二回目の異世界では見た目で勇者判定くらいました。ところで私は女です。逆ハー状態なのに獣に落とされた話。

吉瀬

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 時間は少しかかり過ぎたが、予定通りリオネット様達が待っているはずのカフェに向かった。

 そこに近づく前から異様な光景が広がる。

 人・人・人。

 人集りでカフェから溢れている。

「俺行ってくるわ。カリンは潰されるしここで待っとき」

 雨情が突入して暫く、中からリオネット様達が出てきた。

「し、死ぬかと思た……」
「何、やってたんですか?」

 ナルさんとリオネット様は涼しい顔で、アッシャーは「頭いてぇ」と辛そうだ。
 
「色香を使ってファンを獲得してきました。こちらではサブカル小説が私のものしか浸透しておらず、影響力がまだまだだったので。アッシャーはもとより、ナルニッサの小説も広める事にしました」

 ビラっと見せられるファンクラブ申込書……、そんなのさっきまで持ってましたっけ?

 ぐったりした雨情の代わりに、私とアンズで先程の宿に皆を案内した。
 部屋はスイートルームで寝室も各自一部屋ずつ確保できる。これでアッシャーもゆっくりできるだろう。

「さて、それでは次の行動です」

 リオネット様にはそんな気、サラサラも無いようでした。やる気をみなぎらせたリオネット様は止まらない。誰も止められない。
 アッシャーとナルさんはさっき来たばかりなのに各々領地に逆戻り、何かを運ぶらしい。リオネット様本人は謎作業。雨情と私達は魔石のハントをする事に。

「確かに、暗くても見えるエエお目目はもろたんですけどね」

 つい溜息が漏れる雨情は貸与された騎獣に乗り、私はアンズに乗って森に向かった。
 ここがどうやら兄様の森らしい。そこに一刻も早く行けるというのは、私にはありがたい事だった。

「……あんまり奥は行かれへんで。アンズはんがおる言うたかて、ハントは初めての森やし」
「うん」

 それでも見つけてもらえる可能性は、ある。

 見慣れた雰囲気の森とはいえ、私がいた地点とは異なるから無案内だ。真っ暗な森をハンター協会からもらった資料に照らし合わせてウロウロする。
 魔石を集めながら、魔石の多い場所も記録。明日には協会にデータを提供できる。

「魔石、何に使うか知ってる?」
「分からん。けど、必要量は聞いてるし、残りは協会に知らせる許可もでとる」

 雨情が飛び込み、私は魔石を受け取る係。水から上がった雨情を暖めるのはアンズだ。

「もうすぐ、ニイサマに逢えるね」
「うん、……僕、怒られるかな?」
「それは、多分」

 アンズは向こうを飛び出してきた家出獣だ。危険を犯した事自体も叱られるだろうけれど、兄様は森のモノが外に出る事は良しとしていなかったと思う。元々人間である私ならいざ知らず、アンズはどっぷりとこちらの生活にハマっているし、自発的に人助けなどもしてるしで、兄様的にはアウトだと思われる。森のモノとして保護されていた仔達は考えてみれば全て聖獣か瑞獣で、森でよく見かける動物とは違って魔力が強かった。

「やっぱり、お前なんかに妹はやれん!って怒られるよねー」

 え、そっち?ぽぽんっと変身して、アンズは人型の男の子になった。

「アンズ、そんな知識どこから仕入れたの?」
「リオネット!」

 リオネット様に魔カスタムされてってる。

「それは、普通父親が嫁にやるとかの話だよ。それもあっちの世界の……」
「え?カリンは僕のお嫁さんにならないの?」

 やっちゃった。その話題は避けたかったのに。

「えっと」
「僕、カリンのものでしょ?カリンは僕のものになるの嫌なの?」
「嫌、じゃない、けど」
「けど?嬉しくない?」

 アンズの表情が曇った。怒ってるとかじゃなくて、ただ、悲しそうな。

「少し、悩む事があるんだよ」
「何を?」
「上手く言えない」
「上手く言えないの悩むの?」
「……前にアンズが怒ったのと似たようなのだよ。きっと」

 アンズは……今度は音もなく大きく成長して、私を後ろから胸に閉じ込めるように抱いた。

「僕が子供だからかな?悲しい。カリンが悩んでるのがちゃんと分からなくて。もっと大人になって、全部からカリン守れる様になりたい」

 そんな切なそうな声、いつの間に出すようになったんだろう。

 振り返るとアンズが私のおとがいを軽く持った。予感がして目を閉じる。

「……ダメだよ、カリン。雨情がもうすぐ水から上がってくる」

 私、バカだ。全然大人じゃない。

 私の額に軽くキスをして、アンズは元の獣の姿に戻った。

 宿に戻ったのは深夜で、そこから軽く横にはなったけれど、私は眠れなかった。私は自分がどうしたら良いか分かってない。


 翌日、全員寝不足のまま再度城へ突撃。
「主人は本日体調が……」以下略。

 リオネット様はまだまだ余裕の笑み。というか、むしろ楽しそうな黒い笑顔。

「本日はこれを配ります」

 宿に戻ると、リオネット様の寝室には大量の本と機械、そして私達が集めた魔石の山。

「これ、どうしたんですか?」
「アッシャー達に取りに行ってもらった怨嗟を取り除く機械です。これに魔力を補充するために昨晩魔石をお願いしました。本は私が書いたものです。読みますか?」

 小説はナルさんのお話だった。特にいかがわしいものでも無く、前サンダーランドの信条から、それ故に代替わりした事、サンダーランドは豊かで自由で公平で、それは前サンダーランド統治の時代からである事。それ故に『穢れた血』も重用されてきた事。そういう事が書いてある。読みやすく、分かりやすい。そして、最後に申し訳程度に怨嗟除去の機械の使用方法が載っている。取説のオマケに小説が載っている、というていらしい。

「本日は昨晩運んでいただいた怨嗟を取り除く機械を配ります。取説も一緒に配ってください。取説の方載っている小説を広めるのも目的の一つです。公には早々に私達を招き入れなかった事を悔いていただきましょう」

 悔やむ側に私達(除くリオネット様)全員組み入れられてるっぽい。

 ナルさんとアッシャーの色香組はそんな訳で配布部隊として飛び立って行った。そこまでやって影響力を高める理由はよく分からないが、我ら全員リオネット様の駒の様なものです。

 雨情と私達は昨晩の事を魔石ハンター協会に報告、それから魔石マップを提供に行った。雨情は他にも命令をリオネット様から受けてる様で、「また難儀な注文受けてもたー」と冷や汗をかいている。

「魔石の場所のマップ……、一晩でそこまでやる理由はなんだ?」

 ルルド会長は後見人になったからと言って甘くなった訳ではなく、不信感をあらわにしている。

「西でも魔石が水んなかに出来てたさかい、知らせよー思て」
「だから、そこまでやる理由を聞いている。夜のハントは危険だ。そこまでやる必要は無かったはずだ」

 ごもっとも!

「うちでも必要になってん。ほんで取りに行くついでに」
「お前の主人はよっぽどの奴だな」

 それも合ってる!

 「いやいやリオネット様が魔石の在処を広めよと仰った」「他所の貴族がそこまでする意味がわからない」etc。上手く話が進まないまま暫く経って、会長さんが突然苦しみ出した。

「おっちゃん!大丈夫か?」
「お前らがストレスを与えるからだ。持病の腹の痛みだが……、くそ、薬が切れた」
「病院行かな!」
「世話になってるとこは、ちょいと遠い。発作が止むまでやり過ごすしか……」
「俺おぶったるし!行くで!場所言いや!」

 雨情はいつものペースでぴゃっと会長を負ぶって走り出した。

「わー!会長が拉致られた!」
「ち、違います!私追いかけます!」

 やりとり全てを見てた訳ではない協会の人がパニックになり、私は宥めてから追いかけた。病人見たら自分がどう思われるかとか、一緒にいる私達とかポーンっと飛んでしまうのは雨情の欠点かもしれない。

 アンズが臭いで追跡してくれて、ようやくたどり着いた病院には何故かリオネット様がいた。
 そして、その手は何故か会長のお腹に刺さっていた。

「ぎゃー!」
「おや、カリン」

 あまりに冷静に返されて、私は正気に戻った。周りに医師風の白魔道士のおじいちゃんや看護師さん、雨情もいるし……これってもしかしなくても手術?会長さん本人も顔は顰めているが、抵抗はしてない。

「大腸が一部癒着していますね。小石も入ったままだ。ここを切り離して軽く焼いて止血。殺菌してから、一気に回復」

 手を引き抜くと、慣れた感じの看護師さんがバケツを持ってきて、リオネット様はそれで手を清めた。

「はい、治療完了です」

 おじいちゃんのお医者さんは深く感心した様に頷いた。

「流石だ。……他の患者も頼むとしよう」
「一般外来を止めるのも良く無いので、外にテントを張っても構いませんか?」
「うむ、軽いものはワシがテントで診る。貴殿には手術がいる者を任せる。看護師も貸そう」
「ええ。ありがとうございます。受け付けなどにはこちらをお使いください。我が使令です。言葉を理解します」

 リオネット様はそう言って二足歩行のうさぎを五体呼び出した。

「お前達は先生の指示に従いなさい」
「「承知いたしました」」

 そんな先生とリオネット様の会話の横で、雨情達も会話をしている。

「会長はん、具合どうや?」
「痛みが無くなった。そうか、石が入っていたか。助かった」
「ええねん。そん代わり、診療所の外にテント立てる手、貸して欲しいねん。待合やらもいるやろし、あ、テント代は出すで」

 雨情のポケットマネーは相変わらずこうやって消えていくのですね。

「いや、テントはうちのを貸す。うちにも何人か世話になるモンもいるしな。炊き出し隊も出そう」
「おおきにな!ほんで魔石の場所も教えなあかんし……」
「……雨情達が何故夜の一晩であんなマップを作れたか聞いても良いか?わしらはそれが一番引っかかっておる」
「ああ、なるほど。俺もリオネット様に目治してもろて、その時に探す能力つけてもろてん。口で言うより見た方が早いな、ほれ」

 雨情が壁の向こうを透過した物を投射した。

「恐れ入った」

 両手を挙げた会長は呆れた様に呟く。

「せやねん。しかも、タダで治してくれはってんで」
「何故そこまで……?」
「き、貴族ですから!」

 今まで空気だったので、私はそこだけ手をあげて元気よく答えます。一応私も貴族!

「貴族とは、そんな……」
「俺は西の方出身やけど、あっちでもあんな貴族おらへんかったで。せやけど、北やと貴族は民のために働くもんやって考えの貴族がおんねん」

 目でリオネット様を示して、会長は深く感じ入っている。

 会場設営中にホテルから資材としての義眼や義足等、ナルさんが昨晩運んだ物を取りに行き、その後は看護師さん達のお手伝い。つまり、私の役割はうさぎその六。アンズはその七。

 忙しくて良かった。私はアンズとの事を考えることは暫く放棄する事にした。
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