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死の森篇
がいこちゅにあったでしゅ
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翌朝。雨が上がって空気がひんやりしている。
バトラーさんにおはようと告げて洞窟の外を見ると、霧が凄かった。おお~、これは凄い! 洞窟の途中まで入ってきてるよ!
火を熾してくれたバトラーさんにお礼を言い、昨日の残りのスープとパンで朝ご飯にすると、竈を崩したり残った薪をしまったり、焚火の跡を綺麗に片付けてくれるバトラーさんに感謝する。
もちろん、あの不思議植物も持っていくのだ!
「ステラ、寒いから上着を着ていなさい」
「あい」
バトラーさんが帽子付きでマント風の外套を羽織りながら、私に注意を促してくれる。さて、何を着ようか。茶トラ模様のふわもこな外套があったのでそれにする。
私が着たらそのまま洞窟から出て、私を抱き上げると歩き始めるバトラーさん。霧で見えないはずなのに、迷うことなく北に向かっているのが凄い。
これもスキルのおかげなんだろう。
森の中に入ってすぐ、バトラーさんが私を地面に下ろす。
「ステラ、これが雨降りのあとにしか生えない薬草だ」
「おお……」
「雨後草という」
まんまな名前でした! 透明感のある緑色の葉っぱに、小さくて白い花が纏まって花束のような形になっていて、それが枝分かれしたひとつの株にいくつも咲いている。
見た目はナズナ――ぺんぺん草みたいな感じの集まり方をしている花なのだ。白の他にも赤と黄色もあって、なかなかカラフル。
白は傷、赤は毒、黄色は麻痺を治す液体薬に使う材料なんだとか。根っこさえ残っていればまた生えてくるそうなので、群生している三分の一を残し、根元から採取することに。
早くも種ができているものもあって、凄いなあと思いながら採取している。
「バトラーしゃん、たねはどうしたらいいでしゅか?」
「ふむ……。これに入れておこうか。薬師に売ると重宝されるし」
近くにあった笹の葉のようなもので容器を作り、その中に種を入れるバトラーさん。さすがに私の手だと小さすぎて容器が持てなかったんだよ。
そのままバトラーさんが預かってくれるというのでお願いし、抱き上げられて歩く。途中にあったなめこのようなぬめりがあるキノコや、真っ白いしめじのようなキノコなど、雨後に出てくるキノコを教えてもらいながら採取した。
雨降りのあとだからそれなりに魔物が動いているみたいだけれど、食事に夢中なのか襲ってくることはない。襲われない限りはバトラーさんも魔物を狩るようなことはしないから、そのまま放置しているみたい。
そうこうするうちに霧も晴れ、視界が良好になっていく。雨上がりの朝露に濡れた木々はとても綺麗で、顔を出した日の光を反射してキラキラと輝いている。
「きれい……」
「そうだな。雨上がりにしか見れない光景だ。ステラもこの世界を気に入ってくれるといいが……」
「まだもりらけれしゅが、きにいりまちたよ? まらこわいこともありまちゅけろ」
「そうか……。まだステラは幼子だからな。怖いのは仕方がないさ」
サクサク歩くバトラーさんにしがみつき、景色を眺めながら話をする私たち。採取をしながらとはいえかなり歩いたからか、そろそろお昼近くになっていた。
すぐに開けた場所を見つけたバトラーさんが焚火をして、肉を切って味付けし、串に刺して焼いてくれる。おお、バトラーさんも料理できるんだ! と失礼なことを考えていたら、「簡単なものならばな」と笑った。
串焼きをしている間に乾燥させてある野菜と採取したキノコ、干し肉という塩漬けした肉を使ってスープも作ったバトラーさん。味付けはほとんどしていないのに、塩漬け肉のいい出汁が出ていて美味しい!
野菜もしっかり味があるし、キノコもこんにゃくのようなくにゅっとした食感が面白い。さすがに幼児の歯では硬い黒パンは食べられなかったので、ロールパンを出して食べた。
ご飯を食べたあとは紅茶を出してお腹を休め、出発するころにはお眠タイム。頑張って起きていたかったんだけれど、バトラーさんの背中ポンポン攻撃には勝てず、そのまま眠りに落ちた。
目が覚めたら、ダークグリーン色のフードを被った黒い骸骨が目の前にいて驚く。そして目は赤く光っている。
「ぴょっ!?」
<おや。起きてしまいましたか>
が い こ つ が し ゃ べ っ て い る ん だ が !
よっぽど目を真ん丸にしていたのが面白かったんだろう。黒い骸骨が恐る恐る手を伸ばし、頭を撫でてくれる。
その手つきがとても優しくて、ついにやけてしまう。骸骨ではあるが、全く怖さを感じない、不思議な骸骨なのだ。
それに声も優し気で、なんだか落ち着く。なんというか、バトラーさんに似た雰囲気のある骸骨だ。
<……本当に怖がりませんね>
「だから言ったであろう? ステラは怖がらないと」
私が寝ている間に、いったい何があったのかな⁉ バトラーさん、説明プリーズ!
<ふふ。僕はテト。バステト様の神獣なんですよ>
「ばしゅてとしゃまの?」
<ええ。君のお名前は?>
「あっ、しゅみましぇん! ステラでしゅ。よろしくでしゅ」
<はい、よろしく>
まさかの、バステト様の神獣でござった! 骸骨の神獣なんて新しいな、おい!
そんなテトさんは表情筋があるわけじゃないのに、穏やかな笑みを浮かべるイメージが湧く。なんだか、周囲に花やハートを飛ばしてないか?
てか、改めてテトさんをじっくり眺める。フードの淵は銀糸で刺繍がしてあり、それが襟ぐりまで来ている。そして袖口にも刺繍がしてあった。
他には黒い糸で布全体に刺繍がしてあって、その模様がなんだか魔法陣というかそういう感じの模様に見えるのが不思議だ。
そして手に持っているのは大鎌。刃は光の加減で赤にも黒にも見え、持ち手は銀色だ。ただ、持ち手には装飾が施されているし、大鎌の刃の根元っていうのかな? 持ち手に繋がっているところには、蒼い玉がついている。
きっと凄いものなんだろうというのが想像できた。
そんな観察をしている間にバトラーさんとテトさんが話し合いをしていたんだけど、結局私たちと一緒に来ることになった、らしい。
「いっしょれしゅか?」
<うん。嫌、かな>
「しょんなことないれしゅよ! けろ、しんじゅうがもりをれてもいいんれしゅか?」
<問題ないですよ。森に籠っているのも飽きたし、ステラやバトラーと一緒に旅をするのも楽しそうだしね>
「なら、その外見をなんとかしろ。できんわけじゃなかろうに」
ん? 骸骨以外にも姿を変えられるの?
なーんて思ったらテトさんの体が光り、消えた時には大鎌を持ったイケ渋なおじさまがいた。銀髪で目は青とも緑ともとれる色で、私の片目と一緒だった。
見た目の年齢は、四十代前半、ってとこか。
「うーーん、久しぶりだから、おっさんの姿になってしまったなあ……」
「自分でおっさん言うな、テト。で、さっきも言ったが、我とステラは兄妹として生活するつもりなんだ。お前はどうするんだ? 森を抜けるまでか?」
「そんなわけないでしょう? ずっと二人といますよ。そうですね……もう少し若いほうがいいかな?」
そんなことを言いながら、テトさんの姿が若返っていく。見た目はバトラーさんと同じ、十代後半か二十代前半くらいかな? 髪の色は違うけど、面立ちは私たちとよく似ている。
あれか、バステト様からお名前をいただいた関係でそうなるのか? 色彩が違うだけで、バトラーさんもテトさんもそっくりなんだもん! 双子と言っても通用するぞ、これ。
目も、私が二人から片っぽずつ受け継いでいるみたいに見えるから、兄妹ですって言っても違和感がない。
おい、違和感。仕事しろ!
「よし、これでいいね。兄妹のほうがいいでしょう?」
「……まあ、そうだな。我もステラもそうだが、テトとステラも同じ色を持っているし」
「でしょう? ってことで、ステラ。お兄ちゃんって呼んでね♪」
「テトにいしゃま?」
「…………イイ! けしからん、もっとやれ!」
「……」
兄様と呼べなくてにいしゃまになってしまったが、テトさんはお構いなしだったようで……。小さくガッツポーズをしながら喜んでいる姿を、生温い視線で見つめていた。
バトラーさんにおはようと告げて洞窟の外を見ると、霧が凄かった。おお~、これは凄い! 洞窟の途中まで入ってきてるよ!
火を熾してくれたバトラーさんにお礼を言い、昨日の残りのスープとパンで朝ご飯にすると、竈を崩したり残った薪をしまったり、焚火の跡を綺麗に片付けてくれるバトラーさんに感謝する。
もちろん、あの不思議植物も持っていくのだ!
「ステラ、寒いから上着を着ていなさい」
「あい」
バトラーさんが帽子付きでマント風の外套を羽織りながら、私に注意を促してくれる。さて、何を着ようか。茶トラ模様のふわもこな外套があったのでそれにする。
私が着たらそのまま洞窟から出て、私を抱き上げると歩き始めるバトラーさん。霧で見えないはずなのに、迷うことなく北に向かっているのが凄い。
これもスキルのおかげなんだろう。
森の中に入ってすぐ、バトラーさんが私を地面に下ろす。
「ステラ、これが雨降りのあとにしか生えない薬草だ」
「おお……」
「雨後草という」
まんまな名前でした! 透明感のある緑色の葉っぱに、小さくて白い花が纏まって花束のような形になっていて、それが枝分かれしたひとつの株にいくつも咲いている。
見た目はナズナ――ぺんぺん草みたいな感じの集まり方をしている花なのだ。白の他にも赤と黄色もあって、なかなかカラフル。
白は傷、赤は毒、黄色は麻痺を治す液体薬に使う材料なんだとか。根っこさえ残っていればまた生えてくるそうなので、群生している三分の一を残し、根元から採取することに。
早くも種ができているものもあって、凄いなあと思いながら採取している。
「バトラーしゃん、たねはどうしたらいいでしゅか?」
「ふむ……。これに入れておこうか。薬師に売ると重宝されるし」
近くにあった笹の葉のようなもので容器を作り、その中に種を入れるバトラーさん。さすがに私の手だと小さすぎて容器が持てなかったんだよ。
そのままバトラーさんが預かってくれるというのでお願いし、抱き上げられて歩く。途中にあったなめこのようなぬめりがあるキノコや、真っ白いしめじのようなキノコなど、雨後に出てくるキノコを教えてもらいながら採取した。
雨降りのあとだからそれなりに魔物が動いているみたいだけれど、食事に夢中なのか襲ってくることはない。襲われない限りはバトラーさんも魔物を狩るようなことはしないから、そのまま放置しているみたい。
そうこうするうちに霧も晴れ、視界が良好になっていく。雨上がりの朝露に濡れた木々はとても綺麗で、顔を出した日の光を反射してキラキラと輝いている。
「きれい……」
「そうだな。雨上がりにしか見れない光景だ。ステラもこの世界を気に入ってくれるといいが……」
「まだもりらけれしゅが、きにいりまちたよ? まらこわいこともありまちゅけろ」
「そうか……。まだステラは幼子だからな。怖いのは仕方がないさ」
サクサク歩くバトラーさんにしがみつき、景色を眺めながら話をする私たち。採取をしながらとはいえかなり歩いたからか、そろそろお昼近くになっていた。
すぐに開けた場所を見つけたバトラーさんが焚火をして、肉を切って味付けし、串に刺して焼いてくれる。おお、バトラーさんも料理できるんだ! と失礼なことを考えていたら、「簡単なものならばな」と笑った。
串焼きをしている間に乾燥させてある野菜と採取したキノコ、干し肉という塩漬けした肉を使ってスープも作ったバトラーさん。味付けはほとんどしていないのに、塩漬け肉のいい出汁が出ていて美味しい!
野菜もしっかり味があるし、キノコもこんにゃくのようなくにゅっとした食感が面白い。さすがに幼児の歯では硬い黒パンは食べられなかったので、ロールパンを出して食べた。
ご飯を食べたあとは紅茶を出してお腹を休め、出発するころにはお眠タイム。頑張って起きていたかったんだけれど、バトラーさんの背中ポンポン攻撃には勝てず、そのまま眠りに落ちた。
目が覚めたら、ダークグリーン色のフードを被った黒い骸骨が目の前にいて驚く。そして目は赤く光っている。
「ぴょっ!?」
<おや。起きてしまいましたか>
が い こ つ が し ゃ べ っ て い る ん だ が !
よっぽど目を真ん丸にしていたのが面白かったんだろう。黒い骸骨が恐る恐る手を伸ばし、頭を撫でてくれる。
その手つきがとても優しくて、ついにやけてしまう。骸骨ではあるが、全く怖さを感じない、不思議な骸骨なのだ。
それに声も優し気で、なんだか落ち着く。なんというか、バトラーさんに似た雰囲気のある骸骨だ。
<……本当に怖がりませんね>
「だから言ったであろう? ステラは怖がらないと」
私が寝ている間に、いったい何があったのかな⁉ バトラーさん、説明プリーズ!
<ふふ。僕はテト。バステト様の神獣なんですよ>
「ばしゅてとしゃまの?」
<ええ。君のお名前は?>
「あっ、しゅみましぇん! ステラでしゅ。よろしくでしゅ」
<はい、よろしく>
まさかの、バステト様の神獣でござった! 骸骨の神獣なんて新しいな、おい!
そんなテトさんは表情筋があるわけじゃないのに、穏やかな笑みを浮かべるイメージが湧く。なんだか、周囲に花やハートを飛ばしてないか?
てか、改めてテトさんをじっくり眺める。フードの淵は銀糸で刺繍がしてあり、それが襟ぐりまで来ている。そして袖口にも刺繍がしてあった。
他には黒い糸で布全体に刺繍がしてあって、その模様がなんだか魔法陣というかそういう感じの模様に見えるのが不思議だ。
そして手に持っているのは大鎌。刃は光の加減で赤にも黒にも見え、持ち手は銀色だ。ただ、持ち手には装飾が施されているし、大鎌の刃の根元っていうのかな? 持ち手に繋がっているところには、蒼い玉がついている。
きっと凄いものなんだろうというのが想像できた。
そんな観察をしている間にバトラーさんとテトさんが話し合いをしていたんだけど、結局私たちと一緒に来ることになった、らしい。
「いっしょれしゅか?」
<うん。嫌、かな>
「しょんなことないれしゅよ! けろ、しんじゅうがもりをれてもいいんれしゅか?」
<問題ないですよ。森に籠っているのも飽きたし、ステラやバトラーと一緒に旅をするのも楽しそうだしね>
「なら、その外見をなんとかしろ。できんわけじゃなかろうに」
ん? 骸骨以外にも姿を変えられるの?
なーんて思ったらテトさんの体が光り、消えた時には大鎌を持ったイケ渋なおじさまがいた。銀髪で目は青とも緑ともとれる色で、私の片目と一緒だった。
見た目の年齢は、四十代前半、ってとこか。
「うーーん、久しぶりだから、おっさんの姿になってしまったなあ……」
「自分でおっさん言うな、テト。で、さっきも言ったが、我とステラは兄妹として生活するつもりなんだ。お前はどうするんだ? 森を抜けるまでか?」
「そんなわけないでしょう? ずっと二人といますよ。そうですね……もう少し若いほうがいいかな?」
そんなことを言いながら、テトさんの姿が若返っていく。見た目はバトラーさんと同じ、十代後半か二十代前半くらいかな? 髪の色は違うけど、面立ちは私たちとよく似ている。
あれか、バステト様からお名前をいただいた関係でそうなるのか? 色彩が違うだけで、バトラーさんもテトさんもそっくりなんだもん! 双子と言っても通用するぞ、これ。
目も、私が二人から片っぽずつ受け継いでいるみたいに見えるから、兄妹ですって言っても違和感がない。
おい、違和感。仕事しろ!
「よし、これでいいね。兄妹のほうがいいでしょう?」
「……まあ、そうだな。我もステラもそうだが、テトとステラも同じ色を持っているし」
「でしょう? ってことで、ステラ。お兄ちゃんって呼んでね♪」
「テトにいしゃま?」
「…………イイ! けしからん、もっとやれ!」
「……」
兄様と呼べなくてにいしゃまになってしまったが、テトさんはお構いなしだったようで……。小さくガッツポーズをしながら喜んでいる姿を、生温い視線で見つめていた。
応援ありがとうございます!
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