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【本編】 原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!

第33話

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 ミカミだったオスカーは誕生した夜に一度抱いて貰っただけの父親が、自分に保護魔法を施したカーネル・オルコットだと思い込んでいた。
 前世で原作者のホナミと打合せを完了していた『乙花』の第2章序盤までは、そうなっていたからだ。


 だから中等部で父親(と思い込んでいる) オルコット長官の息子のグレンジャーに自分から近づいて友人になった。
 彼に招かれて紹介された時は、ホナミが決めていた性格より明るい人柄に引かれたが、やはり父は初対面のような振りをした。


 それが寂しくないと言えば嘘になるが、要らないことを口にして、上手くいっている彼等義理の親子の間に波風をたてるつもりもなかった。
 何より彼はミカミだったから。
 オスカーの出生の秘密を、自ら暴き立てる様な真似はしない。
 ホナミが決めたストーリー上の時が経てば、なるようになるだけ。


 グレンジャーに合わせて彼の義父を『親父殿』と呼ぶだけで充分だと思おうとしていた。
 自分を産んだ女性の正体も調べることはしない。
 コルテス侯爵夫妻を親として大切にしていこう。
 なるようになるだけ……彼はそう決めていた。


 オスカーはまだ真実を知らなかった。 
 母親がカーネル・オルコットの妹だとは。
 父親が前国王陛下だったとは。



 間もなく成人の18歳となるオスカー本人が関知しないところで、自分の存在が周囲をざわつかせ始めたことも。
 義妹を守るためとは言え、ランドール王子殿下に暴行を加えながら、何のお咎めも下されなかったのには、そうなる理由があったからということも。


 またこれから先、アーノルド王太子殿下が自分に絡んでくるのは国王陛下がオスカーを王弟だと認めて王位継承権2位に浮上するせい、とは想像もしていなかった。 
 王太子の異母弟のランドールがアラカーンへ送られたので、王弟オスカーがアビゲイルの父グレンフォール公爵を始めとする王太子派貴族達の警戒すべき相手、となってしまうのだ。


 第2章に向けてストーリーは始まりかけているのに、まだオスカーは気付いていない。


 何故なら、それはホナミが構想していただけでミカミには話していない展開だったから……
 オスカーは知らなかったのだ。


 ◇◇◇


 とうとう仮面祭りの朝が来た。

 起こしに来てくれたメイドがロザリンドに今朝も彼女から頼まれた言葉を、起こしたばかりの彼女に言う。


「お嬢様、ノートをご覧くださいませ」

 すると自分が頼んできた癖に、このお嬢様は言われた意味がわからないと言いたげな顔をする。
 なので次いで、またこれもお嬢様に頼まれているセリフをメイドは口にした。


「ノートはデスクの一番上の引き出しの奧にございます」


 本当にお嬢様はどうされたのだろうと思う。
 2週間前にメイドはロザリンドから金貨を1枚渡されて頼まれた。


「明日の朝から祭りの朝まで、毎朝私に『ノートを見ること』を教えて欲しいの」

「ノートを見ること、ですか?」

「そうよ、そう言われて私が直ぐに頷いたらそれでいいんだけど、もしかしたら貴女からノートの事を言われても意味がわからない素振りをするようになるかも知れないの」

「私がお嬢様から頼まれたことを申し上げて、それをお聞きになったお嬢様は意味がわからない……」

「深く考えないで。
 もしわからない顔を私がしたら、だから」


 そう言ってロザリンドはノートの位置を言うのよ、と彼女にその次のセリフを教えたのだった。
 金貨1枚はメイドからしたら、御礼のチップとして破格の額だ。
 祭りの日まで2週間毎朝、起こしたお嬢様にそのセリフを言うだけだ。
 勿論、金貨には『誰にも言ってはならない』の口止めが含まれていることもわかっている。 


 深く考えないで、と言われたから考えない。
 こんなに楽なお願いならいくらだって繰り返せるし、そのノートに何が書かれているのかなんて、余計な好奇心は持たない。
 最近の若様とお嬢様のご様子がおかしいことは使用人の誰もが気付いているが、誰もがそれを口にしない。
 それがコルテス侯爵家に雇われ続けたいのなら守るルールだから。



 お嬢様が首から下げていた細いシルバーチェーンの小さな鍵を握りしめたのを確認して。
 メイドは一旦、ロザリンドの部屋をそっと出た。
 自分が朝のお茶のワゴンを取りに行く間に。
 お嬢様がノートをゆっくり読めるように。

 
 今朝で完了した、とても割りのいい頼まれ事だった。
 明日からもお嬢様は何か申し付けてくれないかな、とメイドの足取りは軽かった。
 
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