それなりに怖い話。

只野誠

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おへや

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 その男が住んでいる部屋は所謂、汚部屋と呼ばれる足の踏み場もないような汚れた部屋だった。
 様々なものが、辺りに散らかり散乱し、積み重なっている。
 悪臭も酷い。
 
 男も掃除しなくては、と思ってはいても仕事が忙しく、また時間も取れずにほっておくしかない状態だった。
 そもそも、この部屋も寝るだけに帰ってきているような物で、平日はほとんど滞在してもいない。
 会社で夜遅くまで働き、この部屋に寝に帰ってくる。
 というだけの部屋だ。

 それでもここまで部屋が汚れるのだから、知らず知らずのうちにゴミをため込んでいるのだろう。
 例えば、コンビニ弁当を食べた後のゴミとか。

 そこら中に置かれている小さなビニール袋は全部それかもしれない。
 流石に虫が湧くか、と男も思っているが、どういう訳か、この部屋ではコバエ一匹見ない。

 コバエすら湧かないような環境なのか、それとも窓を開けてないので虫が入り込んでいないのか。
 まあ、恐らくは後者だ。

 なにせ、ベランダに繋がる出入口には腰の高さくらいまで段ボールやらビニール袋などが積み重なっている。
 これでは窓を開けることもできない。
 ベランダがどうなっているのか、男にはそれもわからない。
 もしかしたら、年単位で干されている洗濯物があるかもしれない。

 それらを考えると男も部屋を片さなくては、とは思うのだが、その気力も時間もやはりないのだ。
 ついでに、休日は泥のように眠りについて夕方頃に目が覚める。

 さすがに色々と限界が近い。
 男もそのことはわかってはいるが、どうしていいか、その判断力すらなくなっている。

 その日も終電で部屋になんとか男はたどり着いた。
 さっさとシャワーを浴びて寝よう。
 男はそう判断する。
 水回りだけはどうにか綺麗にしてある。
 ただ脱衣所は足の踏み場がない。

 シャワーを浴びた後、浴室で体を拭き、乾くまで椅子の上で過ごす。
 それが男の日常だった。
 
 男は改めて自分の部屋を見る。
 ベランダに洗濯物を干せないので、部屋の中にハンガーにかけてある洗濯物が干してある。
 それをエアコンで無理やり除湿して乾かしている。
 そのせいで床も壁もモノで溢れている。

 とても人間が住む部屋ではない。
 次の週末こそは、と男は決意する。

 その時、ゴミの塊の一角が崩れる。
 そして、何かがゴミをかき分けて移動する。
 それはすぐにゴミの下にもぐり見えなくなる。

 かなりの大きさだ。少なくとも虫ではない。
 大きなネズミか子犬か子猫、それくらいの大きさがあった。
 男はギョッとして、椅子の上で座りながらつま先立ちする。
 そして、なにか武器になる様な、棒のような物を探す。

 ゴミはたくさんあるのにそんなものは何一つない。
 男はとりあえず足元にあったゴミを拾って、なにかが潜り込んだと思える付近に投げる。

 反応はない。

 男は仕事用のカバンの中に折り畳み傘があったことを思い出し、すぐに取り出す。

 柄の部分だけを伸ばし、傘を広げずに、それで辺りのゴミをつつきながら、まずは着替えを取る。
 男はまだ裸だった。

 何とか着替えを取り、飛び跳ねて椅子の上まで、戻り椅子の上で服を着る。
 その時、また何かがゴミの中を走って行った。

 何かいることは間違いがない。

 男はこのままで寝れない、と男は一旦財布を持って外出し、コンビニへと向かう。
 そこで大量のごみ袋を買ってくる。
 そして、真夜中にも関わらず掃除を始める。

 日が昇り、出勤時間になっても掃除が終わらない。
 男は一睡もしてないが、部屋になにか、大きな生物がいると思うと居ても立ってもいられない。

 気づくとスマホが鳴り響いている。
 会社からの電話だ。

 男は電話に出て今日は休ませてください、と言ってスマホの電源を落とす。

 男の中ではもう仕事どころではない。
 この部屋に何かいると言うことの方が問題だった。

 結局、お部屋からゴミがなくなったのは夕方ごろだ。
 大家に無理いって、ゴミ収集の日ではなかったが、ゴミを出させてもらった。
 今は、まだ汚くはあるが人の住める部屋ではある。

 問題は、男が見たそこそこ大きな生物らしき存在は発見できなかったことだ。

 男は後日、会社を辞めて、その部屋も引き払った。
 そのきっかけにはなったようだ。



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▼【作品集】

▽【連載中】
学院の魔女の日常的非日常
ミアという少女を中心に物語は徐々に進んでいくお話。
※最初のほうは読み難いかもしれません。


それなりに怖い話。
さっくり読める。


絶対少女議事録
少女と少女が出会い運命が動き出した結果、足を舐めるお話。



▽【完結済み】

一般人ですけどコスプレしてバイト感覚で魔法少女やってます
十一万字程度、三十三話
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最初から最後までコメディ。


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