上 下
51 / 61

51

しおりを挟む
 その言葉で受付の女性が驚いた顔になった。

「雨情?では、もしやカリン・マンチェスター様……?」

 名乗ってないのに女性が呟いた。なんで分かったの?

 不思議な気持ちのままスムーズに最上階のスイート二部屋の鍵は手に入り、私達は宿を後にした。

「この地域は貴族はんが偉い。異世界人やらには肩身が狭い。あの受付のねーちゃんは、そんな地域であえて異世界人っぽい容姿の者が来たっちゅう事に対して『そいつらしか雇えない奴が来た』んやなくて、『それでも欲しい人材を寄越してきた』んやと判断したんやろな。ほんで後から出てきたんは支配人や。昨日きんののパーティーの話がちゃんと耳に入ってる情報収集能力あれば、俺らの容姿でマンチェスター……、女王陛下の右腕の関係者やって名前付きで分かる」
「ほえー」

 そんな読み合いが……。

「かと言って、異世界人の容姿を受け入れるっつう事は地元では歓迎されてはおらん。商人としての腕があって柔軟。隙は見せられへんけど、かなり融通はしてもらえる、と見た。」
「むつかしー」

 ほんと、アンズに同意。

「ほな、次はもっと難しいとこ行くで」

 おののきながら、雨情について行った先は……、ハンターの登録所だ。
 中は西と大差ない雰囲気で、入った瞬間値踏みされてる感じがより強い。

 雨情は事前に作成してあった書類……西での経歴やら、あちらからの推薦状を提出したが。

「こっちでの後見人は?」
「おらん」
「じゃあ、無理だ」

 けんもほろろとはコレの事だ。

「なんでやねん」
「……ここじゃあ、平民おれらにとって森は大事な後ろ盾だ。簡単に渡せるもんじゃない。後見人を連れて来てもらわなけりゃ……」

 そこに人が入ってきて、受付のおじさまに耳打ちをした。

「……そうか。それなら、帰ってもらおう。あんたら、よその貴族の身内らしいな。悪いがもう後見人は見つからんだろう。貴族の命令を持ってくる事だ。ロイヤルグレイスうち関係の貴族だぞ」

 雨情は舌を出した。

「あかんか」
「悪いな。ここじゃお上に睨まれたら、生きていけん」

 雨情は渋い顔をして、私を見た。

「リオネット様がロイヤルグレイスに振られた情報回っとるらしい」
「そういう事だ。気も使わせた様だな」
「ええねん」

 なるほどと、これは分かった。先にハンター登録をして宿に回ればワンチャン手に入れられたが、それをするとこのハンター組合がヤバかった。
 一旦登録されると撤回はできない。何故許可を出したかと問われた時に『知らなかった』というのが一番悪手だった。それは情報に疎いという事になり、ハンターの存在意義にまで波及しかねない。

なんか、組合一丸でしゃあないなってなる様な功績が要る」
「功績……、宝石の在処は?」

 小さな声で提案するも雨情は首を振った。

「先ず森に入れななんとも。後ろ盾ない者の話聞いて宝石探す奴探すか……」

 ハンター免許を持っていて、かつお金で動いてくれそうで、それでいて、その功績を私達のだと証言してくれる人……、難易度高いな。

 2人でこそこそ会議をしていると、暇そうにしていたアンズが、ぴこーんと音がしそうな顔で何かを見つけた。

「ねー、あの人に頼むのは?」

 アンズが指さしたのは、ちょっと膨よかな初老のおじいさんだ。しかも、さっきから時々お腹をさすっていて、薬まで飲んでる。
 雨情は目を細めた。

「あの人が……、ここでのいっちゃん偉い人やな。魔力の桁がちゃうし、スキルも多い。歴戦のハンターやけど、引退済みのご意見板、やな」

 そのおじいさんは「ほう」と言って、こちらを見た。

「いい目をしてるじゃねぇか。だが、ワシはこの通り病気持ちで森には行けん」

 だよね。と思って雨情を見たが、それは雨情も同意だった様だ。

「違うよ」

 アンズはのほほんと反論する。

「前に助けてあげたから、その時のお礼してって頼むの」
「助けた?」

 おじいさんも怪訝な顔だ。

「うん。森で。ルルドって言ってたよーな」
「確かにあの人はルルドさんだが……」

 受付のおじさんは戸惑う様にそう言ったが、ルルドさん本人は固まっていた。

「アンズ、前に会ったの?」
「ニイサマのとこ出てから、ウロウロしてた時にね。どっからか落ちたのか、木に刺さってた。だから下ろして、街に近いとこまで送ったのー」

 「カリンにしてもらった昔話でね、いいお爺さんはラッキーになるんだよ!」とアンズは雨情に力説していた。浦島太郎やかぐや姫が紐付けされなくて良かった。

「あの時の、瑞獣か……」

 ようやく絞り出したルルドさんは少し震えていた。

「いや、会長。どう見てもあの子は人だろう。瑞獣を従えるハンターなんてあり得ない。それこそ獣の一族サンダーランド公ぐらいじゃ……」

 その場にいた他のハンターがそう口を挟んで、受付のおじさんが手で制した。

「……そこの女はカリンと呼ばれていた。従えてるのはカリン・マンチェスターだ!異世界から来た女は特異。聖女にあたわわないとは言え、勇者の格付は二位。そして、黒魔道士を拝命した能力の高さ!あり得なくは無い」

 なんか、私すごい経歴ってぽくなってる!

「何故、ハンターになど登録を……」
「俺らは魔石を使うからや。ロイヤルグレイス公に許可もろたかて、勝手に取り放題やったらここが困るやろ?森のルールも教えてもうとかへんと、育成中のとこ荒らしてまうかもしれん。リオネット様が振られたって情報来てるみたいやけど、俺らは女王命で来とるんやから時間はかかっても許可は出んねん」

 ルルドさんは目を瞑った。

「ワシが後見人をやろう。命の恩人なら理由は充分だ」

 しん、と場が静かになった。

「良かったじゃーん!」

 そこにアンズの明るい声が響いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

大好きだけど、結婚はできません!〜強面彼氏に強引に溺愛されて、困っています〜

楠結衣
恋愛
冷たい川に落ちてしまったリス獣人のミーナは、薄れゆく意識の中、水中を飛ぶような速さで泳いできた一人の青年に助け出される。 ミーナを助けてくれた鍛冶屋のリュークは、鋭く睨むワイルドな人で。思わず身をすくませたけど、見た目と違って優しいリュークに次第に心惹かれていく。 さらに結婚を前提の告白をされてしまうのだけど、リュークの夢は故郷で鍛冶屋をひらくことだと告げられて。 (リュークのことは好きだけど、彼が住むのは北にある氷の国。寒すぎると冬眠してしまう私には無理!) と断ったのに、なぜか諦めないリュークと期限付きでお試しの恋人に?! 「泊まっていい?」 「今日、泊まってけ」 「俺の故郷で結婚してほしい!」 あまく溺愛してくるリュークに、ミーナの好きの気持ちは加速していく。 やっぱり、氷の国に一緒に行きたい!寒さに慣れると決意したミーナはある行動に出る……。 ミーナの一途な想いの行方は?二人の恋の結末は?! 健気でかわいいリス獣人と、見た目が怖いのに甘々なペンギン獣人の恋物語。 一途で溺愛なハッピーエンドストーリーです。 *小説家になろう様でも掲載しています

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

処理中です...