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死の森篇

ついかされたものでしゅ

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「降ってきたわね。間一髪だったわ~」
「そうだな。ボアもギャーギャー鳥もあるし、野菜と果物もある。当面は大丈夫だろう」
「そうね。バトラー、あとで布団を作るから、アルゴドンをちょうだい」
「わかった」

 不思議植物アルゴドンはバトラーさんが持っているとはいえ、そのほとんどはテトさんが持っている小ログハウスの中だ。キャシーさんにそう伝えると、「小屋を出しなさいよー!」とテトさんに詰め寄っていた。
 ほんと、愉快なオネェさんだ(笑)

「まあ、いいでしょう。スティーブが一緒となると、どのみち大きくしないといけないですしね」
「まあ、アリガトウ♡」
「気持ち悪いからヤメロ」

 ウィンクを決めてお礼を言ったキャシーさんに、すっごく嫌そうな顔をしながらもログハウスを出し、中に案内していったテトさん。なんだか野太くて黄色い叫び声が聞こえるけれど、キニシナーイ。
 テトさんが戻ってくる間に下拵えをして、ご飯の準備。スープはギャーギャー鳥の鳥ガラとネギなどの香味野菜などを使い、煮だしたものを使用。要は白湯パイタンにしたわけだ。
 なかなかいい匂いなんだけど、マジでテトさんは煮込んで作ったわけじゃなくて、錬金術とやらでパパっと魔法を使って作っていた。そのお時間、5秒。反則だよね!
 テトさんが指示していった通りに、スープの中に野菜やキノコを入れていく。あくとりをしていたらテトさんが戻ってきた。

「ステラ、ありがとう」
「どういたちまちて」

 代わると言ったテトさんにそのまま任せ、その間に私は焚火に薪をくべたり、人数分の食器を用意したりしているうちに、キャシーさんとバトラーさんが戻ってきた。

「おかえりなちゃい。おちゅかれしゃまれした」
「ありがとう、ステラ」
「うふふ、嬉しいわ~! ありがとうね、ステラちゃん」

 魔法で全身を乾かしたとはいえ、雨に濡れて冷えた体温は戻らない。二人から預かっていた毛布をそれぞれ手渡すと、そのまま焚火の傍に誘導。
 二人して薪となる倒木を乾燥からの薪サイズにパパっと風魔法でカットして、空いている場所に山積みにした。それが終わるとちょうどテトさんも料理が終わったらしく、お皿に盛りつけたものを渡してくれる。
 大人たちは食べる量が多いから複数に分かれているけれど、私のはワンプレート。しかも、相変わらずの気遣いで、私の口サイズにカットしてあるのが素晴らしい。
 スープは野菜とキノコがたっぷり入った白湯スープに、ギャーギャー鳥の胸肉を使ったソテー。チーズがたっぷりとかけられていて、とっても美味しそうな匂いがしている。
 あとはパンが三種類ほど。白パンとナッツが入ったもの、私が提供した真ん中にマーガリンが入っているぶどうパンだ。
 このぶどうパンはバトラーさんもテトさんもお気に入りらしく、一日に一回は食べたいとおねだりされる。キャシーさんも気に入ってくれたようで、美味しそうに頬張っている。
 ……スキンヘッドでオネェ属性の濃い~オッサンが頬を染めてパンを食ってるんだぜ? 視界の暴力に耐えるのが大変だったとも。
 そんなこんなでお昼ご飯も食べ終わると、私はお眠の時間です。ぐー。

 ふと目を覚ましたら、バトラーさんのもふもふに埋もれていた。

<起きたか>
「あい。ろうしてバトラーしゃんにうもれているでしゅか?」
<寒そうに丸まっていたからな>
「にゃるほろー」

 確かに、以前雨が降っている時よりも寒く感じていたものね。納得した!
 他の人はどうしているのか聞くと、テトさんとキャシーさんはログハウスのほうにいるという。テトさんは増室というか増築していて、キャシーさんはバトラーさんから預かったものとベッドにしている不思議植物を使い、布団やクッションを作っているんだそうな。
 蜘蛛種だからこそ自前の糸を使って布にしているんだって。しかも神獣の糸だからちょっとやそっとじゃ破れないし、汚れもつかない保温も断熱も完璧。
 なんという性能か……! オネェさんじゃなければ完璧なのに……!
 言ったら拗ねられそうだから言わないけど。
 ゴロゴロしてるのもなんだし、テトさんもいないからと、なにか作ることにした。自分のマジックバッグに手を突っ込んでウィンドウを表示させ、何があるのか確認してみる。

「あるぇ? しょくじゃいがまたふえてる……?」

 画面にはNEWと書かれたアイコンがあった。きっとバステト様からだろうと思ってアイコンをタップすると、ずらっと一覧が現れる。
 中身は主にスパイスとハーブ、冬用の服や靴だ。服は帽子と手袋、マフラーに加えて、雨や雪でも大丈夫なようにブーツもある。

「おおお~」
<どうした、ステラ>
「ばしゅてとしゃまから、ちゅいかでいろいろもらったでしゅ!」
<そうか。その中には冬用の衣類はあるか?>
「あい! ふくらけじゃなくて、ブーツもありましゅよ!」
<なら、あとで着替えるがいい。森の中と違って、気温が下がっているからな>
「あい!」

 スカートだけじゃなくてズボンもあるし、コートも増えている。室内用なのか、カーディガンもあった。
 いろいろ選ぶのが今から楽しみ!
 そしてスパイスやハーブだけど、日本にいた時と変わらないラインナップだ。しかも、どさくさに紛れてカレールゥがある。
 野菜は私が持っているものだけじゃなくバトラーさんやテトさんが持っているものもあるし、重複しているものある。野菜自体はあるから、あとは肉だけだ。
 さすがに肉はないからね、私のマジックバッグの中には。せいぜいベーコンとハム、ソーセージなどの加工食品しかない。
 つーかね、絶対にこの世界にカレールゥなんてないでしょ! たぶん、カレーの配合がとても面倒なのを知っているからこそ、ルゥを入れてくれた気がする。どうせ日付が変われば、中身は補充されるんだから、使わない手はない。
 そうと決まれば、さっそく料理しよう。
 もちろん、晩ご飯はカレーだよ!

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