年上幼馴染の一途な執着愛

青花美来

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第一章

初詣

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数十分後。
私はお兄ちゃんと日向に挟まれながら、近所にある神社までの道を歩いていた。
雪が積もっているからか、道もツルツルでなくて助かった。
ただ風が強くて気温はとても低い。


「寒くね?」

「寒い。けど私は二人が風除けになってくれてるからそこまででもないよ」

「うわ、ずる」


背の高い二人の隣にいると良い具合に横からの風が当たらない。
とは言っても、正面から吹く風には対処の仕様がないのだけれど。


「日向、お前マフラーは?」

「忘れた」

「馬鹿じゃねぇの」

「うっせ。そういう星夜はこんな寒さ慣れてるはずなのになんで一番厚着してんだよ」

「いいだろ、俺は寒がりなんだよ」


二人で軽口を言い合っているのを聞きながら歩くこと十分ほど。
見えてきた鳥居と、同じく初詣に来たであろうたくさんの人たち。
地元で一番大きい神社に着いた。

甘酒の香りがふわりと漂い、厳かな空気に無意識に背筋が伸びる。


「すごい、お着物着てる人もいる」

「新年早々着付けしてくるなんてすげぇよな」

「大変だけど綺麗だよね」


私たちの目の前を通る、綺麗な着物姿の女性。
素敵だなあと思いながら見つめていると、


「おら、置いてくぞ」


日向に声をかけられて視線が戻る。


「ごめん、今行く」


駆け足で二人に追いつくと、参拝の列に並んだ。


「お兄ちゃんは何お願いするの?」

「あー……まだ決めてない」

「え? もう後三組くらいで私たちの番だけど!?」


まだ決まっていないと言うお兄ちゃんに驚くけれど、その表情を見るに、多分考えるのが面倒なんだろうなと思ってしまう。


「まぁ適当に願っとくよ。そういうユウは? 何願うんだよ」

「……私はもう決まってるけど、お兄ちゃんには教えてあげない」

「んだよそれ、じゃあ誰になら教えるんだよ」

「さぁ誰でしょう?」

「くっそ腹立つ言い方だな」

「ははっ」


子どもみたいに騒ぐお兄ちゃんをからかって遊んでいると、反対側から日向が小さく笑う。


「二人とも、そろそろ順番だから賽銭用意しとけよ」

「はーい」

「日向は何お願いすんの?」

「俺? 俺は……決めてるけど、星夜には教えてやんね」

「お前もか! 腹立つ!」


ニヤッとした日向も加わり二人でお兄ちゃんをいじり倒しながらわいわいやっているうちに順番が来て、お賽銭を入れてからお参りした。


"今年こそ、幸せになれますように"

"家族が元気に健康に過ごせますように"

"お兄ちゃんが彼女さんと無事に結婚できますように"


そんな、ありきたりなことを願いつつも。


"日向と、これからもずっと仲良くやっていけますように"


そんなことも願った。

お参りを終えるとおみくじを引きに行った。


「あ、大吉だ」

「俺も」

「俺は末吉。微妙だな」


大吉と書かれたおみくじ。どうやら日向も大吉だったらしい。

その恋愛の欄を見てみると、

"そばにいる人を大切に"

と書かれていた。

そばにいる人、か。


「二人はいいこと書いてあったかー?」


お兄ちゃんの声に日向と顔を見合わせつつも、


「まぁ、ぼちぼち?」

「俺も。こんなもんかって感じ」

「なんだよつまんねぇなー」


適当に返事してから結びに行く。


「お参りもしたしおみくじも引いたし……そろそろ帰ろうか?」


もうやることないし、と思ってそう提案した時、お兄ちゃんのスマホが鳴った。


「お兄ちゃん、電話じゃない?」

「え、あ、ほんとだ。ちょっと待ってて」


画面を見た時の嬉しそうな顔。


「あれ、多分彼女さんだ」

「へぇ、よくわかったな」

「顔見たらわかるよ。デレデレじゃん」

「そうかあ?星夜はいつもあんな顔じゃね?よくわかんね」


日向にはあのデレデレ具合がよくわからないらしいけれど、私から見れば一目瞭然だ。
案の定、電話を終えたお兄ちゃんは


「悪い、彼女から呼び出された。先帰るわ」


とどこか嬉しそうに慌てた様子で走っていく。
私たちはポツンと取り残されてしまった。
なんとなく気まずい空気が流れてしまい、居た堪れない。


「……私たちも帰ろうか?」


と歩き出そうとした時。


「夕姫」


日向が急に私の腕を掴んで呼び止めた。


「どうしたの?」


見上げると、なんだか言いづらそうな、照れたような表情で私を見つめていて。


「……まだ、時間ある?」

「え? うん、あるけど……」

「どうせ出てきたし。まだ帰るには早いし。……ちょっと散歩しねぇ? つーか、そうしよ」


有無を言わさない言葉と共に、日向は私の腕を離す代わりに手を掴む。


「日向?」

「はぐれたら困るだろ」


そんなに人も多くないからはぐれないよ。
なんて言葉は、日向の真っ赤に染まった顔を見てしまったら、言えるわけもなかった。


お正月だからだろうか。久しぶりの地元だからだろうか。
いつもと違って空気が澄んでいるように感じるのはどうしてだろう。
私は日向に手を引かれたまま甘酒を貰いに行き、境内の中を散歩する。


「おいしいね」

「あぁ。寒いから身に沁みるな」


手は繋がれたままで、周りの空気は冷たいのに手だけが妙に温かい。
暑いくらいなのに手を離せないのは多分、日向が解けないようにギュッと握っているから。
特別何かを話すわけではない。昨日のことで気まずい気持ちが少なからずあるのも、変わらない。
だけど、この穏やかな時間はすごく心が和らぐ。


「ん?なんだ?」

「ううん。なんでもない」

「変なやつだな」


やっぱり私、日向といる時間、好きだなあ。



甘酒を飲み終わり、境内を抜けるとすぐに公園がある。
その中には大きな雪の塊が見えた。


「日向見て、雪だるまがある」

「おー、どっかの子どもが作ったのか」

「私たちも昔よく作ってたよね」

「だな。全身雪で真っ白にして。気合い入れて雪玉転がしてる間に雪に足埋まって長靴抜けなくなったりな」

「あったあった。雪合戦もしたよね。三人だとチーム分けできなくてよく喧嘩したっけ」


私たちは小さな頃からずっと三人で一緒にいた。

もちろんお互い他に友達がいたけれど、三人でいた時間が一番長かったと思う。
だから成長するにつれて、三人での時間が減っていったのは正直すごく寂しくて。
日向が都内の大学に進学して全然会えなくなった時も、寂しくて一人で泣いたっけ。


「懐かしいね」

「あぁ」


思えば、あの頃が一番楽しかったかもしれない。
そんなことを思いながら歩いている時、ふと日向が足を止めた。


「日向?」

「……昨夜のこと、怒ってるか?」

「え?」


まさかそんなことを聞かれると思っていなくて、言葉に詰まる。


「怒ってる?」


だけど、もう一度聞いてきた日向の目は真っ直ぐ私を射抜いてくる。


「……少し、だけ」


自分でもどうしてそう答えたのかはわからない。

もしかしたら、いきなりキスをされた仕返しのつもりだったのかもしれない。
怒ってるかと聞かれたら、別に怒ってはいない。
恥ずかしくて認めたくはないけど、嫌だったわけでもない。ただ、びっくりしただけなんだ。


「まぁ、そうだよな」

「……」

「……でも俺、謝らないから」

「え?」

「酔った勢いとかじゃないから。気の迷いとかじゃないから。それをわかってほしいから、謝らない。決めた」


それは、つまり。

あのキスは、日向の意志でしたということ?
日向が、私に、したくてキスをしたということ?

なんで?どうして?

わからなくて、日向をじっと見つめる。

すると、


「嫌だった?」


聞き方を変えたその質問に、私はびくりと反応した。

思わず逃げ出したくなるけれど、先読みしていたかのように手の握る力を強くした日向から逃れられない。


「夕姫、教えて」

「……」

「昨夜、嫌だった?」


嘘をついても、すぐに見透かされそうな視線。
それなら、恥ずかしくても答えるしかなくて。


「……嫌、じゃ……なかった」

「っ……」

「嫌じゃなかったよ。ただ、ちょっとびっくりしただけ。本当は怒ってもいない。……嘘ついて、ごめん」


謝ると、


「……ん。そっか。良かった」


へにゃり。
張り詰めていた糸が切れたかのように心底安心したような笑顔。

それを見て、私の胸はどくんと大きく高鳴った。
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