
本編 2

家族でバーベキュー 4(カール視点)

しおりを挟む
 久しぶりに……本当に久しぶりに、両親や兄上たちと話をした。
 そのきっかけを作ってくれたのは、視線の先にいるエアハルト兄上の妻となった、平民で薬師のリン義姉上あねうえだ。そして、僕の魅了魔法を、いとも簡単に解いてしまった人でもある。

 あの当時、僕はエアハルト兄上や父上の側で、領地経営の補佐をしていた。騎士になるにも文官になるにも能力が足りず、補佐をするしかなかったのだ。
 だから勘違いした。補佐なんだから、領主にもなれると。
 魅了魔法を使えば、自分の思うがままだと。

 けれど、それはリン義姉上が作った高レベルのテンプポーションであえなく解除され、人に対して使ってはいけない魅了魔法を使ったことで、僕は罰として魅了魔法だけが使えない腕輪を嵌められ、しばらく王宮の牢で過ごすことになったのだ。

 そのときですら、僕はまだ領主の仕事をきちんとこなせると思っていた。
 けれど、レイラの家へ婿養子に入り、義父上ちちうえやレイラに領主の仕事を教わるにつれ、僕に領主の仕事は無理だと現実を知った。僕はとても驕っていたのだ。

 補佐はできるけれど、領地経営の主要部分となるとどうしてもわからない部分があった。それを義父もレイラも、どこか諦めたような顔をして溜息をつかれたことは一度や二度じゃない。

 僕はどうしたらいいんだろう……

 まだ幼い子どもたちに混ざって勉強をしていてもわかところとわからないところがあり、頭を悩ませていた矢先に、母上から息抜きに来ないかと誘っていただいたのが今回のバーベキューだった。
 兄上たちの婚姻式後のパーティーや両親の婚姻記念日に出席したりもしたが、いつも自分が仕出かしたこともあって気まずかった。けれど、いつまでもこのままじゃいけないとレイラにも言われ、思い切ってバーベキューに参加してみた。
 最初は僕もレイラも気まずい思いをしたが、両親は僕たちを歓迎していくれたうえ、積極的に話を聞いてくれた。それがとても嬉しかった。
 それでもどこか気まずく、だけど意を決して参加したのだからと、リン義姉上に話しかけた。

「あの……、ごきげんよう、リンお義姉ねえ様。ご招待、ありがとうございます」
「……こ、こんにちは」
「こんにちは、レイラさん、カールさん。招待を決めたのはお義父とうさんたちなので、そちらにお礼を言ってくださいね」
「「はい」」

 そんな会話から始まった交流だが、どうしても微妙に顔がこわばってしまう。だけどレイラに「カール様」と促され、レイラと決めた謝罪をしようと口を開いた。

「あの、さ……。以前は、その……」
「ふふ。私は怒ってないので、大丈夫ですよ? あのときはまあ……エアハルトさんに頼まれた、というのもありましたし」
「……」

 だけど、リン義姉上は笑みを浮かべ、怒っていないという。そのことに安堵した。そして聞かれた、当主教育のこと。だからこそ、僕は正直に勉強は苦手だと言うと、思いがけないことを言われた。

「そうなんですね。実は私も、勉強が嫌いでした。しかも、記憶力が乏しいせいで、必要なことを覚えるのが大変だったんです」
「「えっ!? そんなふうに見えません!」」
「あはは~! よく言われるんですけど、事実なんですよね。得意な分野が偏っているんです」

 そう言ったリン義姉上に僕とレイラを顔を見合わせ、信じられない思いでリン義姉上を見つめる。
 まさか、得意な分野をそのまま伸ばすことで、薬師になったと言われたのだから。
 それから、僕の得意なものは何か聞いてくれたうえ、リン義姉上が描いたという絵本の出版をしないかと提案された。

 僕が、絵本の出版を……? 本当に、僕にできるのだろうか?

 それがとても不安だったけれど、それらも含めて後日絵本を見て決めてほしいと言われたのだ。
 正直にいえば、とても嬉しかった。本を読むのが好きだった僕が、子ども向けの絵本とはいえ、まさか僕が本の出版に携われることになるとはと。

 後日、義両親には内緒だと、レイラとともにエアハルト兄上から聞かされた、リン義姉上の本当の正体。
 それこそ、青天の霹靂ともいえるし、荒唐無稽ともいえるような内容だったけれど、神酒ソーマを作れるだけで実家のガウティーノ家と王家だけではなく、ユルゲンス家や宰相殿の家などが後ろ盾として就く理由に納得もした。
 ここ二千年以上現れなかった渡り人だったのだ、リン義姉上は。しかも、アントス神のミスと加護も賜っている、とても稀で貴重な存在でもある。
 そう言われて僕は、よく貴族籍の剥奪や毒による死を賜らなかったなと、身震いをしたし、もっと愚かなことをしていたら、レイラたちに毒を盛られていたかもしれないとも思い至った。

 そう思ったら、自然と涙が溢れ、とまらなくなった。

「カール様、旦那様。わたくしと一緒に、絵本の出版をいたしましょう?」
「レイラ……」
「あのようなお話をしてくださったリンお義姉様ねえさまですもの。きっと、赦してくださっていると思いますの」
「……」
「ですから、リンお義姉様の提案に乗りましょう」
「そう、だね」

 レイラと一緒に、絵本を作る。そのぶん、領地経営は義父母とレイラに任せきりになってしまうけれど、もともと僕にはできないことだ。それなら、絵本の出版を事業として立ち上げてもいいんじゃないかと思ったし、レイラに相談したら。

「素敵ですわ! 領地はわたくしとお父様にお任せくださいませ」

 だから大丈夫ですわと、レイラは朗らかに笑ってくれたのだ。

 この事業が本当にうまくいか、未知数すぎて僕にもわからない。それでも、リン義姉上のように、得意なものとして僕ができる精一杯を捧げてみたい。

 そう決意してリン義姉上とエアハルト兄上に連絡をすれば。後日、ジェルミ家が治めているカルティス領に来てくれることになった。
 ある程度のことは聞いているけれど、詳しい内容を聞いていない。どんな絵本なのか、今から楽しみだと、レイラと共に話したのだった。

しおりを挟む
感想 2,061

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。