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1 小・中学校の同級生 芥川瀬奈《あくたがわせな》の話
3.小・中学校の同級生 芥川瀬奈《あくたがわせな》の話 ②
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そういえば、二見さんは母子家庭でした。
母一人、子一人ですよ。だから家のことなんかも、しなきゃいけなかったんじゃないですか。
二見さんが住んでいた家?
あの、二見さんの死体が見つかったドブ川沿いに建っている、二階建ての木造アパートの一階ですよ。
新聞記者なのに、そんなことも知らないんですか?
間違いありません。小学校低学年のときに、一度だけ遊びにいったことがありますから。
ええ。
そのときは、二見さんから誘ってきたんですよ。
「うちに来てよ。楽しいよ。遊びにおいでよ」
ってね。
まあ、まだ本当に小さいころの話ですから。
どんな感じの家だったかって?
いまもあるんだから、見にいけばいいじゃないですか。
当時のわたしの印象、ねえ。
もう二十年くらい前にいっただけだから、あまり覚えていませんけれど。
ええと。
うん、古くて、お世辞にも綺麗とは言えないアパートでした。
当時ですでに、築三十年くらい、だったかな? だからいまだと、もう築五十年かな。
うん、もうずいぶん昔に建てられたものだと思います。
中の部屋はみっつだったかな。
ドアを開けて家に入った瞬間に、ダイニングキッチンがあって。
キッチンからフスマを開けたら和室がふたつあって。2DKでしたね、あれは。
窓から室内に西日が射し込んでくるアパートだったんです。
タタミが焼けまくっていたことを、覚えています。
窓から外を覗いたら、ドブ川が流れていました。
二見さんの死体が見つかった、例のドブ川ですよ。
小さい蟹とか、汚い虫が、動き回っていた汚いドブでしたね。
あんなところに死体を落とされて……。
二見さん、最後はどんな表情だったんですかね。
パンツ一枚にされていたんでしょ? エグいですよねえ。怖い、怖い。
ああ、昔の話でしたね。
ええ、あのドブ川は当時も汚くて。
それで、二見さんの住んでいたアパートって扇風機しかなかったんですよ。
だから窓を開けないと暑いんだけれど、開けたら開けたでドブの臭いが部屋の中に漂ってくるっていう。
当時のわたし、二見さんのアパートに入ったとき、思わず鼻をつまんじゃいましたもんね。
臭い、臭い、汚いって、そんな言葉を繰り返したことを覚えています。
そう、家の中が散らかっていたんですよ。
食べ終わったコンビニのお弁当とか、カップラーメンのゴミなんかが、あっちこっちに散乱していて。
服や下着も、そのへんに脱ぎ散らかされていて。
だからわたし、それもあって、臭いって言ったんだと思います。
でもそうしたら二見さん、すっごく怒り出して、
「そんなに臭いと思うなら出ていけ、出ていけ!」
なんて叫んで、泣きながら、家の中の物を投げつけてきて、わたしを追い払うんですよ。
ひどいと思いません? 最初にわたしを、アパートまで遊びに来てって誘ったのは二見さんなのに。
そりゃあ、臭いって言っちゃったのは良くないですけれど。
でも、本当に臭かったんですよ。
そういえば、無口な二見さんがあんなに怒ったの、あれが最初で最後でしたね。
まあ、小学生のときでしたからね。怒るときだってあるでしょう。
そういえば二見さんが殺された現場って、あのアパートの前なんですよね? テレビで見ましたよ。
アパートの入り口で殴られてから、部屋の中に運び込まれて、それから服を脱がされて、切り取られた卒アルの写真を画鋲で貼られて、最後はドブ川に落とされた、って感じなんですよね?
うわあ、考えたら、本当に怖いですね。ゾクゾクしちゃう。
子供のころ、一度だけでも、遊んだところで殺人事件が起きるなんて。
この話、SNSでしてみようかな。話題になるじゃないですか、これ。
いえ、遊び半分じゃなくて。
ネットで話題にしたら、事件の真相に近付くかもと思って、やろうとしているんですよ。
わたしなりに、二見さんを殺した犯人を捕まえたいんだよね。だって、昔の友達なんだから!
うーん、けれど、犯人は見つかるかなあ。
二見さんのアパートって、昼間でも人がいないあたりだし。
夜になると本当に真っ暗で。近くに店もなにもない、街の外れですからね。
あれ、そういえば、二見さんのお母さんってどうなったんですか?
まだご健在なんですかね?
いない?
どうされたんですかね。
ええと、確かお母さん、二見さんとけっこう年が離れていたんですよ。
わたしが遊びにいったときは、仕事でいませんでしたけれど。
でも授業参観のときに一度か二度か、見たことがありますよ。
当時でもう、五十歳くらいだったと思います。だからお母さんっていうより、おばあちゃんみたいだなって思っていたんですけれど。
二見さんを遅く産んだんでしょうね。
高齢出産ですかね。
実際に自分が子供を産んでみて分かったけれど、出産も育児も、とにかく体力が要りますからね。二十代のわたしでもそうなんです。
だから二見さんのお母さん、きっと大変だっただろうな。
母子家庭だったみたいだから、余計にそう思います。
はい?
お母さんの話はどうでもいい?
なんでそんなこと言うんですか。
二見さんの殺人事件と、関係があるかもしれないでしょう。
あのね。
さっきからあんた、失礼じゃない?
こっちは育児で忙しい中、わざわざマスコミのあなたに時間を取ってあげてるんですけど?
そう、専業主婦だって決してヒマじゃないんだから。
やること、いっぱいあるんだから。
分かってんの!?
ほんっと……。
調子のんな!
口の利き方に気をつけろよ、マジで!
母一人、子一人ですよ。だから家のことなんかも、しなきゃいけなかったんじゃないですか。
二見さんが住んでいた家?
あの、二見さんの死体が見つかったドブ川沿いに建っている、二階建ての木造アパートの一階ですよ。
新聞記者なのに、そんなことも知らないんですか?
間違いありません。小学校低学年のときに、一度だけ遊びにいったことがありますから。
ええ。
そのときは、二見さんから誘ってきたんですよ。
「うちに来てよ。楽しいよ。遊びにおいでよ」
ってね。
まあ、まだ本当に小さいころの話ですから。
どんな感じの家だったかって?
いまもあるんだから、見にいけばいいじゃないですか。
当時のわたしの印象、ねえ。
もう二十年くらい前にいっただけだから、あまり覚えていませんけれど。
ええと。
うん、古くて、お世辞にも綺麗とは言えないアパートでした。
当時ですでに、築三十年くらい、だったかな? だからいまだと、もう築五十年かな。
うん、もうずいぶん昔に建てられたものだと思います。
中の部屋はみっつだったかな。
ドアを開けて家に入った瞬間に、ダイニングキッチンがあって。
キッチンからフスマを開けたら和室がふたつあって。2DKでしたね、あれは。
窓から室内に西日が射し込んでくるアパートだったんです。
タタミが焼けまくっていたことを、覚えています。
窓から外を覗いたら、ドブ川が流れていました。
二見さんの死体が見つかった、例のドブ川ですよ。
小さい蟹とか、汚い虫が、動き回っていた汚いドブでしたね。
あんなところに死体を落とされて……。
二見さん、最後はどんな表情だったんですかね。
パンツ一枚にされていたんでしょ? エグいですよねえ。怖い、怖い。
ああ、昔の話でしたね。
ええ、あのドブ川は当時も汚くて。
それで、二見さんの住んでいたアパートって扇風機しかなかったんですよ。
だから窓を開けないと暑いんだけれど、開けたら開けたでドブの臭いが部屋の中に漂ってくるっていう。
当時のわたし、二見さんのアパートに入ったとき、思わず鼻をつまんじゃいましたもんね。
臭い、臭い、汚いって、そんな言葉を繰り返したことを覚えています。
そう、家の中が散らかっていたんですよ。
食べ終わったコンビニのお弁当とか、カップラーメンのゴミなんかが、あっちこっちに散乱していて。
服や下着も、そのへんに脱ぎ散らかされていて。
だからわたし、それもあって、臭いって言ったんだと思います。
でもそうしたら二見さん、すっごく怒り出して、
「そんなに臭いと思うなら出ていけ、出ていけ!」
なんて叫んで、泣きながら、家の中の物を投げつけてきて、わたしを追い払うんですよ。
ひどいと思いません? 最初にわたしを、アパートまで遊びに来てって誘ったのは二見さんなのに。
そりゃあ、臭いって言っちゃったのは良くないですけれど。
でも、本当に臭かったんですよ。
そういえば、無口な二見さんがあんなに怒ったの、あれが最初で最後でしたね。
まあ、小学生のときでしたからね。怒るときだってあるでしょう。
そういえば二見さんが殺された現場って、あのアパートの前なんですよね? テレビで見ましたよ。
アパートの入り口で殴られてから、部屋の中に運び込まれて、それから服を脱がされて、切り取られた卒アルの写真を画鋲で貼られて、最後はドブ川に落とされた、って感じなんですよね?
うわあ、考えたら、本当に怖いですね。ゾクゾクしちゃう。
子供のころ、一度だけでも、遊んだところで殺人事件が起きるなんて。
この話、SNSでしてみようかな。話題になるじゃないですか、これ。
いえ、遊び半分じゃなくて。
ネットで話題にしたら、事件の真相に近付くかもと思って、やろうとしているんですよ。
わたしなりに、二見さんを殺した犯人を捕まえたいんだよね。だって、昔の友達なんだから!
うーん、けれど、犯人は見つかるかなあ。
二見さんのアパートって、昼間でも人がいないあたりだし。
夜になると本当に真っ暗で。近くに店もなにもない、街の外れですからね。
あれ、そういえば、二見さんのお母さんってどうなったんですか?
まだご健在なんですかね?
いない?
どうされたんですかね。
ええと、確かお母さん、二見さんとけっこう年が離れていたんですよ。
わたしが遊びにいったときは、仕事でいませんでしたけれど。
でも授業参観のときに一度か二度か、見たことがありますよ。
当時でもう、五十歳くらいだったと思います。だからお母さんっていうより、おばあちゃんみたいだなって思っていたんですけれど。
二見さんを遅く産んだんでしょうね。
高齢出産ですかね。
実際に自分が子供を産んでみて分かったけれど、出産も育児も、とにかく体力が要りますからね。二十代のわたしでもそうなんです。
だから二見さんのお母さん、きっと大変だっただろうな。
母子家庭だったみたいだから、余計にそう思います。
はい?
お母さんの話はどうでもいい?
なんでそんなこと言うんですか。
二見さんの殺人事件と、関係があるかもしれないでしょう。
あのね。
さっきからあんた、失礼じゃない?
こっちは育児で忙しい中、わざわざマスコミのあなたに時間を取ってあげてるんですけど?
そう、専業主婦だって決してヒマじゃないんだから。
やること、いっぱいあるんだから。
分かってんの!?
ほんっと……。
調子のんな!
口の利き方に気をつけろよ、マジで!
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