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その言葉で受付の女性が驚いた顔になった。
「雨情?では、もしやカリン・マンチェスター様……?」
名乗ってないのに女性が呟いた。なんで分かったの?
不思議な気持ちのままスムーズに最上階のスイート二部屋の鍵は手に入り、私達は宿を後にした。
「この地域は貴族はんが偉い。異世界人やらには肩身が狭い。あの受付のねーちゃんは、そんな地域であえて異世界人っぽい容姿の者が来たっちゅう事に対して『そいつらしか雇えない奴が来た』んやなくて、『それでも欲しい人材を寄越してきた』んやと判断したんやろな。ほんで後から出てきたんは支配人や。昨日のパーティーの話がちゃんと耳に入ってる情報収集能力あれば、俺らの容姿でマンチェスター……、女王陛下の右腕の関係者やって名前付きで分かる」
「ほえー」
そんな読み合いが……。
「かと言って、異世界人の容姿を受け入れるっつう事は地元では歓迎されてはおらん。商人としての腕があって柔軟。隙は見せられへんけど、かなり融通はしてもらえる、と見た。」
「むつかしー」
ほんと、アンズに同意。
「ほな、次はもっと難しいとこ行くで」
おののきながら、雨情について行った先は……、ハンターの登録所だ。
中は西と大差ない雰囲気で、入った瞬間値踏みされてる感じがより強い。
雨情は事前に作成してあった書類……西での経歴やら、あちらからの推薦状を提出したが。
「こっちでの後見人は?」
「おらん」
「じゃあ、無理だ」
けんもほろろとはコレの事だ。
「なんでやねん」
「……ここじゃあ、平民にとって森は大事な後ろ盾だ。簡単に渡せるもんじゃない。後見人を連れて来てもらわなけりゃ……」
そこに人が入ってきて、受付のおじさまに耳打ちをした。
「……そうか。それなら、帰ってもらおう。あんたら、よその貴族の身内らしいな。悪いがもう後見人は見つからんだろう。貴族の命令を持ってくる事だ。ロイヤルグレイス関係の貴族だぞ」
雨情は舌を出した。
「あかんか」
「悪いな。ここじゃお上に睨まれたら、生きていけん」
雨情は渋い顔をして、私を見た。
「リオネット様がロイヤルグレイスに振られた情報回っとるらしい」
「そういう事だ。気も使わせた様だな」
「ええねん」
なるほどと、これは分かった。先にハンター登録をして宿に回ればワンチャン手に入れられたが、それをするとこのハンター組合がヤバかった。
一旦登録されると撤回はできない。何故許可を出したかと問われた時に『知らなかった』というのが一番悪手だった。それは情報に疎いという事になり、ハンターの存在意義にまで波及しかねない。
「何か、組合一丸でしゃあないなってなる様な功績が要る」
「功績……、宝石の在処は?」
小さな声で提案するも雨情は首を振った。
「先ず森に入れななんとも。後ろ盾ない者の話聞いて宝石探す奴探すか……」
ハンター免許を持っていて、かつお金で動いてくれそうで、それでいて、その功績を私達のだと証言してくれる人……、難易度高いな。
2人でこそこそ会議をしていると、暇そうにしていたアンズが、ぴこーんと音がしそうな顔で何かを見つけた。
「ねー、あの人に頼むのは?」
アンズが指さしたのは、ちょっと膨よかな初老のおじいさんだ。しかも、さっきから時々お腹をさすっていて、薬まで飲んでる。
雨情は目を細めた。
「あの人が……、ここでのいっちゃん偉い人やな。魔力の桁がちゃうし、スキルも多い。歴戦のハンターやけど、引退済みのご意見板、やな」
そのおじいさんは「ほう」と言って、こちらを見た。
「いい目をしてるじゃねぇか。だが、ワシはこの通り病気持ちで森には行けん」
だよね。と思って雨情を見たが、それは雨情も同意だった様だ。
「違うよ」
アンズはのほほんと反論する。
「前に助けてあげたから、その時のお礼してって頼むの」
「助けた?」
おじいさんも怪訝な顔だ。
「うん。森で。ルルドって言ってたよーな」
「確かにあの人はルルドさんだが……」
受付のおじさんは戸惑う様にそう言ったが、ルルドさん本人は固まっていた。
「アンズ、前に会ったの?」
「ニイサマのとこ出てから、ウロウロしてた時にね。どっからか落ちたのか、木に刺さってた。だから下ろして、街に近いとこまで送ったのー」
「カリンにしてもらった昔話でね、いいお爺さんはラッキーになるんだよ!」とアンズは雨情に力説していた。浦島太郎やかぐや姫が紐付けされなくて良かった。
「あの時の、瑞獣か……」
ようやく絞り出したルルドさんは少し震えていた。
「いや、会長。どう見てもあの子は人だろう。瑞獣を従えるハンターなんてあり得ない。それこそ獣の一族サンダーランド公ぐらいじゃ……」
その場にいた他のハンターがそう口を挟んで、受付のおじさんが手で制した。
「……そこの女はカリンと呼ばれていた。従えてるのはカリン・マンチェスターだ!異世界から来た女は特異。聖女に能わないとは言え、勇者の格付は二位。そして、黒魔道士を拝命した能力の高さ!あり得なくは無い」
なんか、私すごい経歴ってぽくなってる!
「何故、ハンターになど登録を……」
「俺らは魔石を使うからや。ロイヤルグレイス公に許可もろたかて、勝手に取り放題やったらここが困るやろ?森のルールも教えてもうとかへんと、育成中のとこ荒らしてまうかもしれん。リオネット様が振られたって情報来てるみたいやけど、俺らは女王命で来とるんやから時間はかかっても許可は出んねん」
ルルドさんは目を瞑った。
「ワシが後見人をやろう。命の恩人なら理由は充分だ」
しん、と場が静かになった。
「良かったじゃーん!」
そこにアンズの明るい声が響いた。
「雨情?では、もしやカリン・マンチェスター様……?」
名乗ってないのに女性が呟いた。なんで分かったの?
不思議な気持ちのままスムーズに最上階のスイート二部屋の鍵は手に入り、私達は宿を後にした。
「この地域は貴族はんが偉い。異世界人やらには肩身が狭い。あの受付のねーちゃんは、そんな地域であえて異世界人っぽい容姿の者が来たっちゅう事に対して『そいつらしか雇えない奴が来た』んやなくて、『それでも欲しい人材を寄越してきた』んやと判断したんやろな。ほんで後から出てきたんは支配人や。昨日のパーティーの話がちゃんと耳に入ってる情報収集能力あれば、俺らの容姿でマンチェスター……、女王陛下の右腕の関係者やって名前付きで分かる」
「ほえー」
そんな読み合いが……。
「かと言って、異世界人の容姿を受け入れるっつう事は地元では歓迎されてはおらん。商人としての腕があって柔軟。隙は見せられへんけど、かなり融通はしてもらえる、と見た。」
「むつかしー」
ほんと、アンズに同意。
「ほな、次はもっと難しいとこ行くで」
おののきながら、雨情について行った先は……、ハンターの登録所だ。
中は西と大差ない雰囲気で、入った瞬間値踏みされてる感じがより強い。
雨情は事前に作成してあった書類……西での経歴やら、あちらからの推薦状を提出したが。
「こっちでの後見人は?」
「おらん」
「じゃあ、無理だ」
けんもほろろとはコレの事だ。
「なんでやねん」
「……ここじゃあ、平民にとって森は大事な後ろ盾だ。簡単に渡せるもんじゃない。後見人を連れて来てもらわなけりゃ……」
そこに人が入ってきて、受付のおじさまに耳打ちをした。
「……そうか。それなら、帰ってもらおう。あんたら、よその貴族の身内らしいな。悪いがもう後見人は見つからんだろう。貴族の命令を持ってくる事だ。ロイヤルグレイス関係の貴族だぞ」
雨情は舌を出した。
「あかんか」
「悪いな。ここじゃお上に睨まれたら、生きていけん」
雨情は渋い顔をして、私を見た。
「リオネット様がロイヤルグレイスに振られた情報回っとるらしい」
「そういう事だ。気も使わせた様だな」
「ええねん」
なるほどと、これは分かった。先にハンター登録をして宿に回ればワンチャン手に入れられたが、それをするとこのハンター組合がヤバかった。
一旦登録されると撤回はできない。何故許可を出したかと問われた時に『知らなかった』というのが一番悪手だった。それは情報に疎いという事になり、ハンターの存在意義にまで波及しかねない。
「何か、組合一丸でしゃあないなってなる様な功績が要る」
「功績……、宝石の在処は?」
小さな声で提案するも雨情は首を振った。
「先ず森に入れななんとも。後ろ盾ない者の話聞いて宝石探す奴探すか……」
ハンター免許を持っていて、かつお金で動いてくれそうで、それでいて、その功績を私達のだと証言してくれる人……、難易度高いな。
2人でこそこそ会議をしていると、暇そうにしていたアンズが、ぴこーんと音がしそうな顔で何かを見つけた。
「ねー、あの人に頼むのは?」
アンズが指さしたのは、ちょっと膨よかな初老のおじいさんだ。しかも、さっきから時々お腹をさすっていて、薬まで飲んでる。
雨情は目を細めた。
「あの人が……、ここでのいっちゃん偉い人やな。魔力の桁がちゃうし、スキルも多い。歴戦のハンターやけど、引退済みのご意見板、やな」
そのおじいさんは「ほう」と言って、こちらを見た。
「いい目をしてるじゃねぇか。だが、ワシはこの通り病気持ちで森には行けん」
だよね。と思って雨情を見たが、それは雨情も同意だった様だ。
「違うよ」
アンズはのほほんと反論する。
「前に助けてあげたから、その時のお礼してって頼むの」
「助けた?」
おじいさんも怪訝な顔だ。
「うん。森で。ルルドって言ってたよーな」
「確かにあの人はルルドさんだが……」
受付のおじさんは戸惑う様にそう言ったが、ルルドさん本人は固まっていた。
「アンズ、前に会ったの?」
「ニイサマのとこ出てから、ウロウロしてた時にね。どっからか落ちたのか、木に刺さってた。だから下ろして、街に近いとこまで送ったのー」
「カリンにしてもらった昔話でね、いいお爺さんはラッキーになるんだよ!」とアンズは雨情に力説していた。浦島太郎やかぐや姫が紐付けされなくて良かった。
「あの時の、瑞獣か……」
ようやく絞り出したルルドさんは少し震えていた。
「いや、会長。どう見てもあの子は人だろう。瑞獣を従えるハンターなんてあり得ない。それこそ獣の一族サンダーランド公ぐらいじゃ……」
その場にいた他のハンターがそう口を挟んで、受付のおじさんが手で制した。
「……そこの女はカリンと呼ばれていた。従えてるのはカリン・マンチェスターだ!異世界から来た女は特異。聖女に能わないとは言え、勇者の格付は二位。そして、黒魔道士を拝命した能力の高さ!あり得なくは無い」
なんか、私すごい経歴ってぽくなってる!
「何故、ハンターになど登録を……」
「俺らは魔石を使うからや。ロイヤルグレイス公に許可もろたかて、勝手に取り放題やったらここが困るやろ?森のルールも教えてもうとかへんと、育成中のとこ荒らしてまうかもしれん。リオネット様が振られたって情報来てるみたいやけど、俺らは女王命で来とるんやから時間はかかっても許可は出んねん」
ルルドさんは目を瞑った。
「ワシが後見人をやろう。命の恩人なら理由は充分だ」
しん、と場が静かになった。
「良かったじゃーん!」
そこにアンズの明るい声が響いた。
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