それなりに怖い話。

只野誠

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しかいのはし

しかいのはし

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 少女、いや、もうその時、彼女は大学生だったので、ここはで女性と言ったほうが良いか、彼女は当時実家暮らしの大学生だった。
 彼女が実家でくらいているとき、日が暮れ夜が深まるとたまにそれは現れるのだという。

 必ず視界の左端。

 本当に目に見えるか見えないか、そんなギリギリの場所を白い靄のような人の顔のようなものが見える。
 それが見えるのはだいたい夜の九時以降。

 自分の部屋ではまず見えない。
 廊下に出るとたまに。
 夜に一階の台所へ行くと頻繁に。

 それは彼女の視界の左端に白い靄のようなものとして見えるのだ。

 彼女はそれを不気味に思うも、特に何もされないので、それほど気にしてはいなかった。
 あまり記憶には残っていないらしいが、下手をすれば中学生の頃ぐらいから、それは彼女の視界の隅にあられていたとのことだ。

 後、しいてそれが現れる条件を挙げるなら、先に記した通り、夜九時以降。そして、彼女が一人の時、特に台所で頻繁に現れる、とのことだ。
 夜に夜食でも作ろうものなら、まず間違いなく、それは彼女の視界の左側の隅に居座るのだという。

 彼女も何となくお化けなのだろう、そう思ってはいたが、数年もの間、それを見てきているので、そういうものだろう、という認識のほうが強かった。
 なので、それが見えたからと言って、彼女は驚きはするものの、恐れたり慌てたりするようなものでもなかった。

 その日も彼女は試験勉強のために夜遅くまで起きていた。
 目を覚ますためにコーヒーでも飲もうと、一階の台所へコーヒーを淹れにいっていた時だ。
 ヤカンに水をいれ、お湯を沸かしているとき、左側の視界の端に、いつもの靄が居た。
 その時は何となく気になったので、気づかないふりをしてその靄を観察する。
 
 もちろん、視界の端なのでぼやけてよくは見えない。
 それでも、それが人の顔をしていることは分かっていたことだ。
 そして、一生懸命に口を動かしている。
 なにかを自分に言っているのだと、彼女は思った。

 彼女は家に出るので先祖か何かの霊だと思ってた。
 なので、何か言いたいことがあればもっとしっかり伝えてくれればいいのに。
 そんなことを考えていた。
 
 お湯が沸き、コーヒーを淹れそれを持って二階の自分の部屋に帰る。
 その頃にはもうその靄は消えている。

 ふと自分の机の上の鏡を見て、あの白い靄がしていた口の形を思い出す。
 自分でその口の形を作ってみる。
 その口の形は二つだけで、「い」と「う」の母音だけだった。
 だから、なんとか彼女にも分かったのかもしれない。
 それに「い」の口の形の時のほうが多い。

 母音だけの文字にするなら「いうい」といった感じだ。
 実際に彼女も「いうい」と発音して口の形を鏡で見てみると、あの白い靄がしていた口の形によく似ている。
 ここまでくると彼女も気になって仕方がない。
 必死に彼女は三つも文字言葉を探す。
 
 だが母音も分かっているが候補も多い。
 それに試験勉強もしなければならない。
 当てはまる言葉を考えてながらも彼女は試験勉強に手を付ける。

 試験勉強をしている間は、思いつかなかったが、いざ寝るときとなり、ベッドにもぐりこんだ時だ。
 ふと思いついてしまう。

 あの白い靄の伝えたかった言葉が「にくい」つまりは「憎い」であると。
 


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