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本編 2

カルティス領へ行こう 1

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 バーベキューの二日後、拠点であり自宅でもある家に、カールさんとレイラさんがやってきた。当然のことながらバーベキューのときに提案した、絵本の出版についての話だ。
 とはいえ、絵本にした話は十冊しかなく、男の子が好むような話となると、金太郎と桃太郎、一寸法師くらいしかない。あとはシンデレラとか眠り姫とか、女の子が好む話しかない。
 なので、とりあえず桃太郎こと「ペルゼのオーガ退治」、シンデレラこと「サンドリヨン」を貸し、これを写してまずは領内での出版をしてみてはどうかと、エアハルトさんが提案していた。いわゆる試作という状態だ。

「なるほど、まずは需要があるかを調べるんですね、兄上」
「ああ。とりあえず二冊で試してみてはどうだ? いきなり領内が心配なのであれば、自分たちや使用人たちの子に渡し、読んでもらって感想を募ってもいいんじゃないか?」
「そう、ですわね。まずは数冊作り、最初に読み聞かせでもいいと思いますの」
「いいんじゃないか? リンはどう思う?」
「いいと思います。もうひとつ思いついたことがありますけど、それは領地に行ってからお話しますね。準備もありますし」
「わかりました。楽しみにお待ちしておりますわ」

 穏やかな微笑みを浮かべ、カールさんと一緒に礼をするレイラさん。もうじき雨季の長期休暇があるから、それに合わせて領地に伺うことを約束。
『フライハイト』のメンバーでカールさんとレイラさんを歓迎する料理を作っていると、興味深そうに二人揃って眺め、領内で栽培している食材を見つけたあとはどんな料理になるのか質問攻めにされた。やっぱり自分の領地の食材で廃棄になっているものがあり、なんとかしたいとレイラさんが話す。
 その食材が豆類とキャベツだった。

「あー、そしたら、領地に行くときにレシピを書いて持っていきますね」
「ありがとうございます、お義姉様」

 パアッと顔を輝かせ、頬を上気させて笑みを浮かべるレイラさんに、真剣に領地のことを考えている領主なんだなあと思った。その姿は義父であるオイゲンさんや義弟のロメオさんに通じるものがあって、なんだか彼らを見ているようだ。
 カールさんとレイラさんに質問されつつ料理を作り、いざ晩ご飯。キャベツのことを聞いたから、簡単なものをとミルフィーユキャベツを作ってみた。
 これ、すっごく簡単なの。蒸したキャベツを鍋の底に敷き、その上にみじん切りした玉ねぎとスパイス、塩コショウしたものとひき肉を混ぜたものを交互に敷き詰め、コンソメを入れて煮るだけなのだ。日本にいたときはレンジでチンして作っていたけど、今いる世界にはオーブンはあってもレンジはないからね。だから鍋に入れて煮るしかない。
 ひき肉はカールさんたちの領地にもいるというボアとディアのお肉を使用。詳しい作り方は領地に行ってから教えると言うと喜んでくれた。
 で、今回は前もってひき肉にしていたボアとディアを使い、キャベツを先に蒸すのが面倒であれば、生のキャベツを底に敷いてもいいと話し、それはカールさんとレイラさんと一緒に作ってみたのだ。

「あら……これはいいですわね」
「そうだね。お肉の上に他の野菜を入れてもよさそうじゃない? そうすれば、子どもたちも食べてくれそうだね」
「ふふ、たしかに」

 お? さっそくアレンジを考え始めたレイラさんとカールさん。
 うんうん、自分の領地の食材だもの、どんどんアレンジを考えて領民に流してくれるといいよね。エアハルトさんもそう思ったらしく、二人にアドバイスをしていた。
 和やかに食事をし、お土産を持って帰ったお二人。いつ行くかなどの連絡はエアハルトさんからしてもらうことに。
 さて、私も母を筆頭に『アーミーズ』のメンバーに、絵本になりそうな話を聞かねば! と、母に連絡を取り、ヨシキさんたちに時間を作ってもらうことにした。

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