上 下
34 / 78
【本編】 原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!

第34話

しおりを挟む
 メイドに教えて貰ったノートを読んで、ロザリンドは前世の記憶を思い出すというより新たに覚えることを、この1週間毎朝繰り返していた。


 ノートの書き出しはこうだ。『おはようロザリンド!』


『仮面祭りの夜に、オスカーをラグー通りのホテルバーモントの裏口まで迎えに行ってください。
 時間は20~21時、絶対に遅れないこと!
 遅れたらオスカーはミシェルのモノになるから!
 オスカーは兄のダンカンに媚薬を盛られているので、いつもと様子が違うけれど、驚かないで。
 苦しんでるオスカーを助けられるのは貴女だけです!
 ミシェルが出来たんだからロザリンドなら出来るよ!
 がんばってね!ファイトです!
 
 オスカーを馬車に乗せたら、ダンカンには関わらないで直ぐに帰ること。
 ダンカンの事は後日オスカーとお父様とで解決して貰うこと。
 このページは祭りの翌日にでも燃やしてしまうことを、おすすめします。

*オスカーは金髪でフクロウの仮面をつけています
 オスカーとお幸せにね
                        ホナミより』



 そして、ロザリンドは自分がホナミだったと思い出す。

 がんばってね!ファイトです!
 ……なんて、ずいぶんテンション高めに簡単に書いてくれたな、私。


 ここ2、3日のオスカーは見るからに精神的にキテる感じだ。
 ロザリンドが推察した通り、彼も転生者なら。
 メインイベントの仮面祭りでダンカンと会うから緊張しているのだろうか、お決まりの穏やかな微笑みを見せることなく言葉も少ない。


 昨日などは胃の辺りを何度も擦っていた。
 神経性胃炎という言葉がないこの世界でも、あれこれ考えて気遣いして、思い悩むと胃が痛み出す事は知られていた。


 何だか『オスカーって、こんな人だったっけ?』と、思う。
 今のロザリンドは記憶がなくなり始めているので、理想の男として条件を並べたオスカーと比べているのではなかった。
 今までの、普段の、義兄のオスカーと印象が違うのだ。


 年齢の割りに落ち着いて、物事を処理して行き。
 優しく丁寧だけれど、心中をこちらに見せることはない。
 頭脳明晰、沈着冷静、泰然自若……彼は周囲からそんな言葉で形容されていた。
 まだ17歳だとは思えない自慢の義兄オスカー・オブライエン・コルテス。
 ……だったのに。


 そうではない姿を見せられて嫌になったのではない。
 むしろ、何だか年齢相応だと安心して微笑ましいのだ。
 自分と同じ様に彼もまた記憶がなくなり始めているから、この夜を無事に乗りきれるか不安になっているのだと思い、それを上手く隠せないオスカーが愛おしい。

 せめて、媚薬を飲ませられないようにダンカンには注意して、と言いたいけれど……
 媚薬だと判明するのは、第2章からだ。
 だから今のオスカーは、それと知らない。


 ダンカンから勧められた強い酒のせいで不測の事態になったのだとオスカーは自分を責めた。
 自分が酔っていたから、ミシェルにそういう関係を強いたのかもしれない、と素直に彼女に接することが出来ない内にミシェルと王太子アーノルドは付き合い始めてしまう……


 朝食の席で、今朝も食が進んでいないオスカーに目が吸い寄せられて何度も見てしまった。
 彼もまたロザリンドを見ていたのか、何度も目が合った。


「ロージー」


 朝食後、私室に戻りもう一度ノートのおさらいをしようとしたロザリンドにオスカーが声をかけてきた。


「何も予定がないのなら、明るい内だけになるけれど祭りを見に行かないか?」

「……お義兄様と?」

「18時にグレンと約束しているから、それまでで良ければなんだけれど……
 ふたりで……ダメかな?」


 オスカーらしくない自信が無さげな物言いなのに。
 ロザリンドは胸がキュンキュンした。
 ファーストデートを申し込まれるときめきを初めて知った。
 婚約者だったウェズリーとは何度もふたりで出掛けたが、それは予め決められた『婚約者とのお出かけ』であり、『デート』と認識していなかった。


「喜んで、ご一緒します」

 嬉しすぎて、抱きつきたいのを我慢して。
 令嬢らしく、慎ましやかに返事する。

 (がっつくな、ロザリンド!)


「ありがとうロージー。
 昼食は要らないと、義母上には俺から伝えておくから。
 ゆっくりで良いから出かける準備をしておいで。
 祭りは逃げないから、慌てなくてもいいからね」


 祭りは逃げないけれど、貴方が逃げないように。
 ロザリンドはメイドに声をかけて、急いで部屋へ向かった。
『市井の人達から浮くことなく、それでいて可愛くて』
 脳内で手持ちのワードローブを並べてみる。


 想定外のオスカーとのデートイベントだった。
 急に与えられたチャンスだ。
 失敗はしたくない。

 祭りは逃げないけれど……貴方が逃げないように。
 
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨ 〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷

虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

愛されない王妃は、お飾りでいたい

夕立悠理
恋愛
──私が君を愛することは、ない。  クロアには前世の記憶がある。前世の記憶によると、ここはロマンス小説の世界でクロアは悪役令嬢だった。けれど、クロアが敗戦国の王に嫁がされたことにより、物語は終わった。  そして迎えた初夜。夫はクロアを愛せず、抱くつもりもないといった。 「イエーイ、これで自由の身だわ!!!」  クロアが喜びながらスローライフを送っていると、なんだか、夫の態度が急変し──!? 「初夜にいった言葉を忘れたんですか!?」

虐げられ令嬢の最後のチャンス〜今度こそ幸せになりたい

みおな
恋愛
 何度生まれ変わっても、私の未来には死しかない。  死んで異世界転生したら、旦那に虐げられる侯爵夫人だった。  死んだ後、再び転生を果たしたら、今度は親に虐げられる伯爵令嬢だった。  三度目は、婚約者に婚約破棄された挙句に国外追放され夜盗に殺される公爵令嬢。  四度目は、聖女だと偽ったと冤罪をかけられ処刑される平民。  さすがにもう許せないと神様に猛抗議しました。  こんな結末しかない転生なら、もう転生しなくていいとまで言いました。  こんな転生なら、いっそ亀の方が何倍もいいくらいです。  私の怒りに、神様は言いました。 次こそは誰にも虐げられない未来を、とー

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

【完結】ふしだらな母親の娘は、私なのでしょうか?

イチモンジ・ルル
恋愛
奪われ続けた少女に届いた未知の熱が、すべてを変える―― 「ふしだら」と汚名を着せられた母。 その罪を背負わされ、虐げられてきた少女ノンナ。幼い頃から政略結婚に縛られ、美貌も才能も奪われ、父の愛すら失った彼女。だが、ある日奪われた魔法の力を取り戻し、信じられる仲間と共に立ち上がる。 歪められた世界で、隠された真実を暴き、奪われた人生を新たな未来に変えていく。 ――これは、過去の呪縛に立ち向かい、愛と希望を掴み、自らの手で未来を切り開く少女の戦いと成長の物語―― 旧タイトル ふしだらと言われた母親の娘は、実は私ではありません 他サイトにも投稿。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

処理中です...